2014年02月06日

●続和文解釈入門第358回

完了体命令形は強調の意味があると間違って思いこみ、それが不完了体命令形との使い分けの違いだと考えている人がいるようだ。多分研究社の露和のсестьのところの説明に、「完了体сядьтеは命令、不完了体садитесьは促し・勧めを表す。садитесьの多用から、具体的・特定的な一回動作でもсадитьсяを使うことがある。同様な傾向はлечь, ложитьсяにも認められる」とあり、岩波の方には、「Сядь(те)!座れ/Сади(те)сь!おかけなさい(完了体が命令を表すのに対して、不完了体は勧誘を示し、より丁寧な、やわらかい表現となる)とあるからかもしれない。命令とあるが、命令文は全て命令であり、その強弱があるだけなのでこの命令は誤解を招きやすい。この命令は命令の強調だと理解する。完了体命令形が強調を示すというなら、Скажите, где туалет?(トイレはどこか教えてください)は強調であり、強調したくなければГоворитеを使うということにもなりかねない。いやいやそうではなくて、сестьみたいのだけが例外だという説明になるのだろうか?これでは完了体と不完了体の用法が動詞や動詞群によって使い分けが行われるということになってしまう。Скажитеは新規の動作だから使うのであって、強調だからということではない。

 「おかけなさい」はСадитесь.と習い、なぜ完了体命令形Сядьте.を使えないのかの説明を大学の時に先生やロシア人にも尋ねたが、納得のいく回答は得られなかったので、このまま覚えてしまった。それから15年ぐらい経って、モスクワ駐在員の時にザゴールスク(現セールギエフ・ポサード)にある大修道院(1993年世界遺産認定)で神父さんに中の説明を受けていたときのことである。その神父さんが何かの用事で席を外さなければならなくなり、そのときソファーを指して、Сядьте.と我々に言ったのを覚えている。後でなぜСадитесь.と言わなかったのだろうと気になり、そこから真面目に体の使い分けや用法に取り組んだわけである。今にして思えば、ソファーのことは我々は気にも留めていなかったし、それまで立って説明を聞いていたわけだから、座ることは考えていなかったので、話し手にとっても、聞き手にとっても座るという動作は新規の出来事であり、だからСядьте!と完了体命令形を使ったのだということが分かる。

(おかけください。テーブルの近くにどうぞ)Садитесь. Сядьте ближе к столу.

上の文のСядьтеは強調ではなく、机のそばという新しい状況を提示しているから完了体命令形が来ており、Садитесьと同じ単語を二度繰り返して使わないというロシア語の文体的な美的感覚ということも少しはあるだろう。

 ロシア語の小説を読んでСадитесь!を使うべきところに、Сядьте!を使う場合が稀にあるが、これは使う人が野卑な感じを出そうとして、つまり不完了体を使うところに完了体を、完了体を使うべきところに不完了体を使うと場違いという感じで、文体上、非礼な感じを出すための作者の意図だと考えている。これは日本語の二重敬語などにも言えることである。

 完了体と不完了体の用法の違いの本質にあるものは何かということに、これまでの参考書は触れて来たが、それはあくまで露文解釈の観点からであり、正しいロシア文があり、そこから体の用法を解釈していたわけである。ところが会話において和文露訳をする場合に、どういう基準において体を使い分けるかについての明確な指針を示すような参考書はなかったわけである。フォーサイス先生の本でも、原求作先生の本でも、露文を念頭に置いた参考書だから当然と言えば当然なのだが、露文解釈の観点からしか書いておらず、細かい完了体と不完了体の時制や法における用法の細かい違いばかりを扱っている。体の用法は動詞ごと、あるいは動詞群ごとで用法が変わるというのであれば、それは『三訂和文露訳入門』の第1章(完了体と不完了体の違いの本質が書かれてある)を読まないで、第2章以降の完了体と不完了体の細かい使い分けのみ勉強するということであり、これまでの体の用法についてのこれまでの参考書の考えと同じである。体の使い分けをマスターするには、大本の完了体と不完了体の違いの本質を理解するのが不可欠である。その現れ方が、動詞群によって強弱があり、それを個別に学び、かつ常に頭には体の用法の大本は何かということ置いておかないと、体の用法の奥義はつかめないし、会話でも活かせないことになる。なぜ現れ方に強弱があるのかというと、動詞の語義自体にそれぞれ完了体の出やすいもの、不完了体が出やすいものという本質的な差があるからである。『三訂和文露訳入門』で一番重要なのは第1章であり、ここを再読、再々読して理解すれば、体の奥義は会得したことになる。その理解のために第2章以下があるわけである。

出題)「子供の頃から喉が弱かった」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2014年02月06日 06:33
コメント

С детства у меня
горло было слабое
место.
------------------------------
「喉が弱点だった」というのは、いろいろ解釈が可能です。病気なのか、喉が弱くて歌に声量がない、キックボクシングでは喉のところのガードが甘いなどです。私の答えは、Я страдал горлом с детства.
過去のある時点からある時点までの経過を示している。過去完了(大過去)の継続の用法。『三訂和文露訳入門』2-1-7項参照。

Posted by ブーチャン at 2014年02月06日 08:08

С детства у меня горло слабое.
よろしくお願いします。
------------------------
「弱かった」は厳密に言えば過去の時制です。もっというとアオリスト的用法で、過去に弱かったが、現在も弱いかどうかまでは述べていない(結果の存続ではない)ことになります。お答えは過去から現在までの動作(状態)を示していますから、違うと思います。

Posted by yama at 2014年02月06日 19:44

С детства с горлом не очень хорошо.
--------------------------------
これも過去から現在までの状態(「子供のころから喉がよくない」)を示しています。ところで動作主がないのが気になります。у меняとか入れるべきだと思います。

Posted by ゴ at 2014年02月06日 23:57
コメントしてください