2012年12月22日
●和文解釈入門 第582回
2012年12月20日放送の、アメリカ女子サッカーのゴールキーパー、ホープ・ソロ選手についてのバラエティー番組を見ていたら、終わりの方で彼女の自伝の一節She said she forgame me.に和訳がついていて、「彼女は許していると言った」とあったように思うが、これは、「彼女は許すと言った」の間違いではないか。時制の一致で過去になっているが、日本語の「許している」というのは現在完了であり、ずっと前から許すという行為は終わっており、それが今に至っているというのだから、訳者は遂行動詞ということを理解していないと思われる。英語の専門家でもないのに、こういう事を書くのは、英語にも遂行動詞があり、forgiveにもそのような用法があると思うからである。ロシア語でも、Извините.と言われて、冗談で、На этот раз я тебя извиняю.(今回は許す)という場合もあるし、Тебя прощаю.(許してあげる)と使う。ちなみにизвинить/извинятьは軽い過失に対して使うとシノニム辞典にはある。許すでも、許可するという意味なら、Ладно иди, я тебя разрешаю.(分かった、行けよ。許可するよ〕)という。これも遂行動詞の例である。
設問)「当直の報告からどうなったかは聞いている」をロシア語にせよ。
Я слышал, что
произошло по докладам дежурных.
------------------------------
お答えは、多分「聞いている」を経験に取ったのだと思います。しかし、これは現在完了です。何かが起こって、その結果が今に至っているという風に解釈するのが自然だと思います。日本語の解釈については専門でもないので、云々しませんが、不完了過去形は動作の結果が現在と結びついていないか、話し手が関心を持たないことを示しています。つまり、過去のいつか、とか回数を意識しない「~を聞いたことがある」ということになりますから違うと思います。私の答えは、Из донесения дежурного я знаю, как обернулось дело.
донесениеは口頭ないしは文書での報告を指す。この元になっている動詞群докладывть, доносить, рапортоватьは公的に上司、上部機関に報告するという意味ではシノニムだが、докладыватьは普通は口頭での報告に用いられ、доноситьやрапортоватьは口頭や文書、どちらでも用いられる。доноситьは19世紀は広く用いられたが、現代語では軍関係で用いられる。рапортоватьは軍関係や規律が軍に近い役所、機関で用いられるが、所定の書式での報告という意味になるので、これらから派生した名詞も同様なニュアンスを持つと考えられる。るいごプラス!には書かなかったので、この場を借りてお知らせする。
знатьは状態・反復の動詞だが、上記のような相転移型(誤伝の動詞改め)の用法もある。状態の動詞と違い、動作の起点が明確であり、意味的には結果の現存だと言う事が分かる。状態の動詞は動作の起点も終わりも含意しない。過程の動詞は含意はしている。
Он сидит.(彼はすわっている)は、状態の動詞の用法で、すわるという動作がなされたから、すわっているというのは論理的に理解できるにしろ、いつからすわって、いつすわるのが終わるのかということを示さない。
Идёт совещание.(会議中)は過程の動詞の用法で、動作の起点と終点が明示されていないが、会議をやっている以上、ある過去の時点で始まり、いつかは終わるということが含意されている。
相転移型の動詞は、結果の現存なのだが、動作の伝達が終わったのが今ではない、過去であり、そこから現在の状態が続いている。この動詞は具体的に目に見える動作そのものを意味せず、騙す、間違うなどの動作の内容を示すという点が、他の型の動詞との大きな違いである。
遂行動詞は、具体的な動作の内容を伝達し、発話と同時に始まり、発話の終了と共に動作が終わるという違いがある。
Я услышала от дежурного через отчет, что сталос этим.
