2012年10月05日
●和文解釈入門 第504回
ロシア語の会話というと、ロシア人の先生に丸投げというのは感心しない。挨拶や決まり文句を使って、発音やイントネーションの練習ならともかく、いくら日常的な日本会話は流暢であっても、ロシア語の文章を分かりやすい日本語で文法的に説明できないのではないかと思うからである。理屈を説明せずに、これはロシア語としてはおかしいから、こう言うのだの一点張りでは、小学生じゃあるまいし、二十歳を超えた(越えようとしている)いい大人が勉強について行きはしない。語学には暗記という面もあるが、大人の勉強に求められているのは、もっと頭を使う理知的なものだからである。和文露訳を教えるには、日本語とロシア語の文法双方の理論面での理解と説明能力が不可欠であると考える次第。
設問)「この国にどのくらいの金額の設備をデリバリーしたのですか」をロシア語にせよ。
По какой сумме вы
поставили оборудование этой
стране ?
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суммаなのですが、この名詞と前置詞との語結合がお分かりになっていないようです。私の答えは、На какую сумму вы поставили оборудование в эту страну?
суммаには合計という意味と金額という意味があり、それぞれのつく前置詞が違う。в суммеだと「合計は」という意味になり、на суммуだと「金額は」という意味になる。
Какую сумму
оборудования вы
поставили этой стране?
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金額という抽象的なものを、どうやってデリバリー(納入)できるのでしょう?
Вы уже везли в эту страну оборудования на какую сумму?
先に謝っておきます。すみません。
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別段謝る必要はありません。そのときベストと思ったものを投稿すればよいので、間違ったときに、なぜ間違ったかが分かれば、次から同じ失敗はしなくなるでしょう。お答えは文法的には正しいのですが、4つ問題があります。一つ目は疑問詞は文頭におくのが原則です。везтиは車・船・飛行機で運搬するということで、正しいのですが、運ぶという意味で、持ち込む(搬入する)という意味はありません。日本語で搬入する(ロシア語ではввезтиで、ввестиは導入する)は、館内に、展示場に品物・貨物(商品とは限らない)という感じです。デリバリーするпоставитьというのは、納入するですが、ロシア語でも、貿易を含む商売で商品である貨物を売り先に届けるという意味です。3つ目は、体の用法です。везлиは定動詞ですが、不完了体です。ужеは確かに不完了体過去形と経験(~したことがある)という用法(和文露訳入門3-1-7-1参照)で使いますから、ロシア文としてだけ見たら正しいのですが、和文露訳という観点で見ると、設問は1回の設備のデリバリーと考えるのが普通です。となると完了体を使うのが自然です。いくつかの設備をデリバリーしたと考えてその合計という考え方でも、合計金額ということでひとくくりに考えるということでは完了体がよいと思います。4つ目はоборудованиеは、普通は複数形を取らないのです。取るとしたら、具体的に、冷凍設備、解凍設備、通信設備というように列挙するか、そのようないくつかの種類の設備があるという文脈でのみです。сталь, лакも基本的には単数で使われ、複数となるのは種類を意識した時だけです。詳しくは、和文露訳入門10-3、ないしは第300回本文の後ろの方を見てください。和文露訳の方は第300回に比べ、かなり書き加えてあります。和文露訳の改訂版が出れば、若干書き加えることになるでしょう。出るかどうかは、和文露訳の売れ行き次第で、売れれば改訂版を出すでしょうし、このまま売れなければ、出す意味はまったくないという、買う人にとっても、著者にとってもジレンマのようなものです。