2013年09月07日

●続和文解釈入門第207回

A grammer of aspect, Forsyth, Cambridge University Press, 1970を読了したので、読後感を書いておく。これまで読んだ体の用法の教科書としては系統的で最も優れていると思う。ただロシア語会話において必要だと私が思っている遂行動詞や被動形動詞過去短語尾についての説明がないのが残念である。本書が1970年の出版で、初めてオースティンが英語の語用論で遂行動詞を提唱したのが1960年代だから、遂行動詞の研究を深めている時期だったという時期的な問題があったのだろう。そのためロシア語会話(和文露訳)の参考書にするには若干もの足りない感じもある。しかし、体の用法における否定の用法にも十分説明を尽くしており、また歴史的現在にも触れているし、体のペアを選定する際に歴史的現在を用いるなど分かりやすく説明していることには好感が持てる。また露文解釈に必要な事項である副動詞や形動詞の説明は詳しい。この他に、完了体を用いる不規則な反復(本書で言うsporadic偶発的な反復の方が訳語としては適切だと思うので、今後は私もこの偶発的反復を用語として使いたい)と、不完了体を用いる反復についての使い分けが示されていないように思う。偶発的な反復は例示的用法の一つだがその旨の説明もない。本書で指摘している体の本質は完了体のもつ動作や出来事の全一性にあるというのは正しいが、体の用法のそれぞれの多面性について用法ごとに細かく説明するだけでは、会話における和文露訳での体の使い分けができないと考える。以下コメントする。84ページでは、次の例文は動作の有無の確認の用法と説明されている。<>内は私の解釈である。

(『戦争と平和』を書いたのは誰ですか?)Кто писал «Войну и мир»? <話し手が名作かどうか知らないか関心がない場合>
(『戦争と平和』を書いたのはトルストイです)Толстой писал «Войну и мир». <同上>

 この説明について間違っているとは言わないが、これはラスードヴァ先生の言われる創作者としての資格として、完了体過去形を使うのが一般的であろう。この他に、英語の遂行動詞を露訳するときに下記のように、完了体過去形で示す例があり、ロシア語の不完了体現在形(結果存続兼評価型動詞など)で表現することも可能であると思うが、著者はそれには触れていない。

(彼がどこに住んでいるのか忘れた)Я забыл, где он живёт. <I forget where he lives.>〔забыватьは結果存続兼評価型動詞〕
(私が申し上げたことを理解していただけましたか?)Вы поняли то, что я вам сказал? <Do you understand what I’ve told you?>〔пониматьは遂行動詞〕
(この絵が気に入りましたか?)Вам понравилась эта картина? <Do you like this picture?>〔нравитьсяは状態の動詞である〕

 この他に294ページに不完了体不定形が多用されているという例文で、запрягать(交通手段の準備のための切迫した命令exigend commandなので不完了体を使うとある)を除いて、その理由が示されていないが、掲載されている例文を見る限り、私が考えるに、不完了体が使われている理由は、切迫感だということが例文から読み取れるはずだ。

 本書は2010年に復刻版が出た。私はアマゾンで手に入れた。4000円前後と高い本だが、体の用法に関心があるのなら、その価値以上のことはある。今すぐ読まずとも、いつか読むかもしれないと言うなら、買っておくことを強く勧める。若干文法用語があるが、すぐ慣れるし、研究者用の論文ではないから、分かりやすい英語である。

出題)「このことは絶対許さないから」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2013年09月07日 07:39
コメント

Я никогда не разрешу
от этого.
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体の用法は正解ですが、разрешитьは他動詞なのでотを取るべきです。それとこの動詞は「解決する」という意味があり、他の動詞を使ったほうが、出題の意味が明確になると思います。私の答えは、Я тебе этого никогда не прощу.
否定の強調であり、拙著『新訂和文露訳入門』3-2-2項参照。

Posted by ブーチャン at 2013年09月07日 08:50

Об этом я абсолютно
не позволю.
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体の用法は正解ですが、позволитьは他動詞なので、этого(否定生格)を使うべきです。具体的なものは、否定でも対格が来るのですが、этоは指示代名詞なので生格を取ります。

Posted by ロン at 2013年09月07日 09:26

Я это абсолютно не буду прощать.
ある一点をイメージせず、ずっとだからнесов。
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出題は、「(一般的に)動作をしない」ではなく、「このことは絶対許さない」と時制は、厳密に言えば一瞬後も含む未来です。「このこと」は指示名詞ですが、前の文脈で具体的な出来事を扱っているのは明らかです。一方、『新手和文露訳入門』4-1-1-6項の不完了体未来形は、未来において動作がないことを示し、不完了体のため、文脈に合わせるということから、補語がないか、あっても補語は一般的な事柄です。完了体未来形の具体的な1回の動作を否定する用法3-2-2項と用法的に対立します。
 ですからこの場合は完了体未来形を使った否定の強調を使うべきです。具体的な補語(出題では「このこと」)があることが、時間軸の不動の一点との結びつきがあるということになります。

Posted by ゴ at 2013年09月07日 23:33

(お題)
このことは絶対許さないから
(コーシカ訳)
За это я никогда не извиню.

完了体未来で、意志と未来を表せると思います。
さて、正解は
извинить も対格目的語を必要とするのですね。
命令文の例文に気を取られて自動詞かと勘違いしておりました。

Posted by コーシカ at 2013年09月09日 19:15
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