2012年09月09日

●和文解釈入門 第478回

「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ」というのは、周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」の冒頭のスクリーンに浮かび上がる言葉らしい。らしいというのはこの映画を見ていないからだ。このロシア語はЛучше десять виновных освободить, нежели одного невинного наказать. となるが、残念ながらこれは私の訳ではない。ピョートル大帝が1716年陸軍操典第5章第9項 (в п.9 гл. Ⅴ Устава воинского) で最初に述べた。ところが、ロシアではこの言葉を初めて言ったのはエカチェリーナ2世であるという風説が流れていたという。そう革命前の名判事であるコーニは著書に書いている。ピョートルは白黒はっきりすさせるのが好きだから、こう述べたとしても、ヒューマニストの立場からではないのは言うまでもない。多分、文字通りであろう。ピョートルは自分の息子も拷問したぐらいだから、建前としてそれは当然と思っただけで、この操典が発布されてから、彼の部下が冤罪が出るのを恐れて、牢屋の囚人を釈放したという話は聞かない。昔も今も、建前ならその通りで、冤罪は出すべきではないし、罪をおかした者には罪を償わせるという現実的方策を行うしかないのである。エカチェリーナの場合は、ヒューマニストとしての建前と立場からという、より政治的な啓蒙君主としての立場上の配慮が感じられる。死刑の廃止をしたのは彼女の前の前の、ピョートル大帝の娘エリザヴェータ・ペトローヴナ女帝だからだ。義母だった彼女に対しても、あからさまではないにしろ、チクチクと真綿で首を絞めるような書き方をしており、エカチェリーナは含むところがあったように思われる。嫁姑の問題というよりは、義母の存命中は何も言えない立場だったからだったのだろう。

 死刑を廃止(後に復活)したと言っても、カモフラージュした死刑замаскированная смертная казньというのがあり、ムチ打ちの刑だって、列間笞刑шпицрутеныでは2列に向き合って、柳のしなった棒をもった兵士の間を通って、その棒で打たれるのだが500回でほぼ死ぬという。打つの手加減する兵士は、その場で同じ刑に処されるから手加減はあり得ない。これを千回とか一万ニ千回ムチ打つという判決自体が、カモフラージュした死刑であるとコーニは述べている。

設問)「次の項目はピストンです」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年09月09日 08:31
コメント

Следующий пункт составляет пистон.
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修理リストремонтные ведомостиの中など。リストの類語については第14回の本文、「るいごプラス!」参照。ピストンはпоршеньで、エンジンの栓状の部品で、シリンダーの中で往復運動をして圧力を起こしたら伝えたりする。пистонはкапсюльとも言い、銃用雷管で、爆薬の起爆に使う雷管はкапсюль-детонатор。このように日本の外来語は16世紀・17世紀ごろはポルトガル語、江戸時代にはガラス、ビール、エレキなどのオランダ語、明治以降フランス語(料理・絵画関係)、ドイツ語(カルテなどの医学・化学関係)、イタリア語(音楽関係)からのものですが、技術関係と言えば圧倒的に英語からのものが多いわけです。ロシアでは造船関係はピョートル大帝の欧州行の関係もあり、オランダ語から、文化的なものはフランス語から、科学技術関係はドイツ語からが多く、この10年ほどは英語から外来語が入ってきていますが、技術関係は随分違います。このように日本語の感覚で、技術関係は英語と似た単語であると考えると、特に技術関係の基本的なのロシア語は随分違います。私が「女性のための技術ロシア語」を書いた動機の一つでもあります。пистонはおもちゃの鉄砲の紙火薬の他に、トランペットのピストンバルブという意味もあります。ちなみにトランペットのピストンはклавишаです。カプセルもкапсулаであり、капсюльには雷管の他に、ビンの王冠という意味もあります。
 いろいろ書きましたが、単語を通じるかどうか試してみるというのはとても大切なことで、間違っても、トライすれば、ただこのコーナーを見ているだけの人とは、違って、ここに書かれた正しい単語を覚えるインパクトは強いと思います。ここが一歩踏み出すかどうか、踏み出せば、自分のためにいつか役立つことになります。一つや二つの単語を覚えるためというのではなく、将来の自信につながります。私の答えは、Следующим пунктом идут поршни.

Posted by аяка at 2012年09月09日 09:56

(お題)
次の項目はピストンです
(コーシカ訳)
Следующая часть - поршени.

品質の検査か何かの項目と考えчастьを充てました。
機械の構成要素などの意味もあるため妥当かと思われます。
ピストンが一本とは限らないので複数を使っております。
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項目は、項ということで、позиция, пунктで、ピストンの複数形はпоршниです。частьは第1部の部に相当するような大きい項目です。

Posted by コーシカ at 2012年09月09日 23:12

Следующий пункт будет о поршне.
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「~について」を使うなら、その前に動詞、もっというと被動形動詞過去短語尾(例えばуказан) あたりが必要かと思います。そうでないと語結合関係からおかしいように思います。ピストンは一つだけ修理するという場合は別ですが、複数で使うのが一般的です。

Posted by ブーチャン at 2012年09月10日 06:28

пистон、そのままの意味ではなかったんですね~!
トランペットのピストンバルブは分かりやすいですが、銃用雷管とかって細々としていてなかなか覚えにくいですね!でもこういう細かな専門用語等の明確な使い分けも必要になってくる通訳の仕事って、すごい!!

ところでお聞きしたいんですが、
Следующий пункт составляет поршень.
だったら、文として大丈夫ですか?
составлять чтоは
こういう場合も使えるのか??と思ってかいてみたんですがどうなんでしょう?

(自分で書いといて何ですけど)なんとなく聞いた感じに違和感はある気はするんですが・・・ 
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составлятьは「構成する」というのが本義です。イコールという意味でも使えますが、同じイコールでも「集まると~なる」という意味で、数に使われます。Население города составляет пять тысяч человек.(その都市の人口は5千人です)。ですから使えないと思います。厳密に言えば、「次の項目はピストンです」と言うのは、項目 = ピストンではなく、項目の中にピストンが記載されているということです。ロシア語としてはぎこちないかもしれませんが、В следующем пункте указаны поршни.ならそれほど違和感はないでしょう。それとピストンは複数にした方が自然です。составлятьを使うことが何か変だなと思ったということは、ロシア語が上達している証拠です。
 車の広告などで、V6エンジン搭載というようなものがありますが、現代の自動車につけるエンジンでピストンが一つというのはないと思います。政治通訳、外交の通訳をしていて、技術の通訳をするつもりはないという人でも、男女かかわらず、車の簡単な構造ぐらいはロシア語で何というか知っておくべきだと思います。そうでないと雑談もできません。「女性のための技術ロシア語」は女性のためでもありますが、技術に興味のない人にも、ロシア人との雑談に使えるように書いたつもりです。

Posted by аяка at 2012年09月10日 22:27
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