2014年07月24日
●続和文解釈入門第518回
私は大学でロシア語を専攻して3年生のときに、あるロシア人の女性のもとで仲間三人と共に週1回ロシア語会話を習うことになった。その会話のレッスンのときに初めて会話での動詞の体の使い分けをどうすればいいのかという疑問が浮んだと言える。正しいロシア語はそのロシア人に聞けば、ある程度状況を日本語や片言のロシア語で説明すると、教えてもらえるので不自由はしなかったが、過程を無視して答えだけとか、なぜ片方の体がだめなのかが教えてもらえないという不満は当時もおぼろげながら感じていた。大学のロシア語会話の授業では、先生は野村タチヤーナ先生やタマーラ原先生だったが、十数人の生徒たちに対して、既に教材も決まっており、その対話体の教材の発音と構文の暗記に終始し、体を気にするようなことはなかったと記憶する。
体の用法をマスターしようと思ったのはこの10年くらいだろう。これまでいろいろな例文をかなり暗記したおかげで、仕事上のいろいろなシチュエーションでもロシア語は口からついて出てきたし、ロシア語はそれなりに通じたから、体の用法をマスターする必要は特には感じなかったが、会社を辞めてプロの通訳やガイドをするようになって、プロとしてこれではいけないと思うようになったからである。回りのプロの通訳やガイドに動詞の体のことをきいても怪訝な顔をされるばかりで、それなりに正しいロシア語が話せるというのは、体を理解しているということであり、どの状況でどの体を使うかその説明ができなくても、正しい(通じる?)体が出てくるのなら問題ないだろうということらしかった。ところが、何年か前、あるプロの通訳でロシアソ連文学の翻訳家の方から話をうかがった時に、その方は時々体の使い方でロシア人から直されると笑いながら教えてくれた。謙遜の意味もあったのかもしれないが、体の用法が確実でないのに、文のニュアンスを訳すのが難しい文学の翻訳ができるのだろうかと疑問に感じたのを覚えている。自分の場合でも、今でも体の用法を間違うことはよくあるが、間違えた瞬間なぜ間違ったかはすぐ分かる。それは次に間違えないようにと、そういう勉強をしてきたからだ。何故この体でなければならないのかを理解しなければ、何万と丸暗記した例文に頼らざるを得ず、困ったことに完了体・不完了体が同じような場面で使われる場合もあるし、明確に使い分けをしなければならない場合も多々ある。仮に実用上は問題がなくとも、体を十分に理解していないと、文学などの翻訳では誤訳の元になりはしないかと危惧する次第である。しかしそう考える人は聞いたこともないし、プロの中でもいないようだ。あまり文法、文法というと香り高い文学の邦訳が台無しになると考える先達もいる。
動詞の体というのは、これまでに磯谷孝先生、原求作先生、林田理恵先生の参考書が日本語で出ているが、それなりによい本だとはいえ、会話での和文露訳用とは思えない。ロシア語で会話をしようと思えば、一つ一つの文でまず動詞のどちらの体を選ぶか決めなければいけないのに、ロシア語の会話の授業では例文や構文(これらはロシア人が作ったロシア語で体の使い方ももちろん正しい)の暗記ばかりのように思われる。正しいロシア語文の暗記ばかりで、なぜこの体をこの文で使うと間違いなのかを生徒に教えないと、いつまでもまともな文は作れないのではないかと思う。入門の段階で、ロシア文字を覚えた時点から、会話の授業を始め、それに体の使い分けを入れるべきだと思う。そうすれば、ロシア人と会話をするとかメールをするなどという具体的な目標ができて、やる気が生まれると思う。入門や初級の段階で会話や、ましてや動詞の体は無理だということで、名詞の格変化や動詞の活用の暗記に特化した授業や例文や構文の丸暗記ばかりで、会話と体を組み合わせたような授業をしていないのが問題だと思う。生徒は馬鹿ではないし、小学生でもない。立派な大人ばかりである。このような人を馬鹿にした授業法がまかり通っていて、それに対して生徒の方から不満が出て来ないというのもおかしい話である。もっともそういう人はロシア語が難しいという一言のもとにロシア語の勉強を止めてしまうのだろう。こういう現実になんとか歯止めをかけ、語学はどの語学もそれなりに難しいが、語学の勉強は全く未知の世界を知ることにつながるわけで、丸暗記と言う機械的な勉強ではなく、動詞の体と会話を通じて、知的で、人間らしい勉強をしようと言うのが私の提案である。このコーナーの投稿者の皆さんは、そういう中で体に関心を持つ非常に奇特な方々ではあるが、私の考えでは、会話や動詞の体に重きを置く常識的な人ばかりだと思う。こういう方々が少ないのがおかしいと思うわけである。それもこれまで会話や体の重要さを初級の段階で指摘して来なかったからであろう。現実に私にロシア語をマンツーマンで習いたいという人も出てきた。この流れがより大きな流れになることを祈っている。学習者の知的関心、レベルは皆違う。入門時や初級レベルでその学習者に合ったオーダーメイドの勉強法でロシア語を学べば、中級や上級へと自学自習の道も開ける。最初が肝心であり、最初に自分で考える方法の手助けを講師がお手伝いできるかどうかがそのカギとなると確信している。
出題)「彼女は隠しごとには向いていない。感情が全て表に出る」をロシア語にせよ。
Ей не годится
держать вещь в тайне.
