2009年06月01日

●新帯研 第49回

1994年ウラルの世界最大のチタン工場に出張した時に、当時は不景気でその工場でも民需転換が叫ばれていた。工場付属の展示室でチタンの板が何個か入った防弾チョッキのほかに、チタンの雪かきがあった。あまりしげしげと見ていたらお土産にくれるという。結局軽井沢に別荘があるという重役が一人で何個かもらってホクホクして帰って行った。軽くていいとのことだった。
工場と言えば、1985年ごろ工具の買い付けで何度かモスクワの工具工場で商談をした。工場長室に案内されるのだが、何度か、奥の部屋で接待を受けたことがある。工場長の部屋となると、会議ができるような設備はともかく、いくつかの電話(中には共産党幹部と直結している電話もある)、トイレ、ベッド、バス完備で、接待用の部屋にはウオッカ、キャビアなんでもそろっていた。少しずれるが、その頃のことを思い出すと、1970年代初めはテレックスの全盛だった。リボンに最高6つ穴があくのだが、その空き具合でエムだとか分かる。右に3つ穴があくとエムかピリオドというのを今でも覚えている。このテープは1回でモスクワとつながればよいのだが、午後6時ごろ(モスクワは昼12時)は回線が混む。そのためなかなかつながらない。つながっても途中で切れるとまた初めからやり直しである。船のスペックは送信時間だけで1時間というのがざらにあり、途中で切れてもいいように番号を振って5つぐらいに分けて送信していた。このくらい長いとテープを巻いておくと途中でこんがらがって切れるもととなる。それで先輩から教わったのだが8の字にまくと途中でこんがらがらずに切れない。こういうテクニックが伝承されないと思うとちょっと淋しい。今回の課題は、
- Слышь, тёлка! Как насчёт рублёвого покрытия?
設問)和訳せよ。オチを別に解説してもよい。

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2009年06月02日

●新帯研 第50回

ソ連に初めて出張した時に驚いたのは、ウクライナホテルのエレベーターおばさんである。エレベーターの降りる階を客が勝手に押させない仕組みになっているのだ。パンストでもプレゼントすると、言われないでも優先的に他の客を尻目に押してくれる。失業対策なのだろう。このエレベーターの遅いのには頭にくる。自分が36階で、アテンドする客が26階だとすると、朝食で待ち合わせて朝食の階まで行くのに30分はかかった。その代りウクライナホテルのトイレは広大で、非常に気持ちがよかった。ただ紙はメモ用紙のようで痔主にはつらかろう。私は何時もアテンド客のためにロシアへの出張時トレペを2個は持参していた。この他にソ連時代の無駄の最たるものは、女中などは暖房を取るのにガスレンジの火を出しぱなしにするのである。今回の課題は、
- За что уволили редактора страницы юмора «Литературной газеты»?
- В преддверии ⅩⅩⅤ съезда партии он предложил ввести новую рубрику: «Опять двадцать пять!»
設問)訳せ。オチを別に解説してもよい。

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2009年06月04日

●新帯研 第51回

ロシアの呪や迷信などに関する本を読むと、килаという言葉が出てくる。これはразличного происхождения опухоли, в том числе грыжи и абсцессы(ヘルニアや膿瘍を含むいろいろなところにできる腫れ)で、手、足、顔、のど、肛門、性器にでき、耐え難い痛みや原因不明の憂鬱感を伴うとある。なにか帯状疱疹(ヘルペス)の症状に似ているような気がする。帯状疱疹というのは子供の時になった水痘と同じウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が、神経の付け根に残っていて体調が悪いと活性化されて1本の神経支配領域に添って出来る。3~5日位で皮膚の表面に現れて初期は赤い皮疹を作り1~2日位すると水膨も出来る。皮膚に出来る前から痛みが出現することが多く、痛みの強さは非常に耐えられない強い痛みの人と我慢できる程度の人と稀に全く痛みを伴わないこともあるというからこれではないか。килаはロシアではこれは魔女がかける呪の一種であるとされた。
革命前のロシアの農村では病気というのは、呪によるか、体の中に虫が侵入することによって引き起こされると考えられた。虫歯もその一つで、歯虫зубной червякが歯の間に住みつき、食い荒らすことによって起こるとされた。この虫は白っぽくて頭部が黒いという。ちなみに現代のロシア語ではкариес зубаという。日本語では虫歯と逆になっているのも面白い。
ロシア人と挨拶するときにドアの敷居越しにはするなと言われ、悪魔が来るからという説明を受けたことがある。最近Будурの本を読んでいて、ロシアの人々の考えではдверной проём представлялся границей между своим и чужим миром. Выходя из двери во двор, человек встречается лицом к лицу с враждебными силами, поэтому при выходе из дома необходимо было защитить себя молитбой.(ドア口は自分の属する世界と異世界との境界であるとされた。ドアから中庭に出ると、人は敵対する勢力と面と向かって向き合うことになる。それで家から出るときには自分を祈りで守らなければならなかったのである)
犬が穢れたものであり、教会に入れてはならないとされているのは、ロシアの民衆が信ずるところによると、犬はもともと裸で創造された。悪魔が犬を誘惑し、冬の寒さで脅して暖かい毛皮を約束した。それにつられて犬は最初の創造された人間に悪魔が近づくことを許し、悪魔は人間をつばと痰で穢した。それゆえ犬の毛皮は穢れており、教会に犬を入れることはできないのであると。ただ猫を協会に入れるのはよいとされている。今回の課題は、
- Какая разница между уткой обыкновенной и журналистской? – спросили поляка.
- Первую позывают «тась-тась-тась», а вторую – «ТАСС – ТАСС – ТАСС»
設問)訳せ。オチを別に解説してもよい。

