2012年11月12日
●和文解釈入門 第542回
『ロシア史研究案内』(ロシア史研究会編、彩流社、2012年)を読んだ。1956年のロシア史研究会発足からの現代までのロシア史研究の流れをたどるという点では有意義な書物である。しかし、ソ連が崩壊したのちも、研究内容自体はソ連時代とあまり変わらないようで新味が感じられない。もう少し現代との接点を探るような視座が必要ではないか。現代日本が抱える大きな問題は少子高齢化による労働力の減少だが、それに伴って外国人労働者の受け入れ、ないしは女性の労働環境の一層の整備が求められている。ロシアは9世紀の成立当初から他民族との軋轢をかかえ、帝国になるに従って多民族国家となっていった。島国の我々よりも多民族との付き合い方についてはノウハウを持っている。また、女性進出も第二次世界大戦の人手不足を補うという意味もあって、幹部になる女性が少ないという短所もあるが、日本よりはるかに進んでいる。さらに革命前のロシアも、ソ連も、現代のロシアも犯罪という点では日本の比ではない。こういう犯罪の研究も現代社会において不可欠なはずなのに、その重要性は認識しているようだが、タブーとしてか避けられている。現代のロシアにも欧米に対する警戒心が強いが、1863年に刊行されたダニレフスキーの『ロシアとヨーロッパРоссия и Европа, Данилевский』や、ソルジェニーツィンが勧めるフロレーンスキーФлоренскийの哲学書なども、論考して行くべきではないのかと思う。こういう点を論考し、受け入れるようにしないと新しい研究者や読者は増えないだろうし、ロシア史もそれ自体の研究だけとなれば、タコが自分の足を食うようなもので発展性はない。
その中で、本書において出色の出来なのは、第8章の「ジェンダーと社会」(広岡直子)である。1929年に農村からの逃散の結果として、都市で働く奉公人が527,000人もいて、1930年代、40年代でも奉公人を労働者過程で雇う事が可能であったというのは初耳であるし、トルグシンТоргсин(1930年代の外貨・金貨による外国人専用商店)が1934年1418もあり、砂糖1キロで売春というのも当時の状況を浮かび上がらせる点で非常に啓蒙的な論文であると思う。ジェンダーと社会は現代の我々にとっても必要なテーマであり、このテーマをより突き詰めて、広く社会に発信されることを望む。他には、日本のロシア人で精力的に本を出版されている私のメル友で、日本におけるロシア人についての著書をいくつか発表されている極東大学のヒサムトジーノフ教授について、ロシア史研究会で言及がないというのもさびしい感じがする。それと1950年代後半スターリン批判の後でも、その中身がよく理解されていなかったにしろ、第二外国語としてのロシア語を学ぶ人が一つの講座で300人を超え、教室に入りきれなかったということが末尾の座談会で述べられていたが、隔世の感がある。社会主義を実現したと思われていたソ連を理想化していたのであろう。
これと対照的なのがロシアで出版されている、1994年から日本基金の援助で出版されている年鑑Ежегодник『日本Япония』, Ассоцияация японоведовであり、1972年から2011年まで、1990年を除き毎年出ている。ソ連時代はイデオロギー統制もあったが、ソ連崩壊後は、出来不出来はあるものの、質の高い論文が多い。演歌や若者文化についても論文を掲載するという積極的な姿勢を高く評価したい。この年鑑から通訳の時の訳語を探し出すことも多く、全冊精読したから、その価値はよく分かっているつもりだ。ソ連崩壊で資金がなくなっても、500部程度でも出版するというその意気込みがすごい。
設問)「4人家族です」をロシア語にせよ。
Нас четверо в семье.
---------------------------------------
正解です。私の答えは、У нас семья из четырёх человек.
Наша семья состоит из 4-х человек.でもよい。
Нас в семье четверо.
У нас…かな…?
-------------------------
どちらでも正解です。