2005年09月01日

●ブレジネフ

ブレジネフ・レオニード・イリイーチ(1906~1982)、ソ連邦英雄を4度授与される。政治小話の雄である。眉毛が濃かったことから、бровеносец в потемках (映画のброненосец Потемкин「砲艦ポチョームキン」をかけて、「暗中模索の眉唾者」)、герб России «двубровый орел»(ロシア国章の双頭の鷲をかけて「双眉のワシ」)とか言われた。レーニンと同じミドルネーム(イリイーチ)なのでназывайте меня просто Ильич(イリイーチとだけ呼んでくれたまえ)と小話のたねになる。よくブレジネフのボケが小話のタネにされることがあるが、これはブレジネフが長年不眠症に悩んでおり、医者に処方された ноксирон という睡眠薬(強い副作用がある)の中毒になったせいだといわれている。これにちなんでИнтеллектуалиссимус(大脳減衰、генералиссимус「大元帥」とかけて)というのもある。ブレジネフの聞き取りにくい発音をからかったものとしては、сиськи-масиськи「体型的な」 (систематический「体系的な」から、сиськиは「おっぱい」という意味), письки-мисиськи (пессимистический「悲観的な」から、письки男女性器に対する幼児語), кому сисиськи (комунистический「共産主義的な」から、「だれにおっぱいを」とか「だれにウィンナを」と聞こえる)がある。また不眠症を直すためにベロルシア産の зубровка (зубрヨーロッパ野牛の好む草の茎を浸したリキュール、ポーランド産が有名)というリキュールを愛飲したという。そのためбормотуха пять звездочек五つ星のブツブツ衆(酒)と言われたりした。死期を早めたのは1982年春のタシケントの航空機工場での事故(工場に来たブレジネフを一目見ようとたくさんの人が足場に上りそれが崩れてブレジネフもその下敷きになり肩を負傷した)によるという話がある。

Брежнев посетили психиатрическую больницу. Его встретили хор, исполнивший популярную песню “Эх, хорошо в стране Советской жить”.
В стороне - двое, тоже в больничных пижамах. Молчат.
- А эти почему не поют? Тяжелые больные? - спросил Брежнев.
- Нет, Леонид Ильич, эти выписки ждут.
訳)ブレジネフが精神病院を慰問した。患者達は当時の流行歌「ソ連で生きるのは、ああなんて素晴らしい」を合唱して出迎えてくれた。見ると、離れて二人、病院のパジャマ姿で、だんまりをきめこんでいる。
「この二人どうして歌わないんだ。だいぶ悪いのかね」とブレジネフが聞くと、
「いいえ、退院待ちなんです」
解説)長いことこの歌はこの小話のために作られた架空の歌詞だと思っていた。最近念の為調べてみたら、映画「ベートーベンのコンサート」で歌われた「ああ、素晴らしいЭх, хорошо!」(ドゥナエフスキー作曲、シュミットゴフ作詞)の中にある歌詞の1行目だと分かった。ピオニェール(ソ連がボーイスカウトを真似して作ったもの)の歌にある。児童合唱団が歌っているのだが、この部分は異様に早口である。ゆっくりとはなかなか歌えまい。小話より小話的な話である。

Брежнев рассказывает Картеру:
- Видели сегодня любопытный сон - над Белым домом - красный фраг, а на нем написано:
“Пролетарии всех стран, соединяйтесь!”
- Ну и что, - отвечает Картер, - я тоже видел сон: над Кремлем красный флаг, а на нем тоже что-то написано......
- Удивил Кремль красным флагом! А что там было написано?
- Не знаю... Я по-китайски не умею.
*Ну и что - それがどうした。ひらきなおりの言い回し、覚えておくと便利。
訳)ブレジネフがカーターに話をしています。
「今日面白い夢を見たんだよ。ホワイトハウスの上に赤旗が翻っていて、旗には ”万国の労働者諸君、団結せよ。”」って書いてあったんだ。
「それがどうしたっていうんだ」とカーターは答えて曰く、「私も夢を見たんだ。クレムリンの上に赤旗が翻ってて、なんか書いてあったな」
「クレムリンに赤旗があったって何が不思議だというんだね。で何て書いてあったんだい」
「わかんないんだよ。漢字は読めないんでね」
解説)中国に占領された夢を見たっていうこと。

