2014年07月18日
●続和文解釈入門第512回
『三訂和文露訳入門』に下記追記願う。
3-1-4-8 遂行動詞と否定
遂行動詞の否定(専門的に言えば発語内的否定)は、元の発語内行為の否定ではなくて、保留であり、「ない」は遂行動詞ではないということが入江幸雄先生の『発語内的否定と質問』という論文に書かれている。つまり遂行動詞を否定すると、否定された動詞は遂行動詞とは言えず、遂行する動作自体が存在しなくなるのだから、「~しないことになっている」というような、動作自体を否定し、一般的にこうだという意味にしかならない。またパードゥチェヴァ先生も遂行動詞は否定を許容しないと述べておられる。遂行動詞の用法を否定文で用いたければ、否定の強調(3-2-2項)を参照願う。
(戻ると僕は約束する)Я обещаю вернуться. <遂行動詞>
(戻るとは約束しない)Я не обещаю вернуться. <パードゥチェヴァ先生は保留というよりは拒否のニュアンスがあると述べている>
(万事順調)Я не жалуюсь. <= Всё в норме.ということで、Как дела?〔調子はどう?〕の答え。文字通りでは「文句はない」だが、そこから派生して、形式は否定文だが、意味的には肯定であり、遂行動詞的用法となったもの>
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出題)「最低1カ月はリハビリに必要だ」をロシア語にせよ。
Минимум один месяц
нужен для
реабилитации.
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正解です。私の答えは、Как минимум месяц нужен на реабилитацию.
Реабилитация требуется минимум месяц.
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Минимум месяц требуется на реабилитацию.でないと文法的におかしいと思います。
По меньшей мере нужен месяц для реабилитации.
まんま直訳しか思いつきませんでした。
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正解です。
Реабилитация займёт по крайней мере один месяц.
具体的な期間が示されているのと、未来で完結する事が前提になっていると思ったので完了体にしました。
занять とзанимать
потребоватьとтребовать
добратьсяとдобираться
等
少し苦手意識があります。
時間に関して、いつも同じだけかかるものなら不完了体かなと思って判断基準にしています。
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正解ですが、具体的な人に対してということであって、期間があるのでといいうことなら不完了体が普通です。不完了体を使うと慣用(一般的に~である)であり、出題を読む限り、読む人のイメージで体の使い分けも変わります。期間については具体的であろうと、時間軸の点ではなく、長さですから不完了体と考えるのが普通です。お答えでは、期間を一つのものとしてくくっている(動詞が時間を直接補語にできる、つまりкаждый деньのような対格の副詞的用法の期間を示す状況語ではなく、名詞そのもの)からでしょう。ご提示の最初の二つは動詞は、体のぺアの中に、不完了体は状態の動詞の用法があるものです。добратьсяはロシア人と話していて、「行く」を歩くか、車かを明示しない場合どうするかという話になって、ロシア人の女性でしたが、しばらく考えてдобратьсяを使えばよいとおっしゃっていたのを思い出します。
Для реабилитации нужен минимум месяц .
よろしくお願いします。
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正解です。
んん、見覚えのある出題(第87回)。でも今の頭で考えてみよ
(お題)
最低1ヶ月はリハビリに必要だ
(コーシカ訳)
На реабилитацию требуется по меньшей мере месяц.
требуетсяと不完了体現在なのは(辞書の丸写し、なんやけども)…
何でしょう、予定の用法?
症状ないし現状という動かしがたい外的要因、それを意識した不完了体現在と考えます。
では、先回と比較
う~ん、ねこはやっぱりばか頭…
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正解です。すみません。出した方は完全に忘れていました。この出題の答えは、はりねずみさんのところに書きましたが、訳す人の受け止め方次第だと思います。一般的にこの怪我でリハビリするのならという慣用の用法なら不完了体現在形か、それに準じる叙想語を使いますが、具体的な人の怪我なら、具体的1回行為というのは完了体の領域ですから完了体未来形が使えます。
Нужно не менее месяца на реабилитацию.
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не менееというのは「以上」ですから違います。менее(未満)、не более(以下)で、数学の教科書の説明では、знак "не меньше" (больше или ровно) ≧ とあります。
1) На реабилитацию понадобится не менее месяца.
2) Реабилитация займёт минимум месяц.
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2)は正解ですが、1)のне менееは以上であり、最低というのは、(いくら)少なく見積もってもであり、ニュアンス的に違うのではないかと思います。
勘違いかも知れませんが、私は遂行動詞を三つタイプで考えています。一つ目は報告するや、連絡するの様に発話=行為(主に話す事が関係する動詞)のもの、二つ目は解除や禁止の様に発話をもって行為が有効になるもの、三つ目は許すや分かります当の意思表示に関わるものです。
三つ目の場合否定でも遂行動詞の様に感じてしまう場合があります。
例えば殴られた後等の
「許さない!」は否定の強調で完了体を選ぶのが正しいのかもしれませんが、時制を考えると発話によって許さないという意思表示が遂行される(許さないのは一瞬先を含む未来では無く現在から)と考えて不完了体を選んでしまいそうです。
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遂行動詞というのは名の通り、動作が遂行される動詞ということであり、動作が起こらなければ遂行動詞とならないのです。つまり動作が起こらない以上、終了(遂行)ということはあり得ないという論理的な発想です。「許さない」を不完了体現在形の否定で表現すれば、(一般的に)許すという動作はない、ということを示していて、不完了体ですからロシア語では主観的ニュアンスもないという平板な表現です。一方ご説にある3つ目は、意思表示に関わるために、主観的動作となりやすいということは言えます。Я понял.とЯ понимаю.などを見れば分かります。これについては第39回本文で書く予定です。「許さないから!」と言われたら、感情を込めた(つまりはかなり主観的である)表現であると理解するのが普通です。そのため叙想的(主観的)表現である、完了体を用いるわけで、不可能(許すことができない)というニュアンスにも取れますからなおさらです。また遂行動詞には3つあるとの指摘ですが、オースティンは遂行動詞には他に権限行使型、判定宣告型を入れて5つあると述べています。
完了体は進行形(過程)に用いることができないということから、未来でも過去でも時間軸の一点に動作があると私は考えました。この一点に動作があるということは、動作自体に焦点があるということを意味します。動作に焦点を結ぶことで動作がはっきりと具体的と見えます。これは一般的ではない個々の事例に即していると言いかえることができ、それは主観的であるということにもなります。それゆえ主観的な事柄には完了体を用いるのだというのが私の考え方です。『和文露訳指南』3-1-4-8項参照願います。
詳しい説明をして頂きありがとうございます。
ぼんやりしていた所がとてもよく分かりました。
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こちらこそありがとうございます。ご説については次回の本文で取り上げます。ご説をより深めて研究すれば、アスペクトに関する新しい視点での研究になるかもしれません。『和文露訳指南』3-1-4-8項の入江幸男先生の『発話内否定と質問』という論文はネットで見ることができます。ご参考になるかもしれません。私は和文露訳という観点からそれなりに納得したのですが、ただ納得するだけでは学問は進歩しません。新しい発想が問われるところです。