У неё чувства целиком
выходят наружу.
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無人称文ではне годится = не нужно, не следует, нехорошоということですから違います。私の答えは、Она не способна быть скрытной. У неё все чувства на лице отражаются как в зеркале.
У нее нет способности держать в тайне: сразу появляются все ее эмоции.
ееは不要かな?
投稿不着の件、了解です。お手数とは存じますが今後私も二度投稿することにしますのでダブったなら削除お願いします。。時間をずらせばいいのか続けてでもいいのか不明ですが、ともかくも試してみます。ありがとうございました。
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コロンは会話では分かりませんから、いずれにせよ耳では二つの文に聞こえます。『三訂和文露訳入門』10-16項にも書きましたが、使い方はそれほど簡単なものではありません。メールの練習だと言われればそれまでですが、二つの文にするか、接続詞(原因、理由、結果を示す)の勉強をなさった方がよいと思います。副動詞などもそうですが、一見簡単な方法の方が、使い方が難しい(聞き手の方で分かりにくい)のと、接続構文などの基本を抑えていないと使えないと思います。
способностьだと才能ですから、才能がないというのではかなり強い言い方だと思います。それと語結合的にпроявлять все чувстваとなります。
Держать что-то секретным не подходит к его характеру.Узнаешь как он чувствует его выражениями.
難しく、作ってしまいました。よろしくお願いします。
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彼ではなくて彼女です。二つ目の文は「すぐに」とか何か入れないといけないでしょうし、выражениеだけでは表情という意味にはなりませんし、表現で感じるというのもおかしな話です。узнаешьは完了体の例示的用法でしょうか、それとも不完了体の反復でしょうか?
Она не годиться в секрет.
Она показывает все чувство бессознательно.
向くは状態
示すは複数回繰り返される行為なので両方不完了体にしました。
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годитсяと書こうとなさったものと理解します。не годитсяは無人称文で使われるのはブーチャンさんのところに書きましたが、そうでなければгодиться = быть годным для чего-либо, удовлетворять определённым тревованиям(~に役に立つ、ある一定の要求事項を満たす)ということですから違います。すべての感情の感情は複数となり、все чувстваとなります。これは怒り、喜びなどを別々の感情としてとらえているということを意味します。それと語結合的に感情を表すは、проявлять (обнаруживать) чувствоです。
Она вообще не способна держать что-нибудь в тайне ; вся её эмоция на внешности выражается.
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いいところを言っていますが、感情は複数になります。表面に出るは、выходить наружу (на поверхность)でしょう。
前回はご指摘して頂いた通り、確かに文字だけ追いかけて書いたまま訳していました。
後から見るとなんか出来の悪い自動露訳の文みたいで、恥ずかしいです。
でも諦めません。宜しくお願いします。
Ей невозможно скрыть, потому что она не умеет сдерать себя.
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сдержать себяのタイプミスがあります。前回の指摘したようなことは、一度言われればそうかというようなもので、あまり気になさる必要はありません。言葉面にとらわれるというのは、和文露訳ということ自体が、日常会話の丸暗記以外は行われていない証左かもしれません。コツが分かれば和文露訳は体の用法も含めてそれほど難しいものではありませんが、毎日コツコツやれば1年くらいで、あらかたのところは分かります。скрытьと完了体を使うと1回の具体的動作となりますが、出題は性格(性質)を表していて、慣用(一般的には~こうだ)とか、性質は反復されるものであるとか、状態を示すのだといろいろ考えられますが、いずれにせよ不完了体の領域です。уметьは自転車をこぐとか、泳ぐなど、後天的に習い覚えた技能に関したものですから、出題のような場合は(自分を抑えるような訓練をしたというなら別ですが)使えません。
Она не способна хранить секреты. У нее все эмоции вырываются наружу.
хранить : 動作の持続性 6-1-3
вырваются : 反復・習慣・普遍性 3-1-2
両方とも性質・性向でも定義できませんでしょうか?
способна : Толковый словарь Дмитриевより
2. Если кто-либо способен к чему-либо, на что-либо и т. п., то это означает, что этот человек обладает психологическим потенциалом для совершения какой-либо деятельности, построения взаимоотношений с кем-либо и т. п.
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держать что-либо в секретеとなり、хранить тайну, хранить что-л ибо в тайнеという語結合もありますが、秘密(機密)を洩らさないという意味ですから、少し違うように思います。体の用法ではご指摘のように、性格、性質を示す不完了体を使うべきで、способныйは最適な選択だと思います。тайнаとсекретは同義語ですが、секретは個人的で具体的な秘密であり、個人の利害、個人や少数のグループの情報に関係します。隠れた理由や、ある過程や現象の原因と言う意味では両方使えるが、секретが口語で冗談めかして使われるということもご参考まで。
(お題)
彼女は隠しごとには向いていない。感情が全て表に出る。
(コーシカ訳)
Она не может таить какое-нибудь дело.
Ее чувства полностью проявляются.
можетは能力の不完了体現在
таитьは語義が長期に亘る故の不完了体不定形
проявляютсяは恒常、繰り返しの含みを持つ不完了体現在です。
さて、正解は
не способна быть скрытнойですか!
скрыватьまでは行ったのですが思いつきませんでした。
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最初文を複数にして不定性を出すということと、все чувстваに代えれば、正解に違いと思います。