2009年04月20日
●新帯研 第46回
今回はこのブログの閲覧者のために3冊本を紹介したい。
(1) Московские легенды, Баранов, 1993(モスクワの「都市」伝説)
ガイドをしているとロシア人観光客の口語や俗語に触れることが多く、その学習の重要性を身にしみて感じる。そのために一番よいのはこのブログで紹介しているアネクドートを読むことだが、アネクドート自体は形式上短いということで、それが長所とも短所ともなっている。そこでアネクドート以外にロシア人庶民の俗語に親しむ本として本書を紹介したい。著者が1920年代のモスクワの酒場、茶屋、食堂などで採取した都市伝説で、これまでのフォークロアでは広く知られていなかったものである。拙著「ロシア式ビジネス狂想曲」(東洋書店、2006年、168ページに記載)で紹介したブリュースБрюсもそうである。ただСедая старина Москвы(大昔のモスクワ), Кондратьев, 1893には魔法使いブリュースについて何行か書かれているから、学者の間で全く知られていなかったということではない。伝説自体(奇想天外なプーシュキン物語もある)はいうまでもなく、その伝説を話してくれた庶民との知り合った経緯が簡単に触れられているが、それによって当時の庶民の生きざまなど分かってなかなか面白い。現在は電子書籍になっているのでタダで手に入る。俗語の独特のリズム感や語彙が使われているので大いに勉強になるはず。アファナーシエフの民話よりはこちらを読んだ方が、庶民の考え方(どうしてスターリンは庶民に人気があるのか)などが分かりやすいと思う。Барановバラーノフと彼の「モスクワの伝説」については、齊藤君子先生の「モスクワを歩く」(東洋書店、2008年)に詳しい。ちなみに魔法使いブリュースが登場する小説がある。ロシアのホフマンと言われたチャヤーノフЧаянов(1888~1937)の「家伝によりモスクワの植物学者Khにより描かれ、植物病理学者Uにより挿絵が描かれたフョードル・ミハーリヴィチ・ブトゥルリーン伯爵の不思議だが本当の冒険Необычайный, но истинный приключение графа Фёдора Михайловича Бутурлина, описанные по семейным преданиям московским ботаником Х и иллюстрированные фитопатологом У.という幻想小説の中である。チャヤーノフは1930年12月ソ連で資本主義復活を策しているとして逮捕され、1937年銃殺された。彼にはПутешествие моего брата Алексея в страну крестьянской утопии(我が兄弟アレクセーイの農民ユートピア国への旅)という作品があり、その中で主人公は1924年のソ連から60年後の1984年の世界にタイムトリップする。そこでは世界はドイツ、英仏、米豪、日中、ロシアの5つに分かれ、互いに孤立した世界であり、ロシアでは1932年以降ボリシェビキーではなく農民が政権と握っていたという設定である。文学的にはこういう作品よりも、История парикмахерской куклы, или Последняя любовь московского архитектора(理髪店の人形の逸話、つまりモスクワの建築家の最後の恋)が傑作である。Современникという出版社から1989年に出版されている。
(2) 「ロシア文学鑑賞ハンドブック」中沢敦夫、群像社、2008年
初級文法の復習には「ロシア語ハンドブック」(藤沼貴、東洋書店、2008年)が使えるが、中級文法の復習用にはというと帯に短しの類ばかりだった。本書は、ロシア文学の露文解釈用参考書としてはベストであるのみならず、中級文法の復習や整理用に最適である。若干誤訳や勘違いがある。ご興味のある方は私のサイト「ランポポー」の「ガイド・通訳・翻訳に使える参考書」のところを参照願いたい。ただロシア語の言語運用能力(和文露訳)をつけたい向きには、当然ながら現代ロシア語の口語の解説がないために自分なりに咀嚼しないと使えない。露文解釈がロシア語の参考書の主流であるが、そういう参考書で露文解釈の勉強を続けていて、ロシア人と会話ができないのは、リスニング不足という問題だけではない。なぜなら露文解釈中心の参考書を言語運用能力養成のために使おうとすると、本に載せられているいくつかある表現のうち、どの表現が現代ロシア語の口語でよりよく使われるか、またその違いについての説明がないことが多い。「時事ロシア語」(加藤栄一、東洋書店、2008年)にしてもそうで、露文解釈にはよいが、これを会話用に使うには、自分なりに語彙収集(特に句動詞について)をしないと使えない。
(3) モスクワ・グラフィティ、ブシュネル、群像社、1992年
落書きを通じて1970年代や80年代のソ連のアンダーグラウンド文化(サブカルチャー)について解説した本。当時のサッカーファンについての説明については類書がない。ソ連のロックについては、Повседневная жизнь российского рок-музыканта, Марочкин, Малодая гвардия, 2003などがある。今回の課題は、
Из воды вытащили утопавшую.
- Пульс бьётся...она жива. Отлично, сударня, произнесите хоть слово.
- Нет ли зеркальца?
設問1)2行目をона живётに代える事が出来るか?
設問2)和訳せよ。