2014年05月18日
●続和文解釈入門第451回
『日ロ現場史』(本田良一、北海道新聞社、2013)を読んだ。北方4島の領土問題に関連して、レポ船、特攻船(小型の高速密漁船)、ロシア密漁船、北洋漁業など歴史的背景から分かりやすく説明しており、北方領土問題を論ずる上での必読の書である。115ページに「牧草の上でほえる犬」とあるのは、多分собака на сене(a dog in the manger)だと思うが、それなら「(自分には不要なのに他人には使わせない)意地悪な奴」ぐらいの意味であろう。
出題)「もし私をそそのかすのであれば、我々の話は堂々めぐりになりますよ」をロシア語にせよ。
Если вы намереваетесь
меня подстрекнуть,
наш разговор будет
ходить не доходя до
сути дела.
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出題は「そそのかす」であって、「そそのかすつもり」ではありません。それと、ことの本質に至らずに行ったり来たりするというのは、文脈に沿ってというよりは新規の事柄ではないでしょうか?出題は順次的用法と例示的用法の組み合わせと考えたほうがすっきりします。私の答えは、Если вы меня провоцируете, то наш разговор пойдёт по кругу.
「堂々めぐり」はзацикленность, сказка про белого бычкаなどと言う。
「堂々めぐりをしている」なら、下記のようになる。
В голове крутится (вертится) одна мысль.(頭の中で同じ考えが堂々巡りをしている)
Все разговоры вращаются (крутятся, вертятся) вокруг одной темы.(話はすべて同じテーマを堂々巡りをしている)
Приговор вращался около предполагаемого назначения Хвостова министром.(フヴォストーフを大臣に任命しようかということで決議が堂々巡りをしていた)
「悪循環」も使える。
Экономика вращались в порочном круге.(経済が悪循環していた)
Если вы соберётесь меня заманить, то ни в ком случае мы не договоримся.
例示的用法と思い、完了体にしました。
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体の用法はその通りなのですが、собратьсяは『三訂和文露訳入門』4-1-3-2項のイ)に書いたように、完了体ゆえに主観的ニュアンスがありますから、使用には注意が必要です。出題は「そそのかす」であって、「そそのかすつもり」ではないのですから、собраться/собиратьсяを使わなければよいのです。ただзаманитьはおびき寄せるという意味なので別の動詞の完了体を使うべきです。主文は「合意しない」という意味であり、堂々巡りとなるという意味にはなりません。
「日ロ現場史」、私も読みました。後半の外交史の部分も勉強になりましたが、貴重な証言を掘り起こしていく前半の漁業現場の話は、より興味深かったです。
Если меня подобьёте, наши разговоры будут идти вокруг да около.
前半は例示の用法でСВ、後半は未来の反復でНВとしました。よろしくお願いします。
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前半はいいのですが、そそのかしたら、すぐ堂々巡りになるということで、順次的用法を使うべきです。будутを入れて不完了体未来形にすると、時間が空く感じがします。後半が未来の反復(不完了体の規則的反復)というのであれば、それは確実に何度も起こるということで、前半の例示的用法(偶発的反復)と矛盾しませんか?
Если вы провоцируете меня, то наш разговор не найдёт выхода.
例示でсов。
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体の用法は正確です。ただ「解決策を見出せない(出口が見えなくなる)」(完了体未来形の不可能か、否定の強調であり、完了体未来形が続いているので、順次的用法でもある)だけでは、堂々巡りの意味が出ません。この出題は、体の使い分けが正しくできているかどうかが主眼ですから、例示的用法、順次的用法、つまり完了体未来形が二つ続くということが瞬時に分かれば、あとは語彙の問題です。語彙の問題はいつも書いていますが、大したことではありません。覚えるか、あるいは私がするように、エクセル形式で和露の語彙集にストックして、いつでも取り出せるようにすればよいだけのことです。一人で常にどの語彙も通訳できるということはあり得ませんし、その必要もありません。ストックをもっていればいいだけのことです。
そそのかすのかどうか分からない、しかしそそのかすのであれば毎回堂々巡りである、と考えました。409回の文を参考に考えましたが、同じ状況ではなかったようです。
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第409回の私の回答は、質問が出るということを前提にしており、質問からその説明まで、間があるという感じで不完了体未来形が使われています。一方今回の出題は「堂々巡りになる」という動作であって、「堂々巡りである」という状態を示しているわけではありません。またそそのかせば、必ず規則的に(頻繁に)堂々巡りであるという未来の反復というのは、そそのかすという語義がこのような規則的反復とはなじまないような気がします。規則的反復というのは、通学するとかということで、彼は頭が悪いので、いつも議論は堂々巡りであるというような文脈が規則的反復だと思いますし、出題は反復は反復でも偶発的反復でしょう。