2014年01月01日

●続和文解釈入門第323回

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。『三訂和文露訳入門』を上梓した後も、和文露訳をする際に、より分かりやすい体の使い分けという観点から、まだしつこく体の本質について考えております。

 磯谷孝先生は『演習ロシア語動詞の体』(吾妻書房、1977年)で、「完了体は完成(全一性、一体性)をはっきり打ち出すのに対し、不完了体は、この完成という特徴があるともないともいわない、ということによって完了体、不完了体は対立する、というのが、現在、最も有力な体の理論となっている」と述べている。この通りだとは思うが、これでは文字通り漠然としていて、和文露訳における実戦的な体の使い分けには使えないことが分かる。そこで、「和文露訳から考えた体の本質は、完了体は話し手が動作遂行の結果として、時間軸の特定かつ不動の一点をイメージする」と私は提唱したわけだが、これと磯谷先生の説との整合性について、より突きつめて考えてみたい。

 前にオッカムのカミソリの意味する「必要がないなら多くのものを定立してはならない」とか、「少数の論理でよい場合には、多数の論理を定立してはならない」、つまり、「必要以上に多面化するな。事実に則した最も単純な説こそ最善の説である」という点を踏まえて、私は体の本質というのはもっと単純化できるのではないかと書いた。2013年12月にNHKBS1で4夜連続放送していた番組「神の公式」に、物理学で美しいというのは対称性があることを意味するというのが記憶に残った。対称性というのは、ある変換に対して不変である性質であり、よく知られている線対称の他に、ある図形をある回転角で回転したときに、もとの図形に重なる場合、その図形は回転対称性を持っているという。他に、ゲージ対称性、非可換ゲージ対称性、カイラル対称性がある。ロシア語の体も自然に出来上がったものである以上、当然美しいはずである。そうであれば、これをロシア語の体に当てはめて検証することが可能ではないかと考えた。マースロフМасло Ю. С.先生が提唱されたように、完了体と不完了体が体のペアかどうかを決める際に、一つの文で完了体動詞過去形が歴史的現在の不完了体動詞現在形と置き換えられれば、体のペアであるという考え方が一般的である。体のペアであるということは、意味が完全に重なる(同義である)ということに他ならない。つまり不完了体現在形の歴史的現在と完了体過去形のアオリスト的用法において、完了体と不完了体は時間軸の対称性があると言うことができる。

 和文露訳から考えた体の本質は、「完了体は話し手が動作遂行の結果として、時間軸の特定かつ不動の一点をイメージする」と私は考えるが、不完了体は不動の一点をイメージしない、つまり不動の一点を意識しないのだから、意識せずとも動作が時間軸の特定かつ不動の一点を通過する(関係する)場合がある。例えば、「本を今日読みます」という文は、ニュアンスの差はあるとはいえ、次のように両方の体を使って露訳可能である。

Сегодня я прочитаю книгу. <本を全部読む>
Сегодня я буду читать книгу. <本を全部読むかどうかは不明>

 これを両体の同義的使用というが、このように二つの体が時間軸において交差する場合には時間軸の対称性が成立するということになる。この場合の同義性というのは、意味が完全に重なるということではない。もしそうであれば二つの体が存在する意味がない。この場合は不完了体の動詞が持つ語義自体(動作)の意味を完了体は包括しているが、完了体にはその他に文脈(状況)に依存しない、つまり新規の何か(プラスアルファ)というニュアンスが付加されているということに他ならない。図式で示せば、下記のようになる。

完了体 = 動作の有無の確認(不完了体) + α(文脈に依存しない)

 磯谷先生の説を私なりに噛み砕いて言うと、「完了体は動作の曖昧さの排除、つまり今ここでの具体的な1回の動作を表現するものであり、なじみの動作を表現する不完了体と対立する」となる。これは完了体のもつ具象化(意識化)と不完了体のもつ抽象化(一般化、自動的処理、機械的処理、無意識化)の対立と言い換えてもよい。ここで言う意識化というのは時間軸の特定かつ不動の一点をイメージすることに他ならず、そのような動作に完了体が用いられるのである。こうすれば私の提唱する考えと、磯谷先生の説につながりを見いだせることになる。

出題)「説得したが、だめだった」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2014年01月01日 06:43
コメント

Я уговаривал, но
уговорить не удалось.

С Новым годом !
Желаю Вам крепкого
здоровья, нового
счастья, больших
успехов в работе и
благополучия в
личной жизни.
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こちらこそよろしくお願いします。お答えですが、動詞の選択はいいのですが、意味は通じると思いますし、正解にしてもいいのですが、外人のロシア語のような気がします。志向の用法が分かっていないことになります。志向の用法自体は完了体と不完了体の違いがよく分かる動詞群ですから、『三訂和文露訳入門』7-1-1項をご一読ください。私の答えは、Убеждал, но не убедил.

Posted by ブーチャン at 2014年01月01日 08:14

Мы зря его уговаривали.
Мы попробовали уговорить его,но не уговорили.
ことしもよろしくお願いします。
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意味は通じるでしょうが、志向の用法が分かっていなということになります。Уговоривали, но не уговорили.でよいと思います。

Posted by yamaguchi at 2014年01月01日 09:40

Я убеждал, но не убедил.
昨日のお答え、вызованですが、これは呼び出されること、お呼び、ということでしょうか? 
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正解です。昨日の私の答えはдва вызоваで2回の呼び出し、вызовが2回ということであり、вызованではありません。それとвызватьの被動形動詞過去短語尾はвызванです。

Posted by ゴ at 2014年01月01日 20:05

本年もよろしくお願いいたします。

(お題)
説得したが、だめだった
(コーシカ訳)
Я уговаривал(а) его/ее, но не смог(ла) уговорить.

主語は複数かもしれませんが…
志向の不完了体と完遂・実現の完了体の対応と考えます。
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志向と気付いているのに、どうしてそれを完全に利用しないのでしょう?

Posted by コーシカ at 2014年01月01日 22:46
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