2014年07月14日
●続和文解釈入門第508回
否定文において完了体(完遂)と不完了体(動作の欠如)ではっきりと意味の違いが出る例があるので紹介する。「スポーツ選手はまだ休憩を取っていなかった」は二通りに露訳できる。
Спортсмен ещё не отдохнул. <休憩を始めたが、休憩は終了していない>
Спортсмен ещё не отдыхал. <休憩の動作が始まっていない>
出題)「24時間後にここに戻ると誓う」をロシア語にせよ。
Я даю клятву, что я
вернусь сюда спустя
двадцать четыре часа.
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体の用法も語彙もほぼ正確ですが、спустяが問題です。черезとспустяの違いについては何度か申し上げたと思いますが、черезは未来でも過去で使えますが、спустяは過去だけです。未来のことなのでчерезを使うべきです。Год спуся у них родился сын.(その1年後に彼らには息子が生まれた)
私の答えは、Я даю честное слово, что через двадцать четыре часа я буду здесь обратно.
主文は遂行動詞。
Обещаем, что мы через 24 часа вернемся сюда.
一人称単数として「ここ」が小部屋どころの場ではないとしみじみ感謝です。残念ながらちょっとでも歯がたちそうな時しか戻って来られませんが(不完了体・・?)。
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正解です。これだけできれば大したもので、ご謙遜なさる必要はありません。語彙は人によって違います。プロでも何でも訳せるわけではなく、得意分野があるのが、また仕事もある分野に集中するのが普通です。体の用法だけ書いて参加されるのも一つの手かと思います。「誓う」だから現在形(現在の時制には完了体は普通は使わないから不完了体)と考えると、「戻る」にどうして完了体未来形をお使いになったのか分からなくなりますね。これは日本語の時制の形式は、過去とそれ以外(非過去)、つまり、過去だけを~たで示し、それ以外の現在と未来は形はル形(ウ形)で、時制は文脈で示されます。こんなことを同じ日本人同士で言うのはどうかと思いますが。大学入試用や高校の英語の授業ではwillを~だろう、~でしょうという推測で訳すという便宜的なやり方をしていて、日本人のロシア語学者でもロシア語の参考書の訳にこれを援用している人が多いですが、日本語としては間違いとしか言いようがありません。今回の出題の「誓う」は遂行動詞です。
Я клянусь, вернусь здесь через двадцать четыре часа.
誓うについては、発言そのものと行為が一致しているので終点がなく、終点を除く始まりから終わりまでの過程と考えて不完了体、現在を捉えているので現在時制。
戻るは話し手の意図が込められているので完了体未来にしました。
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出題は複文ですから、「~ということを(誓う)」の英語で言えばthatという接続詞чтоをвернусьの前につければ形の上では正解です。もっともЯ клянусьは挿入語であると、高度なテクニックを使ったのならそれはそれで正解です。体の用法が正解だから、いいようなものですが、なぜそうなるのかを正しく理解していないと、応用が利かず、いつまでも勘を頼りに、まぐれあたりを頼ることになります。「誓うについては、発言そのものと行為が一致している」までは、その通りですが、終わりはあります。その証拠に聞き手は、この発話(発言)のあと、誓いは成立したと了解するでしょう。このように発話とともに動作が始まり、発話の終了と共に動作が終わる(意味が聞き手に伝わる)動詞を遂行動詞(『三訂和文露訳入門』3-1-4項参照)と言います。これは1960年代にアメリカの学者が唱えたもので、英語のみならず、日本語にも、ロシア語にもあります。ただ同じ意味を表す動詞が、同じように遂行動詞になるとは限りません。日本では英語学者や国語学者に研究者がいますが、ロシア語では、一般向けには遂行動詞を解説した参考書はないようです。これは日本で出ているロシア語の参考書は露文解釈が中心であり、和文露訳を考えていないからだと思います。
「あなたの勝ち(負け)」をYou win (lose).と現在形を使うのも、遂行動詞であり、日本語では「あなたが勝った(負けた)」というので、これも一致しない例だと思います。日本語とロシア語が一致する例を挙げます。
(ここに開会を宣言します)Объявляю собрание открытым.(= Я открываю заседание.) <この発話をしたとたん、会議が正式に始まることになる>
完了体未来形というのは、一瞬後かそれ以降に動作が始まり、Я поеду на машине.(車で行く)と言ったとして、動作が始まるのは、車に乗る、あるいはエンジンをかける、アクセルを踏むなどの動作があり、こう言った途端車が動き出すわけではありません。魔法でも、呪文をかけるなどの動作が必要です。和文露訳をやろうとすると、遂行動詞と完了体未来形や不完了体未来形との違いを意識せざるを得ず、用法の違いを明確に把握する必要があることはお分かりになったと思います。ただロシア語を始めて3カ月ほどで、これだけ分析的に時制をとらえている人は初めてです。日本語とロシア語の時制の違いを明確に理解することがロシア語上達の早道であり、理詰めに文法を勉強することが楽しくロシア語を続けられるコツであると確信していますが、実際にそのような人がいるというのはまことに心強い限りです。ハリネズミさんのような人が増えることを願ってやみません。
それと「意図がこめられているから完了体未来形」というのは、必ずしも正しいとは言えません。不完了体未来形でも、雰囲気に沿ってなら意図を示しますし、意図を示す叙想語собираться, намерен(~するつもりである) + 不定形(『三訂和文露訳入門』4-1-3-1項参照)も使えます。今回の出題は、未来において動作が完遂するから完了体未来形を使っているのです。無論完了体ですから主観的ニュアンスは出るでしょう。
Я клянусь вернуться сюда через двадцать четыре часа.
