2012年12月08日

●和文解釈入門 第568回

設問の短文は露訳するときに不完了体にも、完了体にも解釈できる場合があるが、どちらでもよいというわけではない。もっというと、どちらでもよいのだが、実際に通訳するときには、文脈や前後の発言に応じて、どちらにするかが分かるのが普通だ。ただ通訳していて、どちらかが分からないときは、「今回だけの話ですか?」(これなら具体的1回行為ということで完了体)とか、「一般的な話ですか?」(これなら、繰り返しということで不完了体)と聞くことはある。だから、設問の短文が二通りに解釈できる時は、反復と理解したので不完了体を使ったが、具体的1回行為なら完了体を使ってこうなると答えるのが正しい回答の仕方である。実際の通訳の現場では、特に商談では、曖昧に聞こえることがあったら、通訳するときに確認しないと、誤訳して相手に損害を与えてしまう事がありうる。だから、常にこの場合は完了体、この場合は不完了体というように体の使い分けを理解しておかないで、聞く方に解釈をお任せというのは、それはプロではなく、素人である。

設問)「彼は1年前にここに来ている」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年12月08日 06:24
コメント

Он приезжал сюда
один год назад.
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アオリスト的用法がまだお分かりになっていないのは非常に残念です。「来て、帰った」と考えて、不完了体過去形になさったのでしょうが、不完了体過去形と過去の具体的な日時を示す語句とは相性が悪いと指摘し、その説明も何度かして参りました。私の答えは、Он приехал сюда год назад.
すでに第501回の回答、第505回の本文にてアオリスト的用法については解説してある。今回はテイル形の経験と言われる用法だが、「彼は1年前にここに来た」と同義である。彼に代わりに、「犯人」や「被疑者(容疑者)」とするとテレビや小説でよく聞く表現であろう。時間の特定も含めて、具体化、特定化というのは完了体の役割である。前に説明したようにロシア語でも日本語でも経験という用法には二つあって、一つは過去のある一点に1回動作が起こったという事が明確なもの、もう一つは過去にそういう動作が1回ないしはそれ以上あったという事だけで、回数も、いつかということも分からないものであり、ロシア語では前者にはアオリスト的用法(完了体過去形)、後者には不完了体過去形を使う。設問の場合、当然前者である。

Posted by ブーチャン at 2012年12月08日 07:35

Он здесь пришёл год назад.
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惜しい。прийтиは「~へ来る」となり、日本語同様方向を示すので、сюдаが来ます。英語ではwhere (駅で切符を買う時にWhere to, sir?と方向を聞かれることはあるにせよ)はгде(位置)とкуда(方向)を兼ねていますが、ロシア語では、日本語同様区別します。日本語では、さらに、位置を示す「に(~にある)」のほかに、「京都に行く」、「イスに座る」の「に(終着点を示す)」と、京都へ行くの「へ(方面を示す」に分かれると日本語教育では教えています。動詞の示す方向はロシア語と日本語ではだいたい同じですが、例外もあります。分かりやすいものでは、

Я был в Москве.(モスクワに行ったことがある)
で、露露辞典ではкуда, гдеと分かりやすく区別しています。

Posted by ヨタロウ at 2012年12月08日 11:11

1) Он был здесь год назад.
2) Он приходил сюда год назад.

год назадが両方に使えるかどうか分かりません。
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1)は正解ですが、「ここに滞在していた」という意味もあり、曖昧です。2)は間違いですが、год назадが不完了体過去形と一緒に使えないという意味なら、正解への一歩を踏み出したことになります。疑問を持って、その正答を得ようとすれば、いつかは答えは出ます。

Posted by 角丸 at 2012年12月08日 13:07

Он год назад сюда приездил.
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приездилという動詞はありませんが、不完了体過去形のようですから、いずれにせよ、間違いです。アオリスト的用法をご理解なさっていないということになります。

Posted by ゴ at 2012年12月08日 23:27

① Год назад он приезжает сюда.
② Год назад он приехал сюда.

