2013年07月13日

●続和文解釈入門第151回

拙著『ロシア奇譚』にロシアの犯罪エリート集団であるヴォール・ヴ・ザコーニェвор в законе(以下ヴォールと略す)の略史を書いておいた。ヴォールはロシアの犯罪小説にはよく出てくるが、日本も含めて海外の警察小説などにはあまり出て来ない。ノンフィクションでもアン・アップルバウムのGulag, Penguin, 2004で若干触れているぐらいだ。ただ日本人の収容所体験者の著作には断片的に出てくる場合がある。内村剛介の『ロシア無頼』では直接体験談として生き生きと語られて、チェロヴェーク・イェースチ?(文字通りは「(ここに)人間はいるか?」、つまりヴォール以外は人間と認めないという意味である)という表現が使われていて、ヴォールの異称にチェロヴェークもあるという事が分かる。

 KGBの残虐さを表に出したせいか、ロシアでは発禁となった本がある。FBIやCIAを悪者にした本は多数出ているが、米国で発禁となったという事は聞かないが、ロシアではいまだにそういうことがあるらしい。これはトム・ロブ・スミスの三部作のことであり、第1作『チャイルド44』(2巻、田口俊樹訳、新潮文庫、2008年)にもヴォーリ(ворыと複数を勘違いしたものだろう)として少し出てくるが、第2作の『グラーグ57』(2巻、新潮文庫、2009年)では、女ヴォールでフラエラというのが出てくる。このシリーズの主人公はKGBの捜査官レオ・デミドフ(純ロシア風の発音ならリェフ・ジェミードフとなるのだろう)であり、KGB捜査官としての過去といかに精神的に決別するかが主題である。『チャイルド44』は実際の殺人魔チカチーロ事件を踏まえた構成になっている。続編の『グラーグ57』はハンガリー動乱に及ぶので、何となく間延びした感じである。ヴォールに女はいないというのは作者も分かっているようだが、小説なのでやむを得ないということだが、かなり無理なフィクションであり、クリクーハ(仇名кликухаのことだが口語であり、隠語としてはпогонялоが普通)のフラエラфраерは隠語でトーシローのことであり、犯罪者のカモを指し、この複数形がфраера(力点は最後のаに来る)となり、これをあだ名にするというのは、作者がロシア語にあまり通じていないからであろう。ドゥヴォローヴォイ(『チャイルド44』上巻99ページ)はдомовойであり、ルサルキはрусалкаのことらしいが、оборотень(女性の妖怪で透明だが、いろいろなものに化けることができ、人に取りつくこともある)と勘違いしているようだ。下巻のオリョロもオリョールОрёлという都市だが、訳者も付録として載っている地図にあるロシアの地名をチェックしなかったようだ。『グラーグ57』の上巻の司祭評議会もカソリックみたいである。チフィール(紅茶を何十倍も強く煮出して、覚せい剤のような効果を持たせたもの)もよく理解していないようだし、戦後直後からスーカ(体制側についた犯罪者集団でヴォールと対立した)との争いで、有力なヴォールはほとんど命を失い、フルシチョフ時代はヴォールに厳しく、生き残ったヴォールは3%ぐらいだと言われので、この時代にヴォールを主人公にするというのはあまりヴォールについて知らないということになる。ちなみに第3作「エージェント6」(新潮文庫、2011年)はアフガン侵攻にも題材を取っており、二つの話を無理に一つにしたような印象を受ける。全体的に米国人作家がロシア人を主人公にして謎とき冒険小説を書いたという点が目新しいのかもしれない。

出題)動詞を使って「自殺未遂2回」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2013年07月13日 06:10
コメント

Я два раза пытался
покончить с жизнью.
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正解です。私の答えは、Самоубийством кончал - 2 раза.
1922年のЗощенкоの履歴書の中にある言葉。動作があったというだけで完遂されてはいないので、不完了体が来る。それに自殺は未遂はともかく、2回はできない。

Posted by ブーチャン at 2013年07月13日 08:41

Самоубийство совершается два раза.
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不完了体現在形が来ているので、過程か反復か、総称時ですが、いずれにせよ、これでは経験の意味は出せません。

Posted by ゴ at 2013年07月14日 00:26

(お題)
(動詞を使って)自殺未遂2回
(コーシカ訳)
1) Я два раза покусился / покусилась на самоубийство.
2) Покушение на самоубийство не было совершено два раза.

なんかнедо...系の動詞が使えそうですが見つからへん…
1)は完了体過去による動作の一括化です。
こうなると主語がないと文にならないと考え、Яの場合で投稿します。
2)は自殺の試みを主語にしてみました。
第69回の設問と同様に被動形動詞過去短語尾を使えば繰り返しも表せると考えました。
さて、正解は
不完了体過去を使って動作があったことだけ、を表すのですか!
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完了体過去形は時間軸の1点で動作が完遂されたことを示すので、покуситься = попытаться сделать что-либо недозволенное, необычное, трудное и т.п.ということで、試みが成功したかもしれないし、失敗したかもしれないが試みたわけです。お答えで、動作の一括化ということが可能であるにせよ(покуситьсяはпо-という接頭辞をもつ完了体ではありません。不完了体はкуситьсяではなく、покушатьсяだからです)、2回目で試みが成功したかもしれないという可能性は残ります。自殺未遂というのですから、自殺は確実に失敗していないと困るわけです。
2)は自殺という企てが2度行われなかったということで、未遂さえもなかったということになります。

Posted by コーシカ at 2013年07月17日 21:45
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