2017年02月10日
●和文露訳要覧第175回
ある翻訳家(大学教授)が和訳をする上で、できるだロシア語の名詞は日本語の名詞、動詞は動詞と訳すのが精確な訳だと翻訳論を述べたことがあるが、それは間違いである。ロシア語と日本語は構造的にまったく違う。そのため翻訳には機能文法的なアプローチが欠かせない。原文の意図することを精確に訳すのであれば、品詞の一致を特に考える必要はない。一字一句翻訳において品詞の一致をするというのであれば、それは曲芸のようなものであり、多くの場合文意がぎこちなくなる。そういう盲信から離れて、文意の通る訳を目指すべきである。
出題)「捜査員たちが彼の後を追って駆け出し、もう追いつこうとしたその時、彼は上着の下からピストルを取りだした」をロシア語にせよ。
Следователи за ним побежали и когда его догонят, он вытащил пистолет из-под куртки.
それぞれ具体的な一回の動作なのでсвとしました。よろしくお願いします。
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お答えだと、追いついたとなっていますが、出題は追いついてはいないのです。私の答えは、Оперативники кинулись за ним и уже настигали его, когда он внезапно выхватил из-под куртки пистолет.
настигатьは志向の動詞。
Оперативники побежали за ним, и в тот момент, когда они почти поймали его, он вынул пистолет снизу из пиджака.
全部совです。
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お答えだとジャケットの内側からでなく、文字通り下からとなり、ズボンの表面にピストルを張り付けているなら別ですが、考えにくいと思います。追いつくと捕まえるは違います。
ロシア文学を翻訳した昔の岩波文庫の中にも、日本語としては悪文の典型のような訳文が頻出していたのを思い出しました。なるほど、そういう背景があったのですね。
Оперативники начали бежать за ним, и в тот момент, когда они почти его догнали, он достал пистолет из-под пиджака.
宜しく御願い致します。
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almostという意味では、почтиは否定形と結び付くのが普通です。Она почти не изменилась внешне, только сильно похудела.(彼女は外見はほとんど変わっていなかった。ただひどくやせてしまった)。それとпобежатьを使った方が自然です。『和文露訳指南』7-1項を徹底的にやった方がよいでしょう。志向の動詞を覚えると自然なロシア語会話をする上で、非常に役に立ちます。
Он вынул пистолет
из-подо куртки
именно в тот момент,
когда сыщики
бросились бежать за
ним и чуть не его
догоняли.
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志向の動詞を使っているので、基本的には出題の意図は正しく伝わっていると思います。ただв тот момент, когда(その瞬間)が示すのが、二つの動作、駆け出すのと追いつこうとするを示すのは論理的に無理があるのではないかと思います。つまりв тот моментはピストルを取り出す瞬間とすれば、よいと思います。それとчуть не(あやうく~する)は完遂の意味なので完了体と共に使うべきです。つまり志向の動詞を使っているのですから、чуть неは使うべきではありません。