2013年02月22日
●続和文解釈入門 第14回
『日本年鑑Япония 2012』は40周年記念号であり、力作ぞろいで、ページ数も444ページと読み応えがあるが、中でもアルパートフの『ロシアの日本観、神話と現実』、マルカリヤンの『日本のNPO、日常活動の分析』、パノーフの『天皇制と現代日本の国家体制におけるポジション』、カタソーノヴァ『大島渚、全てのタブーに逆らって』が面白かった。『ロシアの日本観』については、シベリア出兵についての忌まわしい思い出が残っているのか、極東で2000年に行われた世論調査では43%が日本を非友好国とし、ロシア全体の27%と際立っている。日本人のイメージとして欺瞞、腹黒さ、執念深さというステレオタイプを持っている人も多いと論文は指摘している。また天皇制の論文については、女性天皇の意義(配偶者を持てないという事での中間的・妥協的な側面)に触れられていなかったことを除けば、過不足なくその起源から現代日本における天皇制まで客観的に述べているというのは注目に値する。
出題)アベノミクスから、「三本の矢の話は覚えているかい?」をロシア語にせよ。
Ты помнишь рассказ
о трех стрелах ?
----------------------------------
これを聞いて毛利元就の三矢の教えとわかるロシア人は、毛利氏や日本の慣用句など研究している特別な人だと思います。一般のロシア人では分からないでしょう。これは直訳であって、訳ではありません。言わんとする内容が相手に伝わらないのですから。これに三矢の教えを解説するような文章があれば、通訳として合格点があげられるのですが。私の答えは、Помнишь притчу про веник?
Ты помнишь историю о трёх стрелах?
---------------------------------
慣用句や諺はそのまま訳しても、伝わる場合が少ないのです。そういう場合は長くなっても説明する文章が不可欠です。例えば、「3人寄れば文殊の知恵」という意味のロシア語の諺
Ум хорошо, (а) два лучше (того).
Одна голова - хорошо, две - лучше.
Артельный (общий) горшок гуще кипит.
Один глаз хорошо, а два лучше.
を使うとか、Сложенные вместе стрелы трудно переломить, но когда они находятся порознь, то могут быть сломаны с необычайной лёгкостью. (束ねた矢は折れにくいが、ばらばらだと至極簡単に折れる)というような説明をつけたら、一般のロシア人にも分かりやすいだろうと言っているわけです。通訳しているときに、タイミング良く日本の諺や慣用句に相当するものをロシア語で思い出せることは、あまりありません。あったら本当にラッキーな話です。そういう僥倖を当てにするよりも、出て来なかったら、すぐに分かりやすく説明できるように工夫するような心構えが必要です。ロシア語の諺や慣用句が100%一致するとは限らず、微妙な違いもあり、解説した方が正確な場合もあります。私の訳про веникも言わんとする内容は正しいのです(ネットで確認されたら、詳しい説明が載っているでしょう)が、3本が出て来ないので、アベノミクスをより精確に説明するには、日本ではтри стрелыという慣用句があるなどと補足する必要があると思います。
(お題)
三本の矢の話は覚えているかい?
(コーシカ訳)
Помнишь ли ты пример о трех стрелы
(в выступлении премьера-министра Японии)?
覚えているか、と現在の状態を尋ねているので不完了体現在を充てています。
さて、正解は
あれま、今回の設問は説明してよかったのですね。
説明的な表現を避けて、ということかと思っておりました。
-------------------------------------
通訳は意味が通じてなんぼの世界です。日本人同士でロシア語ごっこをするようなお遊びのために、このコーナーがあるのではありません。あくまで実戦を想定しています。