2013年06月03日
●続和文解釈入門第111回
否定的ニュアンスのある動作は不完了体が使われることが多いと書くと、誤解の元かもしれない。否定的ニュアンスというのには二通りあり、一つは不必要や禁止を示すもので、動作自体が行われない、動作が存在しないという状態を示すものである。この場合の叙想語(話し手の主観を示す)はне, нельзяなどの否定詞であるが、続く動詞は動作そのもの(動作の内容)であるために不完了体が必須である。もう一つは、否定的結果の意味のある動詞群でзабыть忘れる、потерять失う、разбить割る、сломать壊す、убить殺す、ударить殴る、уронитьなくす、などの瞬間動作動詞(瞬時の移行・変化を示す動詞)であり、これらは状態ではなく、否定の場合でも具体的な1回の動作を示し、生死や損得に関わる主観的な動作を示すので、過去の時制の平叙文や否定文では、アオリスト的用法として完了体で使われることが多い。不完了体過去形の例としては第11回出題の回答参照。しかし、疑問文では過去の時制の動作の有無の確認(動作の名指し)として不完了体過去形が来る。このほかに、『和文露訳入門』4-1-1-4項の状態の変化を示す動作、瞬間的に成立する動作、繰り返しのきかない単一的、無意識的、非目的志向的動作を示す動詞にもこれに当てはまる。
(イワン雷帝は自分の息子を殺したのか?)Убивал ли Иван Грозный своего сына?
(その将軍は賄賂を渡したのか?)Давал ли взятки генерал? <これは否定的結果の意味はないが、瞬間的に成立する動作で過程の意味がない動詞である>
出題)「新しい手法のメリットとデメリットは何ですか?」をロシア語にせよ。
Что за достоинства и
недостатки нового
метода ?
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正解です。私の答えは、Каковы преимущества и недостатки новой методики?
長所と短所、有利な点と欠点なども同じ。不定のものには複数を使うという復習。複数が続いていますが、これは通訳でよく使うかなと思い、出題しました。
Какие преимущество и порок имеет новые метод?
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抽象的な概念が可算名詞かどうかというのは、複数がほとんどない日本語を母国語に持つ我々には難しいものです。露和辞典にもはっきり書いてありませんが、研究社の例文をよく見ると複数形もあることが分かります。可算名詞であっても、常に可算名詞であるかは別問題です。次に考えるのは、出題の「何ですか」という部分です。これは「どんなメリットやデメリットがあるのか」、つまり、あるかもしれないし、ないかもしれないということで漠然とした不定を意味します。そういう場合にはロシア語では可算名詞では複数にするのです。「ご予定は?」という質問を露訳すると、予定があるのかないのか分からないのが普通ですから、次のように露訳するのが普通です。Какие у вас планы?
このпланыはкакие-нибудь планы(何らかの計画)と同義と考えてもよいでしょう。これをКакой у вас план? と単数にすると「何か遂行しなければならない具体的な(一つの)予定(計画)がありますか?」と聞いていることになり、通常の会話ではこういう文はあまりないと思います。
порокはСловарь синонимов русского языка, Наука, 1971〔2巻〕によれば、人間のとがめられるような(非難すべき)欠点、肉体的欠陥(不具)、事物や現象の重大な(最大級の)欠点という意味で使い、私の知る限り技術関係で使われることはないと思います。
В чём достоинства и недостатки у нового метода?
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В чём дело? = Что случилось?ということですし、состоять в чём = заключаться в чём = иметь своим содержанием что-либоということで、動詞を省略するのはどうかと思いますし、省略していなかったとしても、新しい方法には長所と欠点があるという前提で、その内容は何かというように感ぜられます。
делоは口語ではто, чтоявляется важным, полезным, нужным и т. д.(重要なもの、役に立つもの、必要なものなど)という意味があり、дело (не) в том, что = главное, суть (не) в том, что(問題〔重要な点〕なのはである)という使われ方をします。
しかし、複数形にしているのは評価します。単数と複数の使い分けについてはこれからも出題しますが、多分大丈夫でしょう。単数と複数の使い分けも日本人にとっては難しいものですが、取りあえず、未来の時制の動作の有無の確認の用法を会得されれば、後はご自分の必要だと考える語彙を覚えればよいと思います。
「メリットがある」というのを動詞だけを使っても表現できます。通訳するときには、このような表現を覚えておくと便利です。
Что даёт флотационное обогащение? (浮遊選鉱のメリットは?)
ちなみにдавать = приносить(もたらす)
(お題)
新しい手法のメリットとデメリットは何ですか
(コーシカ訳)
В чем (заключаются) достоинства и недостатки нового подхода?
回答を考えているとレーニンの演説「ソヴィエト権力とはなにか」の出だし
Что такое советская власть? В чем заключается сущность этой новой власти?
を思い出しました(坂本龍一の『1919』の背景でずっと流れてますね)。
不完了体現在による状態です。
ただзаключатьсяではゴツゴツした堅ぁ~い文になりそうです…
(何が問題なのВ чем дело?と同じ構文で、естьが溶けていると考えた方が滑らかかも)
長所も欠点も一つとは限らないので複数です。
「方法」は英語でいうアプローチとか切り口のようなものと想像してподходを使ってみました。
методであれば、より体系的な取り組み方という雰囲気が出そうに思います。
さて、正解は
複数はクリア。
в чемでは長短あるのが前提になってしまうのですね。意外でした。
確かに上記レーニンの演説も、本質がどこに「ある」のか、
と存在ではなく在処を尋ねていますものね。
手法はметодで(が?)よいのですね。
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手法にはいくつか訳が考えられます。приём, техника(この二つはテクニックという感じです), метод, способで、これらは一つ(1種類)の手法や方法ですが、методика = совокупность методов, приёмов для систематического и последовательного выполнения чего-либоであり、体系的手法(一つの体系としての手法、方法)と言った感じで、文脈に沿うものを選んでください。