2012年09月02日

●和文解釈入門 第471回

(206) 「明治劇談 ランプの下で」、岡本綺堂、岩波文庫、1993年
 1921年初版。作家であり、新聞記者として長く劇評も担当した岡本綺堂(1872~1939)の明治時代の歌舞伎についての随筆。個人的なスキャンダルの類は避け、実際に自分が幼少のときに見た舞台における役者の演技について語っているところがすがすがしい。まじかに見た13代守田勘弥、名人市川団十郎、尾上菊五郎の演技については、我々素人にも分かるような説明がなされているので勉強になる。綺堂が8歳のときに家を守田勘弥が訪問したが、何度勧めても裏口の木戸から入ったという。当時役者(勘弥は座主だったが)は河原乞食と蔑まれており、役者にもその自覚があったことが分かる。綺堂には、このほかに「岡本綺堂随筆集」(千葉俊二編、岩波文庫、2007年)があり、特に拷問について奉行所では担当者の技量が疑われるとしてできるだけ避けられたとある。天保5年播州無宿の吉五郎という窃盗の常習犯が3年越しの牢問24回、つまり鞭打ち、石抱き、海老責め、釣責めに耐え、察斗詰(自白しないための認定裁判)で処刑されたとあるのは興味深い。拷問に耐えた新記録かもしれない。

(207) 「左団次自伝」、二世市川左団次、日本人の自伝第20巻所載、平凡社、1981年
左団次(1880~1940)は1890年子役で勧進帳の太刀持ちをしたときに眠くて、眠気覚ましにハッカを眼の縁に塗ったが、やはり眠ってしまい、九世団十郎よりいい度胸だと言われた。父の初世左団次は団・菊・左のとうたわれた歌舞伎の名優。大入り袋も、初世が1896年それまで大入りのときは蕎麦を出したのを蕎麦札にして、大入りと書いた袋に入れたのが始まりという。このように当時の世相や由緒などにも詳しく、文章も達意の名文である。1907年欧米に劇の視察に赴いた。演劇の改革を志すもすぐには受け入れられなかった。1909年剣道家浅利兜七郎義金の4女登美子と結婚。この浅利は一刀流で有名な浅利又七朗義明の子である。1928年ソ連政府の招きにより訪ソ、歌舞伎を演じる。スタニスラーフスキーとも面談。ここで演じた忠臣蔵からハラキリがロシア語で広く知られるようになったのではと思われる。ただ「サーカスと革命」<道化師ラザレンコの生涯>(大島幹夫、平凡社、1990年)所載の1914年日本のサーカス団のさよなら公演のポスターの写真には、大きく「ハラキリ」という文字が書かれているから、ハラキリという言葉自体はもっとも前、多分幕末の頃からロシア語に入っていたと思われる。

設問)「この作戦はロシア史上前例がなかった」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年09月02日 06:20
コメント

Эта операция была
беспрецедентная
в истории России.
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正解です。私の答えは、Эта операция не имела прецендентов в истории России.

Posted by ブーチャン at 2012年09月02日 08:38

Эта военная операция не была в прошлой истории России.
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目のつけどころは非常に良いと思います。ただ「存在しなかった(なかった)」というときは、否定生格が必要です。それと歴史というのは、一般的には過去のものであり、бытьの過去形が来ているので、прошлойは不要だと思います。プロの通訳でも単語が浮かばなければ、その文の内容を説明して切り抜けるということはよくあることで、このような発想の転換ができるということが通訳になれるかどうかの分かれ目です。そういう意味では通訳の才能があると思います。

Posted by Anonymous at 2012年09月02日 08:57

Эта операция не имела аналогов в истории России.
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正解です。

Posted by Ml at 2012年09月02日 21:51

Та стратегия не разу использована в русской истории.
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いろいろな単語を試してみるというのも、語彙を増やすだけでなく、その可能性を知る上で重要なことです。стратегияは戦略ということで、個々の戦術тактикаよりも、もっと広い概念です。戦術は一つの戦闘の中ででの戦闘方法を意味し、作戦はある期間内の対敵行動の総称で、戦略の下位概念で、戦略は長期的視点と複合的思考で目標を達成しようとするものです。これらの言葉は、政治やビジネスでも多用されますから違いを覚えておくことは大切です。
 тот (та, то, те)というのは、英語のthatや日本語の「あの」に必ずしも対応するわけではありません。文の中で用いられれば、которыйとともに、その語を限定する役割があります。この場合「その」という意味にтаを使うのは間違いで、取るべきです。ロシア語は日本語同様冠詞がないので、名詞があれば、文脈で不定冠詞 (a/an) なのか、定冠詞 (the) なのか推測できます。ですから、тот (та, то, те)をつけるとロシア語としては、逆に不自然になります。
 お答えをあえて和訳すれば、「その戦略はロシアの歴史ですぐにではないが使われた」となります。「前例がなかった」というのは、動作がなかったということで、不完了体過去形の「動作の有無の確認」そのものです。そういう点から、体の用法を考えてみるというのも勉強になります。

Posted by asuka at 2012年09月03日 02:46
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