2014年08月11日
●和文露訳指南第6回
最近仕事が閑なのでミステリーを読むことが多い、堂場舜一などもストーリーは面白いが、登場人物の描きわけがよくできていないので、だれがだれなのか途中で混乱することがままある。主人公の肉付けがそれなりになされているのは、検事城戸南ぐらいであろう。そういう中でお勧めするのは日本のディーヴァーと呼んでもいいかもしれない富樫倫太郎のSROである。登場人物の設定もいいし連続殺人犯の近藤房子(中年のおばさん)というのも斬新だ。彼には箱館もの3部作があるが、その中の会話で使われるロシア語の発音表記が実際のロシア語に近い。ロシア語でも学んだのだろうか?女流作家で密室ものを得意とする今邑彩の貴島刑事シリーズも面白かったが、作者が2013年病死したのは残念だった。彼女の作品では『ルームメイト』がベストだろう。この他には誉田哲也の『ジウ』三部作や首藤瓜於の『脳男』『指し手の顔』(上下)という脳男シリーズ、香納諒一の『贄の夜会』、『虚国』は大いに楽しませてもらった。ヴォール・ヴ・ザコーニェというロシアの犯罪エリートを登場させたのが月村了衛の『機龍警察暗黒市場』(機龍警察シリーズ第3作)で、近未来の警察小説という触れ込みであり、使った資料も日本で手に入るものばかりとはいえ、それなりにヴォールの実態を伝えている。この作家の他の作品にもロシア語の会話がロシア文字で出てくるが、基本的なミスも散見される。ただ意欲は高く評価したい。日本のミステリーもなかなか捨てたものではない。海外では、オーストリアの新進女流ミステリー作家レーナ・アヴァンツィーニの『インスブルックの葬送曲』(扶桑社ミステリー文庫、2013年)が出色である。その他にはメタボで、いつも不機嫌で、愚痴をよくこぼし、孤独癖があって、癇癪を起こすが、部下には慕われるというヴァランダー刑事もので有名なスウェーデンのへニング・マンケルも面白いが、話の展開がスローなので、人間が丁寧に描かれているとも言えるし、私は好きだが、まだるっこしいと感じる人もいるかもしれない。
出題)「残りの点については御想像にお任せします」をロシア語にせよ。
А насчет остального, я оставлю вашеу воображению.
会話でпо поводуは普通に使われますか(やや硬い?)。
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お答えは短文ですからнасчётをつけると、持って回った感じがします。остальноеとして、カンマを取れば正解ですが、個人的には、訂正せずに最初のようにоставляюと遂行動詞にしたほうが、動作の即時発効という意味が出ると思います。完了体未来形にしたために、動作の開始が一拍遅れる感じで、後でゆっくり考えてねという感じがします。оставлятьは基本的には遂行動詞としては使わないので、今回は想像という名詞に引きずられた感じで、動作の即時発効ということで使われていると思います。またпо поводу を会話で使うとやや硬い感じがします。ただ改まった場であるプレゼンテーションとか、スピーチの時は問題ないでしょう。私の答えは、Остальное оставляю вашему воображению.
Все остальное оставляю на ваше воображение.
「あなたにお任せする」というときのоставляю на ваше усмотрениеからの類推で書きました。
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「とっておく」という意味ではоставлять что (чего) кому-чемуと与格が来ます。類推というのは大切なことですが、なぜоставляюとなるのか、оставлюとしてはだめなのかを考えて、その違いや使い分けを明確にできれば、一歩先に勧めます。遂行動詞をご存じなければ、『和文露訳指南』3-1-4項を参照ください。
Я предоставлю
остальные дела
вашему усмотрению.
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усмотрение = заключение, мнение, решениеですから、想像という意味はありません。それとпредоставлятьはこの意味では遂行動詞として使うべきであって、完了体未来形の用例は見当たりません。
似たような表現がどこかにあったな、と以前の記事を見ていたら、そのものずばりが和文解釈入門第550回にありました。
Об остальном вы сами догодайтесь.
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なるほど出題したのを全く失念しておりました。ただ今回は遂行動詞としての出題です。命令形を使うのならДайте волю вашему воображению.なども使えそうです。このように命令法では完了体なのに、遂行動詞では不完了体というのは、現在の時制では動作としての完了体が使えず、遂行動詞が完了(動作の遂行)を担っているからだと思います。『和文露訳指南』3-1-4-3項の後ろの部分のИзвините.との対比を参照ください。
んん!догадатьсяやな(和文解釈の第500回とかぶってます…か?)
(お題)
残りの点については御想像にお任せします
(コーシカ訳)
Об остальном вы сами догадайтесь.
研究社、484頁、догадатьсяより丸写しです。
・発話後から始まる未来の事柄である
・聞き手自身の主体的な行動に関連している
・繰り返し、期間、習慣などの含みを持つ不完了体は適さない
といった理由から、完了体の命令が使われていると考えます。
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遂行動詞はどうでしょう?この場合命令法は完了体ですから、文脈を考慮しない(意識的に無視するということではないが)具体的な1回の動作ということであり、遂行動詞は不完了体ですから、まわりの雰囲気を読んでという感じがします。
Я поручаю вашему Воображению
остальные места.
遂行動詞だと考えて不完了体現在形を選びました。
よろしくお願いいたします。
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これはすごい。その通りです。ただпоручать = доверяя, обяывая, приказывая и т. д. возлагать на кого-либо исполнение чего-либо(信頼するか、強制するか、命令するするかしながら、あることの遂行を委ねる)ということで、出題の「想像に任せる」には、ご自由に(したければどうぞ)ということで、信頼も、強制も、命令のニュアンスもありません。つまりпоручатьとの語結合は間違いということになります。вашему ВооражениюはВашему воображениюのタイプミスでしょうか?остальные местаは他の場所(自分の発言の中のという意味にも、地理的に他の場所とも取れる)ですから、「他のこと」として、остальноеと形容詞由来の名詞を使うことを勧めます。
Об остальном догадывайтесь, пожалуйста.
ああ見たことある。でも覚えてない…。
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私も忘れてましたが、覚えている方もいらっしゃる様で、エクセルかワードで保存しているのでしょう。不完了体を使いたい気持ちは分かりますが、不完了体命令形は周りの雰囲気から当然という動作ですから、それをこの発話で聞き手や第三者に求めるのは無理というものです。唯一1人称だけが自分のすることを知っているわけで、動作の即時発効である遂行動詞を使うか、完了体命令形を使うことになります。
ご指摘のとおりなぜоставлюでなくоставляюなのか、いまいち理由がわからなかったのですが、『和文露訳指南』の遂行動詞の項を読み、頭の中を整理することができました。
Оставляю остальные пункты на ваше воображение.
状態(不完了体動詞現在形)
「お任せする」という相手に動作を委託する行為が継続して有効であって終了していないため、結果の存続(動作の結果の状態の存続)とは異なる。
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これは遂行動詞です。それとоставлять + 対格 + 与格であり、наとは結び付きません。пунктыでも悪くはありませんが、остальноеで、残りのもの、残りの点という意味を出せます。この動詞に限って言えば、оставлюとして完了体未来形にしても間違いではありません。語義的に遂行動詞というよりは完遂で使う動詞です。