歴史的現在かアオリストだと思ったのですが。ただ、год назад が、具体的日時がわからないがとにかく一年前ということなら歴史的現在も使えるのではと思いました。
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正解です。設問は日本語としては歴史的現在ではないと思いますが、ロシア語では文脈により歴史的現在で示すことは可能だと思います。それは歴史的現在の意味するところが、アオリスト的用法だからです。歴史的現在を使うには、会話でリアルな感じを出したいというような文脈が必要で、二つ目のお答えの方はそういうことを特に考える必要がないので、こちらを使うようにした方が通訳などではよいような気がします。

Posted by メイ at 2012年12月09日 07:25

Он приехал сюда один год назад.
皆さんのレスポンスの速さについていくのがやっとです。参考書(現代ロシア語文法 城田俊著)では、現在の状況も述べているのが完了体過去で、(現在と切れている)過去の事柄の有無の確認が不完了体過去との説明でした。設問では「1年前にここに来ている」ということで、(今ここにいる)という意味に注目しました。501回のご説明にある、完了体過去の結果の現存というのと同じでしょうか?
 2年以上ぶりに参加し始めて、浦嶋太郎状態を実感。これから、これまでの(膨大ですが)課題を少しずつ復習させていただきます。
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城田先生の本は文法全体についての参考書であり、体の用法について割いているのスペースの関係上ごく一部ですし、露文解釈という観点からの執筆であるということは否めません。お答えは見かけは正解ですが、設問が結果の現存であるには無理があると思います。無論1年前にそこに行って、それからずっとそこにいるという可能性もゼロではありませんが、設問の彼を、テレビや小説でよく使われるシチュエーションの容疑者(被疑者)に置き換えると、容疑者が1年前にそこに行って、そこにいるというのは設定に無理があるように思います。
 結果の現存(存続)というのは、私の考えではアオリスト的用法の一つの面です。例えば、Он приехал.という文は、動作が一度起こったということを意味します。もしこの発話が、たった今なら、彼は100%ではないにせよ、そこにいる可能性が高いと言えます。昨日でもいる可能性は高いでしょうが、3日前、1週間前となると、人間の習性において、同じ場所にずっといるかということを考えると、いない可能性が高いでしょう。1年前となるとまずいないと考えるのが普通です。このように100%こうだと言えないのは、言語が人間の行動という不確定なものを相手にしているからです。このように発話によって、つまり文脈によって、結果の現存になりますが、変わらないのは、動作が一度起こったということだけです。
 一方Он приезжал.では、動作が1度、ないしそれ以上起こったということだけ示しています。一度かどうかはっきりしないために、動作の繰り返しの可能性が出てきます。不完了体というの、このように動作の有無の確認だけを行うために、動詞には動作以外のよけいなニュアンスがないのです。ここに特定の過去を示す語句(なくても意識の中で1度だけ起こったということだけでもよいのですが)があれば、これは具体化(特定化)といって、完了体の領域です。приезжал.のように反対語(対義語)がある動詞は、完了体過去形のприехалとの対比で、100%ではないにせよ、приезжал = приехал и уехалと理解される場合が多いのです。しかし、「昨日来て帰った」というように、過去を特定する語句があれば、1度特定の時期に起こったのですから、Вчера он приехал и уехал.となり、приезжалは使えないことになります。つまり、昨日とか1年前とか明らかに過去を特定する語句がない場合、また意識的にもいつかは忘れたが、1度あったということではない場合に、不完了体過去形が出てくるのです。
 原先生の「ロシア語動詞の体の用法」(水声社)も名著ですが、露文和訳の観点で書かれていると思います。実際に通訳する場合には、アオリスト的用法の方が多いような気がしますし、その点をこの本で理解するのは難しいように思います。
 設問を出して、投稿者があれば1日以内に回答しますが、基本的に短文なので、設問を見たら1秒か2秒で構文や体の使い分けが頭に浮かばないと、通訳の実践では使えないことはご理解いただけるでしょう。語彙は必要に応じて後で覚えられます。初級文法はともかく、中級や上級の文法を無視して、語彙や短文ばかり暗記して、それ自体大人にはストレスですし、通訳として使えるようになるのに、何年もかかるでしょう。体の用法を理解して文法を極めたほうが、ストレスも少なくロシア語をマスターする近道だと思います。
 体の用法については、「和文露訳入門」をご一読いただくのがよいのですが、第300回、第345回、第375回本文でも、今はこういう説明はしないかもしれませんが、言わんとするところは分かると思います。

Posted by hatomame at 2012年12月09日 10:00

完了体過去と具体化のご説明、よくわかりました。明らかにに過去を特定する語句がある時は完了体過去、とまずは覚えます。
詳しく教えていただき、本当にありがとうございます。
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もっというと、そういう具体的な時間を示す語句がなくても、時間の特定の一点ということを意識してさえいれば完了体過去形は使えます。

Posted by hatomame at 2012年12月09日 15:59
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