一見簡単そうに見えたのですが、結果の現存にするか、事実の有無にするかでずいぶん悩みました。そういえば前回も一度、結果の現存か事実の有無かの選択でなぜこの文脈からそうとれるのかとご指摘を受けたことがありました。今回も第六感で Я слышала, что と始めたのですが、聞いた結果、今知っているのだからと考え直して結果の現存に決めました。
--------------------------------------
発想はその通りです。現在に動作の結果が結び付いている場合は、完了体過去形の結果の現存か、不完了体現在形を使うしかないと思います。動詞の選択はその通りですが、問題なのは語結合です。слышать от кого-либо о чём-либоでчерезは使わないと思います。слышать, что (как)は接続詞との関係ですが、疑問詞чтоを使う場合、「起こる」という意味ではもっと分かりやすい動詞を 使うべきです。статьにもвозникнутьという意味がありますが、вопросとの語結合が多いようですし、多義語なので、耳で聞いてすぐ分かる(目で見てすぐ理解できる)というのが、謎々ゲームをしているわけではないので、特に通訳には分かりやすさが求められます。
слышать = иметь какие-либо сведения, знать по разговорам, слухам и т.д.であり、
- Вы осёл.(あなたはトンマだ)
- От осла слышу.(お前こそ)
と言えるので、電話で使うСлушаю!(私ですが)は遂行動詞ですが、слышатьは相転移型動詞の一つとして使えると思います。この他にも下記のような例があります。
В первый раз слышу, что он профессор.(彼が教授だなんて初めて耳にする)
Слышу, что в гостиной разговаривает бабушка о ком-то.(ロビーでおばあさんが誰かのことぉ話しているのが聞こえる)
ただдокладとの組み合わせは難しいような気がします。
Я узнал в дежурном отчёте, чем это кончилось.
----------------------------------
発想としてはよいのですが、語結合はузнать что-либо от кого-либо でしょう。それに語順がいくら自由でもв дежурном отчётеはあり得ないと思います。タイプミスでしょうか。
Я слышал из доклада дежурных о том, что сделалось.
----------------------------------
不完了体過去形ですから、現在とは関係のない(ないしは話し手が現在と関係させることに興味がない)ということになります。構文的には、слышать что-либо (о чём-либо) от кого-либо; слышать что-либо (о чём-либо) (надёжного, достоверного) из источникаというがあります。ご回答のような語結合はないとは言いませんが、あまり多いとは言えないように思います。
Послушал доклад дежурного, что было.
Знаю из устного доклада дежурного, чем кочилось.
完了体の結果の存続かと思いましたが、文章全体に自信ないです。すみません。
----------------------------------
最初のは、完了体過去形を選んだのは評価しますが、слушатьとслышатьの違いが分かっていないような気がします。слушатьは「自ら耳を傾ける、聞く」という意味で、слышатьは「聞こえる」です。露露辞典でお確かめください。和文露訳入門10-8にもその説明があります。語結合ではслушать что-либо у кого-либоとなるのが普通です。слушатьには報告を聞く、情報を得るという意味はありません。
2番目は正解です。これはこれまで出題した中で、多分、最も難しい設問の一つですが、正解が出るとは期待していませんでした。大したものです。無論、устногоがくどいとかはありますが、なかなかこうは書けるものではありません。
たしかに難しかったです。短文なのに苦労しました。すみません、下記の От осла слышу がわかりません。どうして「お前こそ」となるのですか。
- Вы осёл.(あなたはトンマだ)
- От осла слышу.(お前こそ)
-----------------------------------
осёл = глупый и упрямый человекで、直訳すると、1行目の「あなたはロバのような馬鹿な頑固者だ」と言われて、2行目は「ロバのような馬鹿な頑固者であるあなたかららそういうことを耳にする(とは)」となります。
二つ目の文は、「あなたにはそう言われたくない」と訳してもいいでしょうが、意訳しました。
слушатьと слышатьの違い,確認しました。特にслышатьは、耳に勝手に入ってくる音だけに使うと思い込んでいましたので、ぞっとしました。ご指摘ありがとうございます。
ありがとうございました。やっとわかって落ち着きました。久しぶりにアネクドートかと思ったものですから。日本語でもけんかになるとまったく同じことを言いますよね(笑)。