2012年12月11日
●和文解釈入門 第571回
先日近くの川のほとりを散歩していたら、おじいさんが何羽かの鳩に餌をやっていた。この辺は鳩に餌をやらないでくださいという立て看板があるのだが、鳩は最近見かけず、カモメが我が物顔にのさばっているから鳩自体が珍しい。案の定カモメが何羽も寄って来るのだが、そのおじいさんがしつこく追い払う。餌はやりたいが、鳩にであって、カモメではないことがわかる。最近は日本では市中でもイノシシやシカが徘徊し、餌をやる人もいるというのをテレビで見た。これは禁止行為なのだが、やっている人は、動物がねだる姿が可愛いのか、いいことをしているのだという意識があるのだろうから簡単にはなくならないだろう。
それで思うのは、乞食への施しである。1990年代の初めには、ロシアでも路上の物乞いの他に、地下鉄の電車にもいた。当時のロシアにも情け深い人は多く、苦しい生活の中でもなにがしかの小銭を渡していた。あるとき、二十歳ぐらいの娘さんが車中で中年の物乞いに施しをしたのだが、こんなわずかっぱかしの金なんかいらんとこれ見よがしに大声で叫び、小銭を放り投げた。娘さんは真っ赤になって下を向き、他の乗客も何かいたたまれないような気持ちで無言だった。その物乞いは堂々と隣の車両にのっしのっしと行ってしまった。こういう事があっても、娘さんは施しをやめないだろうし、あの物乞いも小銭だったら、同じように銭を放り投げるのだろう。人生で目に焼きつく場面という場面がいくつかあるが、ナホトカで、公園に店を出していた男を、ショバ代の関係だと思うが、当時流行りのヤクザがいちゃもんをつけ、その男が立ちあがった瞬間、上段回し蹴りで、それこそ一撃で倒したのを見たのぐらいだ。倒れた人はピクっととも動かない。こういう実物は映画より刺激的だ。
モスクワの駐在員が日本からの出張者に対して、まず注意するのは人前で財布を出さないということである。必ずどこかでだれかが見ていて、目をつけられてスリに遭う事になる。だから乞食には絶対に金をやらない。どうしてもやりたければ、小銭を用意しておく。乞食のほとんどはプロであり、ショバ代をヤクザや乞食の親分に渡しているのが普通だ。教会近くなどの一等地はショバ代も高い。それに一人に金をやれば、カモだと思い、他のも続々来るから、万引きの被害に遭いやすいからやらない方がよいと言っておく。日本人は我々世代でも、サザエさんの初期の巻に載っているような、おこもに空き缶ですわっている乞食というのは見たことがないはずだ。小さい頃傷痍軍人が物乞いをしたのは覚えているが、本当の乞食を見たことはない。ただ最近皇居の近くで、着物を着た女性が茣蓙に座って、本か何かを置いて座っていたのは見たことがあるが、気が触れていたのかもしれない。
乞食を知らないから、施しのやり方も知らない。それでやらないということになる。私も施しをしないが、一度だけしたことがある。1996年8月にウランバートルに出張したときに、当時野火のせいで、孤児が増えていた。着いてすぐ街を散歩していたら、9歳ぐらいの丸刈りの子がまとわりついて、身ぶりで恵んでくれという。何とか振り切ったが、次の日もホテルの前で待っている。その後地方に行って、ウランバートルに戻って、明日はアルマトゥイ(当時はカザフスタンに駐在おり、アルマトゥイは首都だった)に帰る日というときも、見かけた。そのときはさすがに諦めたのか寄ってこなかったが、何となく気になって、ポケットに持っていたモンゴル紙幣とコイン合わせて20ドル分くらいを押し付けるように渡した。もう使わないということもあったのだが、何となくという感じで、憐みを感じたわけではない。後で、モンゴルの孤児は冬零下の寒さなので、下水管で暮らし、ネズミを獲って生き延びているというニュースを知った。あの子はどうしているだろう。感傷というわけではないが、なんとなく鳩と老人を見て思い出した。それ以降も、モスクワでもどこででも、施しをしたことはないし、これからすることもないだろう。
設問)「木造建築は火災にきわめて弱い」をロシア語にせよ。
Деревянные здания
(дома) весьма слабы
на пожар.