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2009年06月08日

●新帯研 第52回

年鑑のЯпонияで使われている日本語をロシア語で表記する方法にПоливановкая транскрипция (Е. Д. Поливанов 1891~1938)というのがある。コンラッドの和露辞典でも採用されており、非常に理にかなっている面も多いと思う。主な特徴を挙げると、
オ(ヲ)о、シси、チти、ツцу、ハха、フфу、ヨё (йо)、ザдза、ジ(ヂ)дзи、ズ(ヅ)дзу、チャтя、チュтю、ジャ(ヂャ)дзя、ワ(ヴァ)ва、チェтеである。強いてコメントすれば、ジとヂ、ズとヅ、ジャとヂャが同じ表記だが、現代標準日本語(高知弁では使い分けるというが)においては発音で区別しないが、活用などでは別表記(例えばджа, джиとかдя, диなど)にしたほうがよいと思われる。「つづ(続)ける」、「ずつ」などという例もある。それとは別に、日本語の文字もすべての日本語の発音を表記できるわけではない。たとえば、「未曾有の出来事」は、「ミゾーウ」であって、「ミゾー」ではない。今回の課題は、
После просмотра фильма мужик жалуется другому:
- Как жаль, что мне не 15 лет.
- Почему?
- Меня бы на этот фильм не пустили.
設問1) 和訳せよ。
設問2)「時計6個」を露訳せよ。
設問3)22 сутокはロシア語として正しいか?
設問4)次の文はロシア語として正しいか?
Вопрос обсуждался на специальном совещании, где было принято развёрнутое решение.

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2009年06月25日

●新帯研 第53回

最近ロシア語中級向けのよい参考書が出版されてきたので、それに基づいてどう初級以降の勉強を独学で続けていくか書いておく。ロシア語の発話能力(和文露訳)をつけるには、一般的に、アルファベットの書き方をマスターし(できれば筆記体。アルファベットが書けないと文や語彙の暗記ができない)、初級文法やロシア語入門のような参考書を終えた後、次のような勉強をすることになる。

1) 入門書や会話集などで挨拶などの決まり文句を覚える。
2) 熟語や慣用句、ことわざを覚える。(ここでいう熟語はустойчивые словосочетания「安定的語結合」のことで、нарушать график + 生格の類)
3) 動詞の体の用法を十分理解する。これが理解できていないと決まり文句や、習慣的にとか一般的にこうだという不完了体の動詞しか使えず、それ以外の和文露訳ができないことになる。
4) 文章のロシア語をそのまま理解する練習をする(頭ごなし和訳の練習)
5) 壁に向かってロシア語を話すわけではないので1)や2)だけではだめで、聞き取りができるようにCDやDVDなどでロシア語を聞き、リスニングの力を高める。
だれにでも人生の時間は限られているから、プロ(ガイド、通訳、会社でロシア語を使う営業職)を目指すなら、3年間だけでも集中的に(毎日1~2時間ぐらい)ロシア語を勉強してみてはどうか。市販の参考書を使って、プロとして働けるレベルの発話能力をつけるためにどう勉強すべきかの一つの案を書いてみる。このようにして勉強すれば、ガイド(通訳案内士)試験を受験できるレベル(中級クラス)の実力はつくはずである。ロシア語の勉強に終わりはない。要はロシア語の勉強を毎日するという癖をつけることが大事である。そうすれば必ずプロとして活躍できる力がつく日が近い将来必ずやって来る。