「遂行動詞」でしょうか?よろしくお願いします。
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正解です。ついに遂行動詞を会得されたようで、おめでとうございます。今回の出題で正解を出せる人は何十人も、何百人もいるでしょうが、遂行動詞と理解している人はあまりいないと思います。区別ができないと、暗記に頼るほかになく、完了体未来形の区別ができない可能性があります。ロシア語と日本語でも遂行動詞がすべて一致するわけでもありません。このコーナーを見て、遂行動詞の存在に気づいてくれる人が増えることを願っています。
(お題)
24時間後にここに戻ると誓う
(コーシカ訳)
Я обязуюсь вернуться здесь через 24 часа.
「誓う」は遂行動詞の不完了体現在
「戻る」は「24時間後に」と1回の具体的な動作ですから完了体不定形です。
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正解ですが、обязуюсьは誓約書(禁酒とか他言無用とか)で使う文言ですから、会話では使わない方がよいと思います。
Я клянусь. что через 24 часа я сюда приеду обратно.
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正解です。
コメント有難うございます。私の「(不完了体・・?)」は設問そのものへの質問ではなく、「歯がたちそうな時しか戻って来られません」の「戻って来られる」は、могу вернуться でいいのかなと思ったのです。 まぎらわしくですみません。
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мочьは不完了体の助動詞で、「できる」という意味の習慣、反復、性質を示し、同時に話し手の主観を示す叙想語ですから、反復でないかぎり、つまり1回の具体的な動作を示すなら完了体不定形が来ます。ご質問の場合も完了体不定形が例示的用法を示すと考えても結構です。この場合は同じですからいいのですが、肯定文で使える体が否定文で使えるとは限りません。
遂行動詞というのですね。
NHKの時報「○○時をお知らせします」もこれに当たるのかなと思いました。
示して頂いた項目をしっかり読んで勉強したいと思います。
紛らわしい表現をして申し訳ありません。
終点がないと書いたのは、終わりがないと考えた訳ではなく、発言と行為が同着で終わるので、発言が行為の終点(終わりの瞬間)を捉えられないのではないかと考えたからです。
自分の解釈が合っている自信は全くありませんが、お伝えしたかったのは
この文は行為の最初から終わりまでの過程(終わりの瞬間を除く)を表しているので不完了体という事です。
行為と発言が別々の場合は発言の内容で行為の完結を表せる(聞き手は話の内容を知る事によってその話しの中で表現される動作の行為の完了・不完了を知る)けれど、今回の様な状況では聞き手は発言の中身というよりも発言の終了によって行為の完結を知ったのかなと思って終点を除くと書きました。
体を勉強し始めた時、毎回時間を軸に取って図を書いていたので、余計な事を考えてしまうようです。
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その通りで、「~お知らせします」もロシア語でも遂行動詞です。遂行動詞について、用語は別にして正しくご理解されたようです。ただ気になるのは、過程(進行形)は始めと終わりを想定している点で、状態とは違うということと、「行為の終点(終わりの瞬間)」は遂行動詞にはあるというのは、そうでないと聞き手に意志が伝わらないからだと思います。そうではない、終わらなくても意思は通じるというのも一つの考え方だろうともいます。用語の定義の仕方もあり、その解釈を押し付けるつもりはありません。この辺は学者の解釈にもなろうかと思いますが、要は我々は遂行動詞というものが日本語にもロシア語にも(英語にも)あり、その使える動詞が日本語とロシア語では異なる場合があるということを認識するということです。
遂行動詞が不完了体現在形なのは、私の解釈では、イェスペルセンの『文法の原理』(安藤貞雄訳、岩波文庫、2006年)にあるように、現在の時制というのは、現在のこの一瞬(常に未来に向かって動いている)を含むものは現在の時制で表現されるからだと思います。現在の時制の過程(現在進行形)や反復に不完了体現在形を使うのもこういう考え方で理解できます。基本的にロシア語で現在の時制をあらわすのは不完了体現在形であり、遂行動詞は発話と同時に動作が始まり、発話の終了とともに動作が終わりますから、現在以外の時制(発話の時点ということで従属文で使われることはありますが)では使いません。私の提唱する体の定義でも「不完了体は話し手が動作遂行の結果として、時間軸の特定かつ不動の一点をイメージしない」ということで、発話と共に動作が始まり、発話の終了と共に終わるということは、動作が動いている(不動ではない)時間軸上の一点にあると言え、そこから遂行動詞では不完了体が用いられるとも言えます。
遂行動詞ではなくとも、述語の遂行動詞的用法はいろいろあります。Спасибо. (= Благодарю.)感謝します
О'кэй (= Согласен.)了解
За. (Против)賛成(反対)
回答はчтобыでつないではだめなのか
を考えてみました
Я клянусь, чтобы вернуться здесь через 24 часа.
城田文法を見る限り成立しそうに感じます。
ただ
・誓うという語義の強さ
・不完了体から感じる強さ:発話者にはどうにもできない
と仮定法の弱さがそぐわないことを考慮して
чтоを用いるのかな、という気もします。
模範解答の場合は、一言一句、…との言質を与える、というような意味なので
чтоが使われているのであろう、と判断しました。
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そういう問題ではなく、語結合の問題です。клястья, чтоは使えるが、чтобыは使わないということと、「~することを誓う」は理解できるが、「~するように、~するために誓う」というのはどうかということです。вернуться здесьではなく、сюдаでしょう。