2014年12月16日

●和文露訳指南第126回

智さんからの12月15日付のприходитьは過程でも使われるのではないかというご指摘に対しての回答も含めて、『和文露訳指南』3-1-1-2項を下記のように改めた。これは2-1-8-9項(歴史的現在)に書いたものをより適切な項目に移しかえたものである。智さんには深く感謝申し上げる。このように投稿者の御指摘が私のロシア語への理解を深めることにもなるし、智さんのお役にも立てればと願うと同時に、他のみなさんのご参考になるかもしれないと思い、ここに挙げる。ただприходитьと過程については、和文露訳入門の第137回本文ですでに述べており、これが拙著の元の原稿にあたる。

приходитьについては『ロシア語動詞の体の用法』(原求作、水声社、1996年)の137ページに、抽象的な意味を示す時には過程の意味で使えると書かれている。

(彼は意識が戻り始めた)Он начал приходить в себя.

これは語義の体の用法に対する影響の問題であって、体そのものとは関係ないとも書いてあるから、この場合とは違うと考えられる。ただ似たような文例で、3-1-5-3項にも書いたように、Я начинаю думать ...は意向の過程(~と考え始めつつある)というよりは、「もうそういう考えになった」というニュアンスであるから、これを過程と考えるのはどうかなという気もする。
意識が戻るというのは、一直線で戻るのだろうか?つまり過程として捉えられるのだろうか?気がつくというのは、意識が戻ったり、戻らなかったり、そういう意味で意識と無意識の境を往復しながらという風に理解して、ロシア語ではприходитьが用いられているのではなかろうか。

(北の短い夏の様々な喜びは終わりに近づき、終わりのないような秋がおぞましき姿で前に迫ってきたのであった)Радости короткого северного лета приходили к концу, впереди грозно надвигалась бесконечная осень. <радостиと複数なので、いろいろな喜びがそれぞれ終わりに近づくということで、多くの場合(例えばчасто)に起こる事柄には反復の用法として不完了体が用いられる>

原先生が挙げられている、それ以外の下記の二つの例文にしても、一見過程のようだが、意識は反復しているように見える。

(彼の人生の三度目の冬が終わりに近づいた)Третья зима его жизни приходила к концу. <季節は巡ってくるものであり、既に冬は2回巡ってきている>
(深く考えれば考えるほど、ある結論にたどり着く)Чем больще я обдумываю, тем больше я прихожу к выводу. <何度も深く考えて、何度もある一つの結論にたどりつく>

それゆえ私個人としてはприходитьは過程を示すことができないと思っている。приходить в себя (к концу)なども含めて、すべて反復で説明がつくと考えており、そこが原先生との考えの違いである。

出題)医者が患者の家族に言う「彼はまず助からない」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2014年12月16日 06:44
コメント

У него вероятно
не будет надежды на
полное выздоровление.
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お答えの全快の望みがないと言ってもすぐ死ぬとは限りません。私の答えは、Он вряд ли выживет.
(否定の)完遂、ないしは不可能の用法。

Posted by ブーチャン at 2014年12月16日 09:31

Врач говорит семье пациента "Он в общем не поправится."

よろしくお願いします。
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()内は出題の背景であり、出題がどんな文脈で使われるかを説明したもので、露訳の必要はありませんが、わざわざどうもありがとうございます。歴史的現在ですね。お答えは、全快しないですが、全快しなくともすぐ死ぬとは限りません。ただ構文的にも、体についても精確であり、たんに動詞を間違えたというだけで、語彙の問題であり、気になさる必要はありません。このコーナーの出題については、時制とアスペクト(体の使い分け)が正しいかどうか見ているのであって、語彙については私の答えを見ればすぐ覚えられるでしょう。

Posted by 消えた鮭 at 2014年12月16日 14:57

(お題)
彼はまず助からない
(コーシカ訳)
1) Он, по всей вероятности, не спасется.
2) Он вряд ли переживет.

具体的な未来、話し手の主観などから完了体が来ると考えました。
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体の用法は正確です。1)のспастисьは苦難、遭難、人質などから救われるということで、自動詞であり、「自力で救われる」というように他者の介在を特に意識してはいません。この動詞を排除するために、出題に()をつけました。2)のпережитьは生き残るという意味で使うときは、他の人より長生きするという意味で、surviveという意味はなく、この意味ではвыжитьを使います。

Posted by コーシカ at 2014年12月16日 20:00

Он никак не выживет.
完遂的用法の否定
生き延びない = 致命的な病気や怪我を克服しないという未来の一点の動作の否定。
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正解です。

Posted by チジクピジク at 2014年12月16日 23:09

Наверное он не выживет.
「生き残る」という具体的一回の行為と考え、свとしました。よろしくお願いします。
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正解です。

Posted by やま at 2014年12月16日 23:17

Он скорее всего не спасётся.
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構文も体の用法も正確ですが、コーシカさんのところに書いたように、спастисьは不幸な境遇から救われるという面が多いために、どうかなと思います。出題に()がなければ正解だったでしょう。いずれにせよ語彙の問題なので、気にすることはありません。выжитьなどは1分もあれば覚えるでしょう。語彙はネットでもあまり頼りにはなりませんが和露辞典でも引くことはできますが、語彙を操るための体の用法は、体の本質を見極める必要があります。今後とも頑張ってください。

Posted by awarin at 2014年12月16日 23:28

Его очень трудно спасти.
Боюсь, что он будет в опасном состоянии.
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やや意訳気味ですがбудетを取れば正解です。医者がспастиを使うのは可能です。

Posted by ゴ at 2014年12月16日 23:29

Скорее всего его уже не спасти.
よろしくお願いします。
小さな疑問にも丁寧に答えてくださり、感謝しております。
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正解です。при-という接頭辞がつく運動の動詞は語義的に過程を表せないが、抽象的な場合は例外であるというような、なぜそうなるのか説明もない理屈抜きの安易な説明はおかしいと思っています。ロシア語の文法は何千年とは言わないまでも、長きにわたって形成されたものであり、その本質は一つであり、安易に、考えもせずにこれは例外だから丸暗記せよというのはおかしいと感じており、自分なりに整合性を考えたわけで、それが合理的に正しいかどうかと思うかどうかは、使う人の判断によります。私たちは人間であり、ロボットではないのですから、疑問をそのまま棚上げして、丸暗記するのではなく、なぜそうなるのか自分なりの回答を得られるよう考えを突き詰めることが必要だと考えています。
 ただОн приходит в себя.と見かけは現在形でも、実はアネクドートのように歴史的現在ということもありますから、その点を注意することと、приближатьсяは運動の動詞ではありませんから、過程で使えるということに注意を払うことが肝要です。

Posted by 智 at 2014年12月16日 23:58

Очень трудно его спасти.
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正解です。

Posted by じぇーにゃ at 2014年12月17日 01:42
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