(1年目)
会話用に特別な勉強法があるわけではなく、文法を理解し、語彙を増やすしかない。最初の勉強は露文解釈の勉強である。露文解釈の勉強を先にやるのは、ロシア語を日本語に訳すほうが、日本語をロシア語に訳すよりも一般的に簡単であるということが一つある。それと露文解釈の勉強がなぜ必要かというと、無論ロシア語→日本語への通訳の勉強のためだが、プロの通訳やガイドにとって一番重要なのは、相手の言うロシア語を100%聞き取る力である。聞き取る力というとリスニングが思い浮かぶが、単語が聞き取れても意味が分からないということは多々あるわけで、リスニング以前に内容を理解するための勉強が必要なわけである。聞き取れれば、あとは極端に言えば手振り身振りでも意思を伝えることができる場合がある。しかしほんの少しでも聞き取れないと(無論聞き返すのは一度ぐらいなら許される)、プロとしてアウトである。そのため露文読解を中心に、聞き取る力をつけることが必要である。露文解釈を通じてロシア語の論理を身につけなければならない。文章のロシア語は一般的に会話より論理的である。会話のロシア語では相手が会話の内容を理解しにくそうあれば言い換え、繰り返しが多用される(中には回りくどい話し方が癖の人もいるが)ため、それが意味の理解を助けることになるのが普通である。ところが文章では、くどくなることを避けるために繰り返しや言い換えが少ない傾向にある。つまり文章のロシア語を頭ごなし訳で理解できれば、聞きとりの一歩は踏み出せたことになる。そうなれば後はロシア語の音に慣れるだけとなる。

1) 「NHKのラジオロシア語講座テキスト」、または各社で出ているCD付きのロシア語入門書で会話がついているもの。
 その日のテキストを3回ノートに書き、その後丸暗記する。その暗記がどのくらいできたかを調べるために週末にはテキストの和訳からロシア語にする練習をする。これを半年から1年続ける。
2) 「現代ロシア語文法(城田俊、東洋書店、1993年)」、または「ロシア語文法便覧(宇多文雄、東洋書店、2009年)」
 ロシア語の勉強をしていると様々な疑問がわいてくる。この疑問がわいてこない人は語学の上達が見込めないと考えてロシア語は趣味程度にとどめておいた方がよい。その疑問の答えを知るには、こういう文法書と辞書(岩波書店か研究社の露和辞典でよい。収録語彙数は実質的に変わらない)をそろえる必要がある。これらの文法書を1日最低2ページ、できれば10ページ読む。文法書はロシア語で疑問が出てきたときにまず頼りにするものなので、一通り読んでおき、あとはその都度必要と思われるところを読み返せばよい。

(2年目)
次に挙げる参考書を1回で覚えようとはせずに、こういうことが書いてあったと頭の隅に残るぐらいで読み進めればよい。

3) 「ロシア文学鑑賞ハンドブック(中沢敦夫、群像社、2008年)」毎日10ページ読破。
4) 「ロシア語慣用句辞典(キムミネ、東洋書店、2001年)」
毎日2ページ暗記。
5) 「諺で読み解くロシア人の人と社会、ユーラシアブックレット
No. 104」(栗原成朗、東洋書店、2007年)
 小冊子ではあるが、ロシア人についての考察は深い。ことわざも500ぐらいあり、自分で必要だと感じたものは暗記する。
6) 「ロシア語の運動の動詞(原求作、水声社、2008年)」
 毎日2ページ読破。
7) 「ロシア語の体の用法(原求作、水声社、1996年)」
毎日2ページ読破。
8) 「ロシア文法の要点(原求作、水声社、1996年)」
毎日2ページ読破。

(3年目)
9) 「時事ロシア語(加藤栄一、東洋書店、2008年)」
毎日1~2ページ分の単語を暗記。
10) ロシア語の1000時間マラソン
毎日3時間ロシア語のテープ、映画、ニュースを通勤通学の合間に、意味が分からなくてもBGM感覚で聴き流す練習)を1年間する。
11) ガイド試験の準備
法学書院の過去問をやってみるなど。
 今回の課題は、
Амеpиканские пpогpаммисты очень долго не могли понять, почемy их pyсские коллеги пpи зависании Windows всё вpемя повтоpяют фpазy "твой кpолик написал" (Your Bunny Wrote) (пpим.: английский ваpиант следyет пpочитать быстpо).
設問)訳せ。オチは別に解説してもよい。