Решил как-то Брежнев распространить сферу влияния СССР на Луну.
Отдал приказ: выкрасить ее в красный цвет.
Сказано - сделано.
Просыпается утром, выходит на балкон - Луна красная. Хорошо!
Вечером смотрит: а на красной Луне гигантская надпись: “Марлболо”.
Ну, думает, покажу я этим америкашкам!
На следующее утро читает: “Сделано в СССР”. Хорошо!
Вечером смотрит: приписка - “По лицензии фирмы Филлип Морис”
Разозлился Леонид Ильич......
......Просыпается утром Рейган. Выходит на балкон, смотрит на Луну и ахает...
“Министерство обороны СССР предупреждает!”...
*Луна と大文字になっているのは天体としての月という意味だからである。
*Марлболо - フィッリップモリス社のタバコの銘柄。ソ連で一番人気のあった外国製タバコ。1990年頃マールボロ1箱で白タクに乗れた時代もあった。
*америкашка は американец の蔑称。японец は япошка となる。
*сделано в СССР ソ連製という意。клапан производства СССР はソ連製の弁。
訳)あるときブレジネフはソ連の勢力圏を月まで広げようと決意しました。月を赤く塗るよう命令を出したのです。即実行されました。
朝起きてバルコニーに出てみると確かに月は赤くなっています。結構、結構。
夜、見上げてみると、なんと赤い月には大きくマールボロと書いてあるではありませんか。ヤンキー野郎に一泡ふかしてやる。
翌朝、月を見ると、ソ連製と読めました。結構、結構。
夜見ると、フィリップモリス社のライセンスによると但し書きがついています。ブレジネフはかっときました。
朝レーガンが起きてバルコニーに出て月をみて、あっと驚きました。
「ソ連防衛省は警告する」と書いてあったのです。
解説)最後が落ちになっているのだが、日本と同様タバコのすいすぎに注意するようタバコの包装紙には Минздрав СССР предупреждает: курение опасно для Вашего здоровья.
(ソ連厚生省は喫煙はあなたの健康に害があると警告する)と記載されている。

Просыпается Брежнев на своей даче. Вышел во двор. Вдруг видит Карлсон летит.
- Ты кто такой?, - спрашивает Брежнев.
- Я Карлсон.
- Что значит Карлсон? Какой-такой Карлсон? Куда охрана смотрит?
- Ну как же, - говорит Карлсон, - Вы что, про меня в книжках не читали?
- хм...Карлсон, Карлсон, - задумчиво бормочет Брежнев. - Ах, Карлсон! Ну как же, как же.
А где Ваш друг и соратник Энгельсон?
*Карлсон カールソンというのはスェーデンの作家アストリッド・リンドグレンが生み出した背中にかわいいプロペラを持って空を飛べるイタズラ小僧。ソ連ではマンガ映画になっていて繰り返し放送されている。無論邦訳もあるがあまり日本では知られていないようだ。ロシア語上達のためには、まず子供向けの本を読み漁り、ロシア人のもつ一般常識を涵養するのも大切なことである。
訳)ブレジネフが自分の別荘で目を覚まし、庭に出てみると、突然カールソンが飛んできました。
「お前は一体何者だ。」とブレジネフがたずねると、
「おいらカールソンだよ」
「カールソンだって、一体何者なんだ。まったく警備のものはどこに目がついていやがるんだ」
「えっ、まさかおいらのこと、本で読んだことないの」
「フンフン、カールソン、カールソンと、そうか、そうか分かったよ。ところであなたの親友で戦友のエンゲルソンはどこですかな」
解説)カール、カールと考えて、カール・マルクスが頭に浮かび、それでエンゲルスのことを聞いてみる気になったというわけ。

В СССР выпустили почтовую марку с портретом Брежнева. Вскоре пошли жалобы, что марка не приклеивается. Стали выяснять, в чем дело. Оказалось, люди плевали не на ту сторону, другие не ту сторону лизали.
訳)ソ連でブレジネフの肖像入り切手が発売されました。まもなく切手がくっつかないと苦情が寄せられました。原因が究明されたところ、違うところにつばしていたり、違うところをなめたりしていたのでした。
解説)分かるとは思うが念のため解説すると、馬鹿にしたり、取り入ったりということ。

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●ロシア語学習とアネクドート (1)

- Каким должен быть анекдот?
- Как женская сорочка - тонким и прозрачным.
訳)「小話はかくあるべきか?」
「御婦人方のスリップのように繊細であからさま」
解説)スリップは普通 комбинацияだが、сорочкаにもスリップと言う意味がある。もっとも現代の女性はスリップではなくキャミソールを穿くのだろうけれど。

