2012年10月23日
●和文解釈入門 第522回
「見る」という意味では問題ないのだが、「会う」という意味ではувидетьはвидетьと違い、動作の開始の瞬間を表しているので、過去の時制でувидетьは使えないが、不定法や未来の時制ではувидетьの方が一般的である。例外はРад вас видеть.(お目にかかれてうれしい)ぐらいだろう。これは時制によって体が変わる例でもある。
Я видел профессора.(私は教授に会った)
Я увижу профессора.(私は教授と会う)
Он знал наше мнение.(彼は私たちの意見を知っていた)
Он узнает наше мнение.(彼は私たちの意見を尋ねる)<力点はузнаетのна>
結果の現存の用法は完了体過去形を使うのだが、ボンダルコ先生は経験の集積という場合に、不完了体であるвидеть, знать, читатьには結果の現存の意味を示すことがあるとして、
Он много видел, много знал и от него я многому научился.(彼は多くのことを見聞し、又彼から私は多くのことを学んだ)
という例を挙げている。ただ何度もという繰り返しが含意されている以上、不完了体しか用いられないことは自明だ。完了体過去形を用いるとしたら、例外的に動作の一括化(和文露訳入門2-2-5参照)ぐらいだろう。видеть/смотретьの違いについては、和文露訳入門10-8参照。
設問)「急ぐので彼はタクシーをつかまえた」をロシア語にせよ。
Он ловил такси так
как он поторопился.
(Он поймал такси т.к.
он торопился.)
---------------------------------
設問の「急ぐので彼はタクシーをつかまえた」は、反復ではなく、具体的な1回の動作です。反復にするならば、「急ぐ時は(いつも)彼はタクシーをつかまえた」となるはずです。となると、反復(そして過程)を示しているわけではないので、完了体の使用しかあり得ないことになります。ですから最初の回答は誤りです。二つ目のお答えは、正解ですが、厳密に言えば、「急いでいたので、タクシーをつかまえた」ということで、理由を示す従属節が過程を示しており、設問とは若干ずれるような感じを受けます。私の答えは、Для скорости он взял такси.
このдля скоростиは「スピードアップのために、早くするために」などと訳せる。
Я торопился и взял такси.
-----------------------------------------
座りの悪い文ですね。これも「急いでいたので、タクシーをつかめた」ということで、理由を従属節が過程を示しており、これは間違いではないのでしょうが、設問と訳が完全に対応していないということのほかに、ロシア語では順次的用法というのがあり、過去において動詞を二つ続ける場合には、片方が完了体なら、完了体で続けた方が自然だということです。もちろん、идти, ехатьなど、対応の完了体が必ずしもあるとは言えない動詞(あるいは不完了体の使用例が圧倒的に多い動詞)はこの例とは違います。торопиться, спешитьも、どちらかといえば不完了体の用法が多いような気がしますが、それでも設問の和文の意味を考えると、ロシア文としては正しくとも、どうでしょう?ロシア語の上級クラスの人はなおさら、和文露訳の時に、短文であれば、すぐ露文が浮かぶので、露文が正しいかをまず考えます。通訳の時は、浮かんだらすぐ口にするということになります。正しいロシア文の場合はロシア人からは何も言われませんが、後で考えると、露文そのものとしては正しいのだが、和文の露訳としては違う(全く違うというのではありませんが、重箱の隅をつつけばということです)ということはよくあります。