2014年10月25日
●和文露訳指南第78回
私が動詞の体の本質が分かったと感じたのは2013年6月ごろで、ちょうど『新訂和文露訳入門』を出す間際の頃である。40年以上ロシア語をやってきてと、考えると情けない限りのようなものだが、会話の和文露訳をする上での体の使いわけの参考書がなかったし、教えてくれる人もいなかったのでやむを得ないと感じている。体の参考書ではA Grammer of Aspect, Forsyth, Cambridge, 1970がベストだと思うが、うかつなことにこの本の存在を教えてもらったのが2013年の8月であり、もっと早く読んでいたらと思わないわけでもない。ただ大学の時にこの本を読んでいても、理解できなかっただろう。理解するには何事もベースとなるものが必要である。会話のマスターを優先に考え、ロシア語を学んで最初の20年間は中級文法をやる傍ら、例文と語彙の丸暗記がベストと思い、慣用句や熟語、諺の暗記に徹していたからである。フォーサイス先生のこの参考書は、肝心の体の本質については完了体の動作の全一性ということに触れているだけで、後は、完了体と不完了体の結果の存続とか、順次的用法など、時制や法(命令法、不定法)において、個別に詳しく説明しているに過ぎない。露文解釈ならこれで十分だが、会話での和文露訳をする上で、一つの動詞文をロシア語にしようとすると、どちらの体を使うのかが、これではうまく出て来ない。うまい具合にフォーサイス先生の挙げてある例文に近いものが出ればしめたものだが、そう世の中はうまくいかないものである。それと発行年代からやむを得ないとは言え、遂行動詞の説明がないし、体の本質がよく説明されていないために、不完了体未来形の説明が不十分である。一番問題なのは完了体と不完了体が同じような文で使われる場合は、どちらが使われる確率が多いかという説明であり、これも体の本質を説明できていないからだと思う。
体の用法についてはロシア語を学んで数年後に読み始めた『ロシア語動詞 体の用法』、(О. П. Рассудова、磯谷孝訳編、吾妻書房、1975年)、『演習ロシア語動詞の体』(磯谷孝編著、吾妻書房、1977年)や『ロシア語の体の用法』(原求作、水声社、1996年)に負うところが多い。この3冊は30年の間何度も読み返した。体について何とか分かるようになったのもこの3冊の本のおかげである。おかげで結果の存続や順次的用法はわりに早い時点で理解した。遂行動詞のсообщать(知らせる)やその類語については、商社にいてビジネスレターを受け取ったり、自分で作ったりしていたので、ロシア語を学んで数年してそういう奇妙な形式があることには気づいていたが、これもただ丸暗記しただけである。私の体の理解が進んだのは、ひとえに、2011年に偶然手に入れたНовый объяснительный словарь синонимов русского языка, Ю. Д. Апресян 他, Школа «Языки русской культуры, 1999 – 2003(3巻本、総ページ1,300)を4カ月かけて読み通したことによる。これによって遂行動詞や結果存続兼評価型動詞の理解が深まった。この後フォーサイス先生の本やA comprehensive Russian grammer, Terence Wade, Wiley-Blackwell, 2011, 3rd editionの例文で自説の正しさを確認することができたと思う。否定について確信が持てたのは2014年6月にパードウチェヴァ先生の参考書を読んだからで、これを読んだことにより、否定についての自分の考え方が間違っていなかったことを豊富な例文で確認できたわけで、『和文露訳指南』を出版する踏ん切りがついた。
まだ体が分かってから1年ちょっとではあるが、細かい点での発見や見直しがあるとはいえ、和文露訳をする上では、今のままの自分の理解でよいと思っているが、より分かりやすくという観点から表現の仕方にひと工夫あってもよいかもしれない。
出題)「彼は怪我をしたが、命には別条ない」をロシア語にせよ。
Он ранил себя, но не
смертельно.
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間違いではないと思いますが、自殺未遂というところですか。Его ранилоと無人称文にした方が、より自然なような気がします。私の答えは、Он ранен, но его жизнь вне опасности.
Хотя он получил травму, она не угрожала его жизни.
最初は結果の残存でсв、 次は動作の無でнвとしました。よろしくお願いします。
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時制は現在です。травмаはトラウマという意味もありますので、ранаのほうがよいかもしれません。
(お題)
彼は怪我をしたが、命には別条ない
(コーシカ訳)
1) Он получил рану, которой не сказалась на его жизнь.
2) Он получил рану, которая оказалась несмертельной.
アオリストの完了体過去です(あ、1) のсказаласьは結果の現存とも取れそう)。
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1)はкотораяで、2)は意味は分かると思います。
Он получил травму, но с жизнью нет проблемы.
ロシア語を学んで最初の20年間は…に反応。
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ранаの方がよいと思います。 с жизнью нет проблемыとは言わないでしょう。人生はノープロブレムなら、нет проблемы в жизниでしょうし。
Он ранен, но не смертельно.
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正解です。
Он получил ранение, но его жизнь вне опасности.
今回もよろしくお願いします。
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正解です。
Он получил травму, но не критично.
結果の存続(完了体動詞過去形)
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критичныйは危険なという意味ですが、人に対しては使わないと思います。