2014年01月04日
●続和文解釈入門第326回
最近テレビや雑誌で「神の手」という言葉をよく聞く。天才的な医療テクニックをもった医師を指すようだが、直訳しても面白くないなと思っていた。マリーニナの「他人の仮面Чужая маска」というミステリーを読んでいたら、非常に高い技術を持つ医師のことをврач от бога と書いているのを見つけた。これなども神の手という意味で使えるかもしれない。
出題)「二つのことをいっぺんにはできない」をロシア語にせよ。
Не разбираться с двумя делами одновременно.
よろしくお願いします。
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絶対間違いとは言いませんが、お答えのようにне + 不完了体不定形を使った不定法は、不必要、禁止と理解されるのが普通です。私の答えは、Я не могу разрываться между двумя делами.
不可能の意味で不完了体不定形を用いる例。『三訂和文露訳入門』6-2-5-1項参照。
Нельзя заняться
двумя делами
одновременно.
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不可能は完了体(完了体過去形を除く)の否定ですから、初級者や中級者はそれでいいのですが、ブーチャンさんぐらいの上級者になるとそれではいけません。不可能という意味では後に続く不定形は完了体が一般的ですが、動作遂行が主体の権限や能力を超える場合は、不完了体動詞不定形が来ます。これは不完了体の嫌気、不本意、不適切というニュアンスが出るからでしょう。これはне мочь/не смочь, нельзя (невозможно, трудно) + 不完了体動詞不定形についても言えます。
Нельзя сделать два дела вместе.
Невозможно делать два дела вместе.
一般的なこととして、と考えました。
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делать/сделать два дела вместеは「二つのことを一緒にする」ですから、同時ということには必ずしもなりません。出題の「二つのことをいっぺんにする」ことが、普通の人間にとって可能なのかということを考える必要があります。神やスーパーマンでない人間にとって、客観的に絶対に不可能かどうかです。そういう意味での不可能なら不完了体不定形をмочьの否定とともに使うということです。ですから文法的にはделатьと不完了体不定形を使うべきです。一般的にどうとかということではありません。もっとも一般的という意味を上記の意味で使っているのなら話は別です。
(お題)
二つのことをいっぺんにはできない
(コーシカ訳)
1) Невозможно справиться с двумя делами одновременно.
2) Нельзя выполнить две работы одновременно.
不可能は不完了体ッ!と思っておりましたが
辞書の例文を6-2-5で検証して納得しました。
さて、正解は
>動作遂行が主体の権限や能力を超える場合は、不完了体動詞不定形
>不完了体の嫌気、不本意、不適切というニュアンスが出るから
なるほど。不可能の理由を特に明示せずとも(それくらい考えたら分かるやろという意味でも)
不完了体が来ても不自然さはなかったのですね。
不完了体での例を考えてみました:
Ведь я должен заботиться о новичках.
Не могу справлять с двумя работами одновременно!
だって新入社員の面倒だって見なきゃいけないんだよ。
ふたついっぺんになんてできないよ!
(先ず不可能な状況を提示した上で不完了体不定形)
Учитывая сложности обработки,
невозможно выполнять эту работу лишь с одним станком.
加工の難しさを考えると、この仕事を1台の機械だけでこなすのは無理がある。
(先ず不可能な理由を提示、仕事自体も時間を食う内容なので不完了体不定形)
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何か勘違いなさっているようなので、書いておきます。不可能は完了体未来形や完了体不定形の否定形を使うのが普通です。これは例示的用法と関係があります。仮に~ということがあっても、できないと考えるわけです。不可能に不完了体不定形がмочьの否定と共に用いられるのは、体を二つに割ることはできないとか、我慢の限界を超えているというように一般常識に照らして、その能力を越えていると話し手が感じるときです。理由を先に説明さえすれば、不完了体が使えるというものではありません。ですから1)、2)とも工作機械で作業すれば、ということが念頭にあるなら同時作業も可能ですから、正解ということになります。二人一ぺんにでも、10人いっぺんにでも新人研修の担当者にとってはその人個人の能力的にはともかく、一般常識で無理ということはありません。工作機械については1台で何台もの機能を兼ねるものはよくあるものです。
不可能は完了体は具体的な1回の動作や行為について、不完了体はそれ以外の(反復)と考えると分かりやすいかもしれません。工作機械がこの課題はこなせないというのは完了体、もうこれ以上あの人には我慢できない(未来の反復を想定)は不完了体という考え方もできそうです。