2013年03月23日
●続和文解釈入門 第43回
ソ連時代に出たドストエフスキーの完全版全集30巻(実際は33巻)は、最初ナウカ経由で、後はロシアの古本屋でそろえた。15巻までは小説なので、これは全部読んだ。『作家の日記』は時事評論だろうと思い、放っておいたのだが、当時の三面記事に関するエッセーのようなものも入っているという事を知って、ロシアの犯罪が自分のライフワークであることもあり、最近読み始めた。読み始めて感じたのは、いくつか短編が含まれていることである。当時の社会情勢に触発されて書いたのかもしれない。1876年の11月はКротная(「大人しい女」とでも訳すのだろうか)という30ページほどの短編で始まっている。二人の男女の愛と自尊心がテーマのようで、愛がAll or nothingかどうかということのようであり、つきまといの逆のような感じもする。この作品は短編でも人生というものを感じさせる良作だと思う。ドストエフスキーの邦訳全集は大きな図書館ならあると思うので、ご興味のある方は一読されたい。
出題)「私に何かご依頼なさりたいことがあるのではないですか?」をロシア語にせよ。
Вы пожалуй хотите
чего-нибудь меня
попросить.
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出題が疑問文ですから、語尾に?が必要です。凡ミスでしょう。что-нибудьは「何でも」ということで、「何か」があるか話し手にとって不明、つまり不定の状況で使われます。ですからお答えを訳すと、(何でもいいから)私に頼みたい(ことがある)のか(あれば言いなさい、なければ言わなくてよい)という風に受け取れます。私の答えは、Вы мне хотите что-то поручить?
что-тоを使っているのは、言葉に出しては言えないが、何かはっきりしたものがあると話し手が確信しているからである。
Вы хотите обратиться ко мне с какой-то просьбой?
будтоの使用について、いろいろ調べていただき申し訳ありません。
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正解です。ロシア語に関しては、すべて自分のロシア語向上のためであり、そういう機会をご提供いただき、こちらこそ感謝する次第です。一見答えが分かるような事柄でも、人が納得できるような説明をするのは難しいというのは、このコーナーを始めてからの得た教訓であり、人にそのような説明ができて初めて、それについて会得したと言えるのだと思います。ですからロシア人が多くの場面で正しいロシア語を使えるのは、母国語ですから当然ですが、なぜそうなのかを日本人学習者に分かるよう説明できるロシア人はほとんどいないでしょう。そういう訓練も勉強もしていないからです。
追い付いた!
(お題)
私に何かご依頼なさりたいことがあるのではないですか?
(コーシカ訳)
(1)Есть ли у Вас, в самом деле, чего-то меня просите?
(2)Кажется, Вы хотите бы чему-то мне поручить.
(1)проситьは不完了体現在による遂行動詞が使えるように思いました:
頼むという行為自体は発話と同時に終わり、受け入れてもらえるかは別問題と考えました。
何か頼み事のありそうな雰囲気を話者も汲み取っているようですから、
不完了体でも違和感がないのではと感じます。
とはいえЕсть ли やНет лиだと、
本当は頼みたいことがあるんやろ、ん?と根掘り葉掘り訊いているようで、
設問の語感からは少しずれているかも知れません。
(2)のпоручитьは相手の意向、今は分からないが具体的な何かであること、
依頼の行為自体はこれからなされることなどの要素から、完了体が好いと判断しました。
不完了体不定形を使えば切迫の感は出せるかもしれませんが
継続してあるいは何回かに亘って何かを委任するというような文脈でなければ
不自然なようにも思います。
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(1)ですが、естьの文に主語がないということと、чего-то以下を訳すと、「何か頼んでいるのですか」という、ビミョーな文になります。遂行動詞というのは発話 = 動作であり、そういうことを確信を持って言えるのは一人称です。直接体験できるのは当事者のみという考え方でしょう。二人称や三人称というのは、基本的に他人であり、人のことは何を考えているのか分からないということがあります。日本語でも感情・感覚を示す「悲しい、痛い、感じる」、意志や欲求を示す「つもりだ、~たい、~よう」、精神作用を示す「思う、考える」は主語が一人称の時だけであり、二人称の時は「~か(問いかけ)」、「ね」などの終助詞を添え、三人称の時は「~かもしれない、~に違いない、~のだ、~らしい、~のようだ、~だろう」というような推測や判断の表現形式を添えるか、引用形式にするのが普通だということはお分かりでしょう。無論、小説などの感情移入は別です。長くなりましたが、ロシア語でも、そういう意味で、遂行動詞が使われるのは圧倒的に一人称が多いのです。二人称で使われるのは、
О чём ты спрашиваешь? (何をきいているの?)とか、三人称は『和文露訳入門』の3-1-4項に例があります。ですから遂行動詞の使用については、どんな動詞でも、どんな人称でも使えるということにはならないのです。
(2)はчему-тоではなく、что-тоです。それを直せば正解ということになります。
先のコメントの追い付いた!を「だぐなった(догналのлを「る」に置き換えて)」という感じで
ロシア語と日本語をちゃんぽんにして独り言を言うことがあります:
他にも「なしょった(нашёл)」などがあります。
ロシア語の名詞の格変化(あ段の語は女性、え・お段は中性、
い段は軟音記号と見て男女の覚えたい方または複数)、
ドイツ語の動詞の人称変化(「…えん」で終わる語は全部対象になります)など
外国語の変化を覚える際、この我流ハイブリッド暗記法が活躍しております。
学習中の方、とりあえず語尾変化だけ覚えてしまいたい時には使えますよ