 ロシア語向上のためという観点のみでアネクドートを考えると、いろいろな勉強法があるが、大きく二つに分かれると思う。一つは、アネクドートというものはロシアやロシア民族のものの考え方を反映しているものゆえ、アネクドートのオチを理解することで、単なる訳だけではなくロシア庶民の生活を踏まえた背景なども学ぶことができるという姿勢である。しかし、この他にもアネクドートを世界で通じる小話ととらえ、ロシアの特殊性を排除して、日常性(オチがあれば非日常なのだが、全世界に慣習・歴史の壁があっても意味が通じるものと言う意味で)というものから語学として学ぶと言う考え方である。アネクドートの命ともいえるユーモアのセンス чувсьво юмораや現実感 реальностьというものをある程度(あるいはかなりの程度)犠牲にしてでも、つまり語学の勉強が主だから特に笑えなくてもよいわけだ。そうなると、女、ギャンブル、酒などが思いつくがそうである必要はない。放送あるいは出版してアネクドートを紹介するときに、和訳では放送コードとか最低限の卑猥な表現は避けるべき(ロシア語の卑語はロシア語を母国語とする人以外ほとんどの人がネイティブのニュアンスは分からないのだからかまわないとはず)だということは分かる。最近(2005年)NHKのラジオロシア語講座でアネクドートが載っているが、こういうアネクドート自体はまず普通のロシア人は使わないだろうし、オチも面白くないが、ロシア語の勉強ということを考えると、日常の言い回しが身につく非常によい企画だと思う。しかも書いているのはロシア人のようだからロシア語についても完璧である。面白くないゆえにオチが分かりやすいと言うのもよい。もっとも出版社の方針でエログロは載せないと言うことだろうし、子供でも大丈夫なユーモア話程度だから逆に書くほうも大変である。どういうものでもロシア語学習に活用できるものは積極的に取り入れるべきである。一つ例を挙げよう。

Динозавр уговаривает динозавриху:
- Ну, давай..
- Нет, нет, только не сегодня!
- Ну, милая...
- Нет, нет, совсем не хочется.
- Дура! Вымрем же!
訳)恐竜が雌恐竜を説得中。
「ね、やろうよ」
「やーよ、やーだったら、今日だけはやーなの」
「ね、いいこだから」
「いや、いやよ、全然その気が起きないの」
「馬鹿女。絶滅したって知らないからな」

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●和露語呂合わせ(16)

- Как в Непале делают детей?
- Непалками и непальцами.
訳)「ネパールではどうやって子供を作るのか?」
「無謀(無帽、無棒)ニモ、ごむヲ無視(無指)シテ
解説)ロシア語はнепалками(ネパール女性によって) とне-палками(棒によってではなく)、непальцами(ネパール男性によって)とне-пальцами(指によってではなく)の語呂合わせ。

Posted by SATOH at 13:18 | Comments [0]

2005年09月02日

●知られざるロシア (2)

ロシア人にとっての常識が分からなければ、小話のオチもわからない。次の小話はどうか?
Приходит как-то Горбачев в свой кабинет в Кремле, видит - за его столом Иван Сусанин.
- О, кто к нам пришел! А что же без предупреждения? Я бы для такой встречи всех членов Политбюро собрал! - воскликнул Горбачев.
- Вот-вот, - ответил ему Сусанин, - собери,собери. Как соберешь - Так все вместе и пойдем.
*Иван Сусанин 17世紀初め、ポーランド侵入軍をわざと深い森の中に誘い込み、自らの命を犠牲にして国を救った英雄。グリンカのオペラにもある。
訳)あるときゴルバチョフがクレムリンの執務室に入ってゆくと、イワン・スサーニンがゴルバチョフの椅子に座っています。
「まあまあ誰かと思ったら。どうして前もっておっしゃってくださらなかったのですか。お会いできると分かっていたら政治局員全員集めましたものを」とゴルバチョフは大声で言った。
スサーニンは答えて曰く、「そうそう、集めて、集めて、集まったらみんなででかけよう」
解説)ロシア人の代表団を大きなデパートに連れて行ったときのこと。ちょっと迷ってしまい、さっき行ったお土産売り場がわからなくなったときに、すかさず「佐藤さんはひょっとしてスサーニンじゃないんでしょうね」と言われたのは参った。深くは必要ないが浅くロシア史についても勉強しておくのも常識涵養の為である。

Posted by SATOH at 15:32 | Comments [2]