2014年01月31日
●続和文解釈入門第352回
ある機縁で1996年初出の『弟』(石原慎太郎、幻冬舎文庫、1999年)を読んだ。弟の石原裕次郎(1934~1987)との思い出について、二人の交わりを淡々と、弟を思う心温まる筆致で描いており、裕次郎の演技や歌について覚めた目で見ているのには共感が持てる。歌手の石原弘(初対面から裕次郎といきなり言われ、礼儀のうるさい裕次郎は生涯口を利かなかったという)、俳優の三船敏郎(性格的には見かけと違い線の細い)、渡哲也との関わりに、より裕次郎とは何かを鮮明に浮き上がらせている。天才横山やすしのように我がままなので、裕次郎に惚れん込んだ人には良いのだろうが、そうでなければそばにいて疲れる人のようである。渡哲也のように惚れ込んだゆえに、大動脈解離で死にかけた裕次郎がぼけてまで生きのびて名を汚してほしくないと実力行為をほのめかしたエピソードなど興味深い。子供ができなかったので、著者の4人の子息のうち3人とのエピソードも面白い。いずれにせよ太く短くという人生の裕次郎に対するオマージュとも言える。新しい時代を切り開いた二人の交情がせつない。石原慎太郎の小説は読んだことがないし、これからも読むことはないだろうが、本書を読んでプロの小説家の文章はこういうもので、自分にはとても書けないと感じたことも確かである。
著者が都知事選に出ることになった時に、当選を危ぶんだ裕次郎が現金2億円をカバンに詰め込んで持ってくる場面がある。慎太郎は好意だけを受け取って、裕次郎には帰ってもらったとあるが、その時に裕次郎は小佐野賢治と会えと勧めたという。裕次郎の持ってきた2億の金の出処については書いていないが、想像はできる。小佐野とは会ったがそれだけだという。慎太郎はそれまでに代議士を務めており、金にはもらっていい金とそうでないものがあるということも含めて、政治家と金についてはよく知っていたろう。猪瀬元知事もベストセラーだったこの本を読んでいたと思うが、このくだりは失念したのだろうか?政治家としての修業を積まないで、いきなり政治の中枢に入る危うさを感じる。青島幸男は議員も経験していたが、そういう意味での政治家としてのキャリアはゼロに等しかったように思え、都知事としても何の業績も残していない。石原慎太郎は東京のディーゼル車排ガス規制などのプラス評価もあり、新銀行東京などのマイナス面もあるが、知事としての存在感を示したということは言える。
出題)「私は問題を具体的に提起します。彼を信じていらっしゃいますか?」をロシア語にせよ。
Я поставлю вопрос
конкретно.
Вы ему верите ?
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微妙なところです。二つの文の間が開いているということは、間を置いているわけで、最初の文の発話直後では、質問は出されていないわけです。ただその一瞬後には動作は完遂するわけですから、二つ目の文が出てくる余地はあります。このように考えられるということですが、二つの文を続けて言ったとしたら、それは間違いとなります。最初の文の発話直後に問題提起という動作はなされていないからです。そうなると遂行動詞を使うのが自然だということになります。私の答えは、Я ставлю вопрос конкретно: вы ему верите?
ставлюは遂行動詞。出題の発話には二つの文が続いているわけで、最初の文を完了体未来形にすると、動作が終わるのは最初の文の終わった直後ではなく、一瞬後かもしれないが未来である。その一瞬後の未来というのは早くともこの発話が終わってからとなり、そのため遂行動詞を使う必要が出てくる。
Я ставлю конкретный вопрос. У вас к нему доверие?
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遂行動詞を使っているのは正解です。これは大したものです。ただお答えを直訳すると、「具体的な問題を提起します。あなたは彼に信頼がありますか?」となり微妙に出題とは違います。具体的な問題と、問題を具体的にの違いは日本語と同じです。верить = вполне доверять кому-либо, полагаться на кого-либоということなので、доверятьより意味は強いと考えてよいでしょう。