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слабыйというのは、精神的、肉体的に弱いということで、слаб на виноは酒の誘惑に弱いという精神的弱さを示すのが普通です。私の答えは、Деревянные здания весьма подвержены пожарам.
このподверженは結果の現存を示す、被動形動詞短語尾ではなく、性質を示す動詞由来の形容詞短語尾である。不完了体のподвергатьсяを使うと、反復・繰り返しの意味になる。「~しやすい、~を受けやすい」というподвержен белезням (страху, наводнению, простуде, порокам)〔病気にかかりやすい(おびえやすい、洪水に弱い、風邪にかかりやすい、悪に染まりやすい)〕表現を覚えておこう。この他に、предрасположен к аллергическим заболеваниям(アレルギー疾患にかかりやすい)は「<体質的に>かかりやすい」ということである。
Деревянные постройки совершенно беззащитны перед огнем.
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постройкаはニュアンス的に小さな建物とか、動物を入れておく建物という感じです。(るいごプラス!参照)。беззащитный = не способный защитить себяで、用例を見る限り、主に人に関して使うようです。無防備な都市беззащитный городという例もありますが、ようするに身を守れる可能性のあるものが身を守れないということで、木造建築自体が身を守れるか、それも人工的でない自然の脅威である火に使えるかどうかというと疑問です。
なかなか「コレ」という文が浮かびませんでした。思いついたものをいくつか列挙します。
1)Деревянные дома сильно боятся огня.
2)Деревянные дома чрезвычайно легко загораются.
3)Деревянные дома обладают повышенной пожароопасностью.
4)Деревянные дома крайне уязвимы к огню.
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この中で正解に近いのは3)ですが、硬い表現です。1)のбояться огняは主語が動物や人なら使えますが、それは「火を恐れる」という意味です。主語が3人称だけという条件で使えるне переносить, портиться(だめになる)という意味で使える語結合は、бояться света, холода, мороза, сырости, пылиで主語は、普通は薬、フィルム、植物であり、徐々に悪くなるという感じです。2)は発火しやすいということですが、自然発火という感じです。絶対だめだとは思いませんが不自然です。4)のуязвимыйというのは、語義的に傷を受けやすい、そこから攻撃を受けやすい、もろいという意味なので、火に関しては使えないと思います。
Деревянное строение очень плохо держится во время пожаров.
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строениеは建物を一般化した言い方で、具体的なものには使いにくく、文章語のニュアンスがあるとるいごプラス!に書いておきましたが、建物という意味ではзданиеが一般的です。意味は分かるでしょうが隔靴掻痒という感じです。держатьсяは長くもつという意味なので、火災のような短時間で燃える(1時間や2時間でも)には使いにくいだろうと思います。ただ時間の感覚は人によりますが。
Деревянные здания совсем не выдержут пожару.
В случае пожара деревянные здания сразу сгорят.
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最初の文は不可能という意味で完了体未来形を用いたのでしょうか?そうするとвыдержатであり、不完了体現在形ならвыдерживаютとなります。пожаруは否定の生格пожараのはずですが、設問は一般的にということなので、不完了体を用いるのが自然です。二つ目のは完了体未来形を使った例示的用法でしょうか?設問は一般的な話なので、горятとした方が自然です。例示的用法にするためには、具体的な文脈、例えば、そばにガソリンタンクがあるとかというような火災を引き起こすような語句があることが必要です。
сразуは完了体との相性がよいのですが、反復繰り返しの意味の動詞とともにも使えます。
Он сразу засыпает.(彼は寝つきがよい)で、このзасыпатьはзаснутьの不完了体でпаに力点があります。