2012年12月16日
●和文解釈入門 第576回
(254) 「日本人も知らなかったニッポン」(増補版)、桐谷エリザベス、吉野美耶子訳、中公文庫、2009年
著者が日本では外で夫婦が並んで歩かないのはおかしいとある新聞に書いていた。歩きながら話をするときに相手の顔を見れないのは不安という事もあるし、無視されているようだと思っているのかもしれない。まあ日本は道が狭いのと、男尊女卑のならいということもあるのだが、それよりも奥さまがたが自分の安全のために、何が飛び出してくるかもしれない世の中だから、旦那を先に歩かせているのだというほうがありうる話だ。保険もかけてあることだし。
(255) *「美しき日本の残像」、アレックス・カー、新潮社、1993年
達意の日本語で日本人の忘れた日本、日本文化の素晴らしさを客観的な目で教えてくれる名著。今の日本人の頭の固さや、電線を地下に埋めていないのは先進国で日本だけとか、瞬間に集中するのは日本文化の特徴だとか、現代の日本人は(書が)読めないということにコンプレックスをもっているのではないかなどの指摘は面白い。坂東玉三郎との交遊や歌舞伎の見方についても独自のものがある。感覚的というよりは分析的な日本文化の捉え方であり、捨て身にならなければ日本文化の習得は困難であるということがよく分かる。また通好みの大阪・京都・奈良案内も紹介されている。ただ残心については単に終了だと思っているようである。それは違う。通訳だけで実際にやっていないからそういう理解になるのだろう。残心というのは常に攻撃でも防御でも次の動きに移れるような心持で動作を終了するということである。これが日本の芸道に取りいれられたものである。
設問)「余はその者をつかまえた者に3000ルーブルの褒賞を出すと発表するよう命じる」をロシア語にせよ。
Мы отдаем приказ
объявлять, что 3000
рублей будет выдано
в награду за заслуги
захвата этого
человека.
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人称の転用はOKですが、まあこのような皇帝のмыは実際の通訳では使わないでしょう(翻訳ではあるかもしれません)。もっというとмыと書かない方が、不完了体現在形は活用語尾でмыと分かるので、そのほうが自然です。つぎの遂行動詞ですが、複合動詞でも使えるようですのでOKとします。不定法がだめです。発表するというのは、明らかに具体的な1回行為です。つまりобъявитьとすべきです。こういう理屈を考えるのが嫌であれば、不定法には基本的に完了体が来て、不完了体が来るのは例外であるという考え方もできます。不完了体が来るのは、反復やある程度期間を含意する動作、否定文、後は動作の名指し(不完了体が多く使われる動詞、идти. делатьなどですが、数は少ないので、和文露訳入門でチェックすればすぐ分かります)です。ほとんどの場合完了体不定形が来ることになります。
このように捕まえる動作を動名詞で表すと、すでに捕まえているのか、これから捕まえるのかよく分かりません。露文を作る方にとっては簡単ですが、聞かされる方が舌足らずな感じがします。相対時制をよく理解されることを勧めます。私の答えは、Приказываем объявить награду поймавшему его в три тысячи рублей.
第199回本文、第245回本文、第536回回答で説明した人称の転用императорское «мы»の例。主語が1人称複数なのは皇帝や王の使うмыであり、余や朕という意味で、1人称単数を意味する。この他に相対時制も合わせて出題しているのでやや複雑かもしれない、能動形動詞過去形を使って、未来において先に終了する動作を示している。ついでに遂行動詞の復習でもある。
Мы повелеваем объявить награду в 3.000 рублей тому, кто поймает его.
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正解です。人称の転用はOKで、повелеватьは古風な動詞ですが、雅語として使えるので、この訳には一番適切かもしれません。遂行動詞の用法もOKです。細かいことですが、3000のような4ケタの数字でточкаを入れる例は、ないとは言いませんが(数字を縦に並べる場合で見たことはありますが)、普通は何も入れないのが普通です。不定法もOKです。
Мы приказываем объявить что даем 3000 рублей в награду тому, кто поймает того человека.
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ほぼ正解です。問題はдаёмと不完了体を使って、予定の意味を出しているように思えますが、この動詞は、例外はありますが(давать присягу宣誓するなどの複合動詞を近接未来に使う)、本来の与えるという意味ではそのような用法では使いません。この場合は明らかに1回の具体的な単発動作です。これには相対時制を使うべきで、ただдадим... поймаем...とすると、二つの動詞の配列の順序から、与えるのが先になると間違った印象を持つ場合も無きにしも非ずなので、поймалと完了体過去形にした方が、動作が先に終了するということが分かって自然です。
Мы приказываем объявить награду в 3000 рублей поймавшему данного человека.
「命ずる」は伝達型動詞で不完了体現在形を、"поймавшему" は "тому, кто поймает" と同じ意味の一種の時制の転用と考えました。
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正解です。
Мы приказываем объявить, чтобы дать как награда три тысячи рублей тому, кто поймёт этого человек.
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惜しい。поймётはпоймаетの勘違いでしょう。それと金額や大きさを示すв + 対格の使い方を覚えてください。こういうのは5分で覚えられます。研究社露和辞典でも岩波でも、「15%値引き」скидка в 15%を、скидка на 15%と間違って記載していますが、前者は値引きの中味(どのくらいか)をいっているわけで、наを使うと、他のスーパーと比べて15%値引きしたとなって、意味が違ってくるわけです。こういうのは理屈で分かることですし、ザルービン露和でも確認できます。