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2009年06月28日

●新帯研 第54回

最近、日本人とロシア人の交流史というのに興味を持ち、いろいろ文献を読んでいる。クルゼンシュテルンКрузенштерн、ゴロヴニーンГоловнинなど200年前の探検家の世界一周航海記などだが、ロシアの近代文章語を確立したとされるプーシュキンの少し前で、оный, будучи, кои, говореноなど現在では使われない言葉も散見されるが、それを除けば読みやすい。著者の頭脳が明晰で、見聞したことを分かりやすく後世に残そうという意欲が感じられる。日本とは関係ないが、探検家のプルジェバーリスキーПржевальскийの探検記(1300ページ近くある)も150年前ので、それらよりは読みやすい。ただ、ロシア語の本を読むのは文献として読んでいる他に、語彙の収集をして、コーパス(コンピューターで編集できる語彙集)を増やそうとしているわけで、そのときにこの言い回しは現代でも使えるのだろうかと気になるものも若干ある。сарачинское пшено (= рис), французская водка (= коньяк)などは、コーパスに入れないが、поправить немного свои силы(やや元気を回復する)とかпотеряв позыв на еду(食欲をなくして、現代ではаппетитを使うのだろうと思う)入れるか入れまいか考えてしまう。こう言う表現は外国人が露訳するときにしそうな気がする。そういう意味で昔のロシア語には分かりやすいものもある。ザベーリンЗабелинは100年前の歴史学者で、彼の作品で革命前の本をそのままリプリントしたものは、昔の仮名遣いのものがある。ザベーリンのは600ページくらいの本が多いから、読んでいるうちに気にならなくなる。昔の仮名遣いで書けというのは、大変だが、逆は(読むのは)簡単である。ゴロヴニーンの世界周航記の中には「日本幽囚記」が収められていて、これだけ和訳されている。その中でчеремшаを函館や松前で食べたと書いているが、北海道に自生するのはギョウジャニンニク(アイヌネギ、アララギ)であり、черемша (= лук медвежий) をギョウジャニンニクとするのは間違いである。前者の学名はAllium ursinum であり後者はAllium victorialis L var. platyphullum Hultenであり、似ているとはいえ別種である。черемшаはラムソンramsonと訳した方がよい。Крузенштернも北海道や千島列島にчеремша (дикий чеснок) があると世界周航記に書いてあるが、似ているので間違えたのであろう。今回の課題は、
Разговор между русскими в июне 2009 г.
- Говорят, что в Японии император царствует, но не правит.
- У нас тоже.
設問)和訳し、オチを説明せよ。

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2009年06月29日

●新帯研 第55回

鳥に乳はない。それゆえ何でもあることはロシアでは「鳥の乳以外ならなんでもある」という言い回しがある。しかもないはずの「鳥の乳」птичье молокоというケーキまである。そうはいってもハトは例外で、ハトは年中種を食べ、しかもかまずに飲み込んでも消化してしまい、その種から自らミルク状のものを作ってしまう。オスメスに関わらず消化器官(そのう)内壁の脂肪やたんぱく質を含んだ細胞を剥離させて、脂肪分30%以上というミルク状の液体にして雛に与えるのだと、「スズメの少子化、カラスのいじめ」(安西英明著、ソフトバンク新書、2006年)にある。これがPidgeon's milkである。
一度「さとう」というひらがなの苗字は珍しいですねと本気で聞かれて困ったことがある。無論、私の姓は佐藤だ。佐藤というのはあまりにありふれて、名前の識別の機能を果たしていない。佐藤好明をインターネットで見てみると、海洋大の元教授に同姓同名の人を見つけた。佐藤好明で本を出さなくてよかった。その人は気分を害したかもしれない。ロシアでもСатовскийという姓はある。それでこれをペンネームに使おうか考えたこともあるが、佐藤をひらがなに変えるだけにした。少しは目立つと思っている。モスクワでSATOと書いてあるトラックを何度か見かけた。日本の中古車にしては漢字ではないのが不思議だった。2年前ヘルシンキでSATOと書いてあるビルを見つけた。それでフィンランドのトラック会社の名前だということが分かった。幕末のアーネスト・サトウで有名なSatowという姓は、無論佐藤とは何の関係もなく、お父さんがスウェーデン生まれのソルブ系ドイツ人であり、スラブ系の希少姓とある。フィンランドではスウェーデン語も国語の一つだから、サトウと関係があるのだろうか。ロシアではСатовский という姓はまれに聞くし、インターネットで調べたらСатовといいうのもあった。今後これを使ってみようかしらん。佐藤は普遍で不滅だ。今回の課題は、
Последние русские цари: Владимир Самозванец, Иосиф Грозный, Никита Блаженный и Леонид Летописец.
設問)訳せ。オチを別に解説してもよい。

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