2013年03月26日
●続和文解釈入門 第46回
学生の頃チェーホフとドストエフスキーの完全版全集を予約した。当分読めなくともいつか読みたいと考えたからだ。チェーホフは無事全巻入手したが、ドストエフスキーの方は24巻を入手したところで、駐在でモスクワに行くことになり、予約を中止した。このドストエフスキーの完全版全集は全30巻(実際は33巻)で1972年に始まり1990年に完結している。面白いことに最初の16巻までは部数は20万部という桁違いのものであり、さすが社会主義国というか、売れるか売れないかは関係ないという感じである。それが1980年代ごろからソ連経済の破綻が表面化してきて、出版界もその影響を被ってきた。17巻は17万5千部に18巻以降は5万部とか5万5千部ぐらいである。それでも今の日本の出版事情を考えるとものすごい量である。ソ連が崩壊してから、古本が非常に安価に出回った。日本円で当時ハードカバーが1冊100円とか200円という感じである。私は少しでも名のある作家のものや、ロシアの犯罪に関するものはすべて買いあさり、その頃はもう駐在ではなく、出張でロシアやカザフ、ウクライナによく行っていたが、毎回60冊ぐらいは買って帰った。気になっていたドストエフスキーの残り25巻から30巻も1冊ずつ買っていたのだが、どうしても第25巻が手に入らない。全集の中でこういう手に入りにくい端本のことを利き目というのだと『新懐旧国語辞典』(出久根達朗、河出書房新社、2010年)に載っている。もちろん30巻全集には入っているが、全部買って日本に持って帰るわけにもいかない。2度目のモスクワ駐在の時2000年だと思うが、25巻から30巻までが馴染みの古本屋で、日本円にして2000円ぐらいで売っていたので、これを逃してはチャンスがないと思い、買った。そのとき一緒に行ってもらった運転手から、1冊買うために9冊買うなんて馬鹿ではなかろうかと何度も言われた。この全集では小説は15巻までで、それ以降は評論の類であるとずっと思っていたので、15巻までは全て読んだが、それ以降はほったらかしにしていた。25巻を買ったのも1巻抜けているのもどうかなというインテリア感覚だったのである。
ロシア語が生きがいとは言え、私の中心になるテーマは和文露訳という意味での現代ロシア語会話と、もう一つはロシアの犯罪史である。あるときドストエフスキーの『作家の日記』に当時のロシア社会の三面記事を評論として扱っているというのを知った。手持ちの全集を見ると、『作家の日記』はこの全集の21巻から27巻を占めている。25巻は1877年の分であり、トゥルゲーネフやべリンスキーとの出会いが作家の道への第一歩になったこと、詩人ネクラーソフ、トルストイに関することなど面白い記事がたくさんあったので買って本当に良かったと今にして思う。『作家の日記』のスラブ主義、キリスト教、バルカン問題というのはそれほど興味がないが、日常の三面記事の出来事、ユダヤ問題、ヨーロッパとの関係などは、ロシア人の本質を考える上で非常にためになると思う。『作家の日記』には最初の15巻に含まれていないいくつかの短編もあるが、佳品が多い。
出題)「法の名のもとにあなたを逮捕します」をロシア語にせよ。これに対する御回答のコメントは2、3日後となりますので、悪しからず。
Под именем закона
вас арестуем.
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これはまずいでしょう。私の答えは、Во имя закона я вас арестовываю.
この発話が終わると同時に、逮捕となる、つまり結果の存続ということになるので遂行動詞を使う必要がある。これに完了体未来形を使えば、一瞬後か、1時間後か、はたまた1日後か、1年後かは知らず、その発話の終わった直後には逮捕されないという事になる。被動形動詞過去短語尾を使って、Вы арестованы по обвинению в кражах.(盗みの容疑で逮捕します)でもよい。арестоватьは完了体・不完了体同形なので、 вас арестуюとすると、一瞬後でも未来の出来事と誤解される可能性があるので、不完了体としてのарестуюは遂行動詞としては用いず、遂行動詞としては明らかに不完了体現在形と分かるарестовываюを、わざわざ用いているのだと考えられる。арестуюは次のような完了体未来形としての使用しか知らない。
Еще одно слово и я вас арестую!!!(もう一言〔何か〕言ったら、あなたを逮捕しますよ)
– «Ну, а если я отклоню поручение?» – «Я вас арестую…»「それじゃ、私が御依頼を拒否したら?」「あなたを逮捕しますよ」
Сейчас я вас арестую, и вы пойдете строевым шагом на гауптическую вахту.(今あなたを逮捕します。そうしたらあなたは行進の歩調で営倉に行進するわけです)<順次的用法であり、сейчасもこの場合は未来の時制だという事はお分かりになるだろう>
「名のもとに」を直訳するとпод именем (названием)となるが、意味するところは「名に隠れて」ということである。Под именем графа Тулуз-де-Лотрек Савин много раз был женат в Европе и Америке с целью заполучения больших приданых.(大きな持参金を得るためにトゥルーズ・ド・ロートレック伯爵という名に隠れて、サーヴィンは何度もヨーロッパとアメリカで結婚した)、他にもписать под псевдонимом(匿名で書く)、под предлогом + 生格(~という口実のもとに)、под секретом(秘密のもとに)というのがある。
ロシア語で「法の名のもとに」に一番意味的に近いのはименем законаだが、во имя закона(法のために)の方が圧倒的に使用例は多い。
Мы арестуем вас по закону.
(от имени закона.)
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от имени законаは使用例がそれほど奥はありませんが、正しいと思います。по законуは法律に関してと取られる可能性が高いと思います。ареструюについてはブーチャンさんのコメントを読んでください。
(お題)
法の名のもとにあなたを逮捕します
(コーシカ訳)
Именем закона я Вас арестовываю.
これは遂行動詞としての不完了体現在かと思われます。
さて、正解は
во имя законаと対格を使うんですね~これは場慣れするしかないですね。
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正解です。遂行動詞と理解しての正解ですから、これはすごい。投稿者では初めてでしょう。こういうふうに遂行動詞への理解が広まることを願っています。