2013年05月06日
●続和文解釈入門 第85回
遂行動詞の重要性は、露文解釈や露文和訳だけをやっている人には分からないし、分かる必要性も特にない。露文を文脈に会わせて和訳すればよいからだ。ところが会話で和文露訳をするときには、遂行動詞をよく理解していないと、ロシア語に訳せないことがあり得る。それは日本語の動詞の時制が、過去と非過去(現在、未来)であり、ロシア語の完了体における二つの時制(過去と未来)、不完了体における3つの時制(過去、現在、未来)とうまく対応していないからである。
私は(昨日)学校に行った。(過去)
私は(毎日)学校に行く。(非過去〔現在の反復〕)
私は(明日)学校に行く。(非過去の未来)
時制から見て日本語の動詞を状態動詞と動態動詞に分けると、状態動詞は、「~ている」の方を取らずに現在の状態を表す動詞で、「いる、見える、思う」などであり、「今家にいる」、「明日もここにいる」のように、ル形で非過去(現在と未来)を示す。動態動詞というのは、「話す、行く、歌う」などの動きを表す動詞で、ル形が未来だけを示し、現在はテイル形を用いて示す。
一方アスペクト(出来事が進行中か、継続中か、終了したかなど動きの局面に注目する文法形式)で、日本語の動詞を分類すると、動態動詞と状態動詞に分かれる。動態動詞は「電話で話している」のように、テイル形が進行の状態を示している動詞で、状態動詞は、「イスに座っている」のように、テイル形で結果の状態(結果の存続)を表す動詞である。テイル形には、このほかに「学校に通っている」などの反復・習慣を示す用法や、「棒の先がとがっている」というような形容詞的用法、「その話は一度聞いている」というような経験・経歴(ロシア語にするときは歴史的現在か、アスペクト的用法で訳すことになる。『和文露訳入門』3-1-7項参照)を示す用法があり、「~した」も「歩いた」や「歩いて来た」のように、日本語では過去と現在完了の意味がある。これらをロシア語の時制やアスペクトなどに振り分ける必要が出て来るのである。
こういう日本語についての使い方は、我々日本人は日本語では心得ているとは言うものの、現在時制の文をロシア語に訳すのは、遂行動詞(正確に言えば、その動詞の遂行的用法)を理解していなければ、難しいと思う。この他にも結果存続兼評価型動詞があるが、ここでは触れない。初級の段階では、用語を知っているかどうかは別にして、反復(繰り返し)・過程、状態なら現在の時制では不完了体現在形を使うというのは分かる。中級くらいになると。完了体過去形、被動形動詞過去短語尾)でも現在の時制を表現できるという事が分かって来ても、ロシア語にする際に、次のような文はどの時制で、どの体を使うべきかが分からなくなる。
「明日午前10時に会議があることをお知らせします」(遂行動詞)Сообщаем вам, что будет совещание в 10 часов завтра.
「商談についでは明日お知らせします」(完了体未来形)Сообщим вам о переговорах завтра.
出題)「資材は通行の邪魔にならないように置いて下さい」をロシア語にせよ。
Вас просят положить
материалы, чтобы
не мешать проходу.
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随分回りくどい言い方ですね。命令法の体について自信がなかったからでしょうか。出題は、常識的な内容ですから、その場の雰囲気に合わせたものと考えて、着手の意味の不完了体命令形にするのが普通だと思います。文脈によっては(急に思いついてなど)完了体命令形も可能です。お答えの場合は、просятと遂行動詞兼叙想語が来ているので、お答えのように完了体不定形です。置くは置くでも、水平に置く(中に入れるという意味もある)ということですから、間違いではないのですが(「置く」の類語については『るいごプラス!』参照)、資材の場合は決められた場所に、保管や移動のために置くという動詞を使うのが普通です。それと、お答えは不定人称文ですから、主語がない(形式上はони)ので、これにчтобы + 不定形というのはどうかなという気はします。つまりчтобы以下の意味上の主語はониということなのでしょうが、このониは具体的なониかもしれないし、そうでないかもしれない。このような状況でчтобы以下に不定形を置くよりは、чтобы以下に文を入れるべきだと思います。掲示板なので、丁寧な言い方として、Вчера на Лубянке потерян в свёрток с рукописями. Нашедшего
просят вернуть - Тихвинский, 7, Клепикову.(昨日ルビャンカで原稿入りの包みを紛失。見つけた方はチフヴィンスキー7のクリェピコーフまでご返却下さい)というのがあります。私の答えは、Материалы укладывайте так, чтобы они не мешали проходу.
(お題)
資材は通行の邪魔にならないように置いて下さい
(コーシカ訳)
Положите материалы, чтобы они не преграждали на пути.
「資材を置く」のは具体的かつ継続はしない動作ですから完了体命令です。
положитьは置き方の定かでないものについても使えるようです(研究社、1617頁)。
立てて置くものであればПоставьтеが使えます。
「通行の邪魔になる」のは状態ですから不完了体を充てております。
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преградитьは他動詞ですから、путьとしないと文法的に間違いだと思います。それを除けば、まあいいのですが、мешатьが一般的な動詞だと思いますので、これを使うことをお勧めします。
Положите материал, чтобы это не было препятствий прохода.
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3つ間違いがあります。一つはматериалで、資材という意味なら複数материалыです。研究社の露和では、строительный материал(建築資材、健在)と単数が載っていますが、ザルービンの露和では、строительные материалы(建材)、стратегические материалы(戦略物資〔これは研究社も複数〕)、военные материалы(軍需物資)と複数です。これまで長年技術通訳をしてきましたが、物資という意味でматериалと単数は知りません。研究社のは特定の建材のこと指すということなのでしょうが、よほど特殊な文脈を除いて、建材自体がそういう意味はもちにくいと思います。また物資という言葉自体が色々な種類の材料を含むので、複数を取るのが自然だと思います。二つ目はэтоです。материалを指しているようですが、этоにそのような用法はありません。「既存のこと」という意味はありますが、この場合は当てはまりません。露和辞典にэтоの用例がいくつか載っていますから、ご自分でご確認願います。この場合はонというよりは、материалыなので、ониとすべきです。三つ目は、чтобы以下の文で「ない」という名詞構文を使うのは無理があるので、動詞を使うことを考えるべきだと思います。
Поставьте, пожалуйста, стройматериалы туда, где они не мешают прохожему.
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поставитьとありますから、立てておくということでしょう。絶対間違いとは言えませんが、普通は横に置くのではないでしょうか。それとпрохожийを使っているので、一人の通行人ということでしょう。お答えを和訳すると、「建材を立てに置いてください。そこは一人の通行人の邪魔をしないところです」となり、так, чтобыを使うべきだということが分かります。