2005年07月15日

●隠語(жаргон)

テレビ・ラジオの普及で一般の生活では地方に出張しても、現在ではなかなか方言にお目にかかることがない。ただ民謡などは方言が多用されているのでその理解に必要である。 Толковый словарь живого великорусского языка (Даль и Бодуэн де Куртэне)の第4巻末にО наречиях русского языка という一文をДальが書いているので参考にされてはどうか。これは単にокающее やакающее наречиеという基本的なことだけではなく、動詞の変化や格変化についても様々なバリエーションがあることを教えてくれる。
Дальは隠語(офейский, ламанский язык, жаргон, феня)を方言に含めていない。人工的に作られた言葉だとしている。Мельниковは隠語にはофеньский, тарабарский и иносказательный языкиの3種があるとしている。офеньский язык(行商人の符丁)は、もとはАлександровская волость, Ковровский уезд (ウラジーミル州)の行商人ходебщики, тряпичники, вязниковцыが1700年ごろからロシア各地от Кяхты до Варшавыに行商に出て符丁として出発したものらしい。そこからКосторома, Тверь, Симбирск, Рязаньの各州に広がったという。日本でいう富山の薬売りのようなものか。厳密に言えばофеньский (во Владимирской губернии)には、галиванский (в Галиче, Клстрамской губернии)やматрайский (Нижгородской и Рязанской губерниях)という言葉もある。例として、стос (бог), грутец (отец), возгран (город)がある。つまり言葉自体は作られた人工のものだが、文法はロシア語だということである。ここからблатная музыка, феняというヤクザ特有の言い回しが発展してきたらしい。иносказательный язык(スリカエ語)は、例えば、соль(塩)を神父の意味で使ったり、сушить (исправить), сырой (неисправленный), ссыпать (поместить)というように、その語に普通の意味とは違う意味を与えるのである。この他にも学生の間で昔はやったтарабарский языкは子音のб,в,г,д,ж,з,к,л,м,нの代わりに щ,ш,ч,ц,х,ф,т,с,р,пを使って暗号を作る方法や、говор по-херам と言ってхерを文節の後や単語の後につける方法など紹介されている。тарабарский языкは15世紀までさかのぼれると言われ、古儀式派でよく用いられたが、тарабарский язык単独というよりは、иносказательный языкとの組み合わせや、さらにその上にофеньсккий языкを組み合わせて、早口話すため頭の回転の早さが要求された。例えば、»ры туниси лось ца лымую, нмолувиси па мочохтаж и ллынаси ш лулет»は、»мы купили соль, да сырую, просушили на рогожках и ссыпали в сусек»となり、一応意味は通るように見えるが、本当の意味は、»мы достали попа, но не исправленного, исправили его в Москве на Рогожском кладбище и поместили при часовне»となる。これでも普通のロシア人には古儀式派の背景を知らないと分からないと思うので、解説を加えて訳すと、「私たちは司祭を手に入れたが、矯正されていない(古儀式派ではない)司祭だったので、モスクワのロゴーシュスキー墓地で矯正し(古儀式派に改宗させ)、小礼拝堂に入れた」である。当時古儀式派(そのうちのпоповщинаは、聖職者が加齢のため死んでいったが、聖職者につける資格をもつ正教職がいなかった。それで古儀式派ではない正教の聖職者を連れてきて、古儀式派に改宗させる必要があったのである。
 近代の隠語については、1917年、1956年、1980年代および1990年代初頭と3区分する見方がある。これに応じて隠語辞典を使い分ける必要がある。グラチョーフの辞典Словарь тысячелетия русского арго, М.А. Грачев, Рипол Классик, 2003は1956年以前をカバーし、1980年代以降となるとБСЖとか狩野先生の「ロシア語話し言葉辞典」(次の項目参照)がよいが、いずれにせよ100%カバーしているわけではない。コンピューター関係の隠語などБСЖにてはある程度載っているものの不十分である。これから伸びる分野なので、新しい隠語辞典の出現を期待する。

Posted by ruspie at 01:41 | Comments [0]