2014年09月08日
●和文露訳指南第31回
はりねずみさんから続和文露訳入門第512回に関して、次のようなコメントをいただいた。「勘違いかも知れませんが、私は遂行動詞を三つタイプで考えています。一つ目は報告するや連絡する、の様に発話=行為(主に話す事が関係する動詞)のもの、二つ目は解除や禁止の様に発話をもって行為が有効になるもの、三つ目は許すや分かります等の意思表示に関わるものです。三つ目の場合、否定でも遂行動詞の様に感じてしまう場合があります。例えば殴られた後等の「許さない!」は否定の強調で完了体を選ぶのが正しいのかもしれませんが、時制を考えると発話によって許さないという意思表示が遂行される(許さないのは一瞬先を含む未来では無く現在から)と考えて不完了体を選んでしまいそうです」
この返答として遂行動詞が定義的に、不完了体の否定のように動作自体を否定する、つまり動作がなければ動作の遂行がないということで、遂行動詞には否定形はないことを伝えた。詳しくは第512回のコメント参照願う。提示された例文の「許さない!」では、完了体未来形の否定しか使いようがないが、はりねずみさんの言わんとするところは、遂行動詞の否定でも、意思を具体的な文脈で発話終了と同時に否定の意味で伝わる(伝えることができる)という気づきをご指摘されたように思われる。そこで、改めて考えてみると、態度表明型の遂行動詞の否定については、そのような傾向があると考えてもよいのではないかという節がある。
賛成か反対かを問われて、Против.(反対です)といえば、遂行動詞的用法だが、これをНе согласен.(賛成しない)と返事すれば、遂行動詞的な、具体的な事柄の否定の意思表示である。ただこの例も含め、他の会話の用例を見ても、叙想語を使って、Не могу согласиться.(同意できません)とするか、仮定法過去Охотно бы, но не могу.(そうしたいのは山々ですが)などを使い、遂行動詞の不完了体動詞を否定して、かつ否定的ニュアンスのまま使う例はないと思われる。これは遂行動詞が定義的に否定文では使えないので、それを避ける工夫がなされているとからだと思われる。どうしても遂行動詞を否定で使う場合は、動詞自体に否定的ニュアンスがあるものを否定する、つまり二重否定にして肯定文として用いられることになるのではないかというのが私の考えである。
(断固反対する)Решительно отказываюсь!
(そのような意見には反対しない)Я не возражаю такого же мнения. <意味的に肯定なので遂行動詞として使われているのであろう>
ロシア語の歴史的現在や否定文の権威であるパードゥチェヴァ先生は遂行動詞は否定では用いられないと書かれているとはいえ、否定文というのは全般的にまだまだ研究の余地があるとも述べておられる。投稿者のみなさんの中で、遂行動詞における否定の用法ということで論を発展させるつもりであれば、私は見つけることができなかったが、上記のように遂行動詞的用法は否定で用いられる以上有るはずだという前提のもと、ロシア語の本や会話をよく研究し、人が聞いてなるほどと思われるような(作った文ではない)自然な文を集めて例証とすることである。将来斯界に益する考え方や研究、論文(例えば遂行動詞と否定とか)でも発表されることにでもなればこれに過ぎる喜びはない。このコーナーをやっていてよかったと思うのは、自分の発想では出て来ないような気づきを投稿者の方々から、直接間接いただくことであり、これによって自分のロシア語もこの3年ほどで、ロシア語の理解とその解説能力ということではかなり上達したと思う。そういう意味で投稿者の皆様方には改めて感謝申し上げたい。
出題)「暑さには弱いですか?」をロシア語にせよ。
Жара вас ослабляет ?
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正解です。この動詞はこの語義では完了体での使用が多いように思います。私の答えは、Вы плохо переносите жару?
Вы не переносите жару?
習慣と見てнвとしました。よろしくお願いします。
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正解です。
Вы плохо переносите жару?
よろしくお願いします。多岐多様なコメントを朝に書かれると知り全く驚いております。
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正解です。朝型なので、朝文案を練るのが普通ですが、書きためたものを紹介しているだけです。
(お題)
暑さには弱いですか
(コーシカ訳)
Плохо ли Вы переносите жару?
状態や性質を指す不完了体現在です。
研究社およびЗиРよりжараの例文を流用です。
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正解です。
Вы плохо переносите жару?
よろしくお願いします。
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正解です。
Вы плохо переносите жару?
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正解です。
Вы боится жары?
人の性質について尋ねているので不完了体を選びました。
よろしくお願い致します。
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体の選択はその通りです。動詞の活用はВы боитесьとなり、そうであれば正解です。恐れる、怖がるの他にбояться = не переноситьという意味があり、よく使われるのは、Цветы боятся мороза.(花は零下に弱い)などですが、Он боится качки.(彼は船に弱い)などとも使います。
Вы с трудом терпите жару?
Вы с трудом справляетесь с жарой?
Вы слабы перед жарой?
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терпеть = переноситьであり、с трудомとの語結合もよく見られます。терпетьの方が、我慢するという意味では意味が強く、お答えは息も絶え絶えという感じに受け取れますから、取った方がよいと思います。ロシアのサウナは湿式で上の段は100度近くになりますが、そこにいる感じです。気温が30度かその程度であればпереноситьを使ったほうが自然です。肉体的に弱いという意味では、補語を取らないようです。слаб по чемуだと酒やたばこの強さを示しますし、слаб в чёмだと知識や技能の貧弱さを示します。
Вы плохо переносите жару?
体質という反復における評価(不完了体動詞現在形)
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正解です。
殴られた後の「許さない!」は Не допущу! でしょうか。
一方、запрещать の同義になる не разрешать の「許さない」は否定の遂行動詞にはなりえませんか?
例えば、親が子供に Не разрешаю (дергать)! とか。
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殴られた後なら、この動詞と言うならばЯ не могу допустить.とするのが自然です。Я не допущу.もちろん使えるとは思いますが。
разрешатьが遂行動詞として使えるのは、それほど頻度が高いわけではなく、私の知る限り、管制官のРазрешаю посадку.(着陸を許可する)ぐらいだと思います。
Не разрешаю.というのは、(反復して)許容しないという意味であり、動作がない以上遂行動詞には定義上なり得ません。遂行動詞とするなら、Я запрещаю.とすべきです。この動詞は予定の意味もありますからどちらとも解釈が可能です。許可の動詞は1回だけの具体的な動作では完了体を使うべきであり、неを使った禁止という用法自体が、動作がないことを確認していると考えるべきです。具体的な1回の行為、例えば「今回は許可しない」としたとして、用例を探しましたが、適当なのは見つかりませんし、見つかったとしても予定の用法ではないことを証明するのも大変そうです。разрешать自体は予定の用法で使う例は知りませんが、ないとは断言できません。「~しない」を決意(そうであれば完了体の否定の強調になります)の意味でなく使うのは、意味が曖昧になるため、使用をためらう気持ちがあるのかもしれません。日本語でも子供に対しては、「許しません」よりは、「ダメ」と言うほうが多いように思います。
実際には感情を込めたНе разрешу!とする方が多いように思います。これは具体的な1回の動作の否定には完了体が用いられ、動作が一切ない(具体的な1回の動作か、反復の否定なのかは文脈次第ですが)ことを示すのが不完了体の否定です。そのため不完了体である遂行動詞を否定すると、この動作が一切ないという風に理解されるため、遂行動詞的用法で、遂行動詞の否定はあり得ないことになるのだと思われます。