2012年08月05日

●和文解釈入門 第443回

和文露訳入門で使っているアオリストという用語は、本書の出だしのほうで定義づけてはあるが、本来はアカデミーのロシア語文法の§1508にあるаористическое употребление(アオリスト的用法)のことなのだが、縮めて使っている。アオリストそのものはれっきとした文法用語であり、ロシア古文には動詞の形態としてアオリストがある。これについては、「ロシア古文観賞ハンドブック」(中沢敦夫、群像社、2011年)が詳しい。現代ロシア語の時制を勉強するためには、その元の古代スラブ語や古代ロシア語の時制がどうなっているのか概観するにも、この本は非常によい参考書であると思う。アオリスト以外にも、インパーフェクト、パーフェクト、プルパーフェクト、未来形、命令法、仮定法、不定詞、分詞、前置詞他についても、現代語とのつながりを知る上で大いに参考になる。ロシア古文の参考書では、他に、「ロシア語史講話」(原求作、水声社、1996年)、「共通スラブ語音韻論概説」(原求作、水声社、2008年)もある。中沢先生と原先生に共通されているのは、両先生とも古代スラブ語(古代ロシア語)が専攻であるのに、あるいは、それゆえにか、質の高い中級や上級のロシア語参考書を執筆されているということである。あえて、不満を言えば、いずれも露文解釈の観点からのようで、ロシア語会話やメールなどのロシア語作文には、そのままでは使いにくいか、その面での配慮があまりないという点だけである。そういう意味でロシア語の文法を専門とする先生方に、中級・上級向けの和文露訳用実用書を是非執筆してもらいたいと心から願っている。私の書いた「和文露訳入門」は素人が書いた入門書であり、専門家からの実用面でもっとレベルが高い参考書が出るべきだと思う。紙の本でなくとも、ブログに連載するとか、電子書籍で出版するとか、儲けるつもりがなければ(ロシア語関係で儲かるという事はありえないが)、また、ロシア語の通訳やプロを目指す人の事を真剣に考えるのなら、いくらでも一般向けの発表の手段はあるはずだ。

設問)「誰かが私の事を問い合わせてきたら、私はレストランにいますから」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年08月05日 04:51
コメント

Если кто-то мня спрашивает , имеете ввиду, я буду в ресторане.
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設問の誰かというのは、誰か分からない、尋ねるかどうか分からないと考えます。その場合はкто-нибудь (кто-либо)です。誰か分からないが、尋ねるかどうかは分かっている、ないしは、誰かは分かっているが、名前を出したくはない場合は、кто-тоです。что-то, что-нибудьの違いについては、第235回の回答に書きましたから、もう一度読んでみてください。ですから、この場合は、кто-нибудь (кто-либо)ですが、不定人称文にすれば、もっと簡単にできますし、その方がロシア語としては自然です。мняはменяのタイプミス。
 設問を見れば分かりますが、設問は発話の時点より未来の話です。спрашиватьは伝達型(動作遂行型動詞改め)ですから、過程を表せません。過程を表せないということは、現在形で予定を示せないということになります。すべての動詞が現在形で予定の意味を示すことができるというわけではありません。どういう動詞が予定の用法を現在形でもつのかは、第345回か、和文露訳入門の4-1-2-2をご覧ください。ですからесли以下も未来の時制にする必要があります。完了体未来形にすると、主文も完了体未来形にして、動作が次々と行われるというふうになりますから、この場合は不適です。そうなるとесли + 不完了体未来形となります。
 имеете в видуというのは「あなたは~ということをお考えになっています」という状態を示しています。命令形なら文法的には正しいですが、これを命令形で使うと、Имейте в виду, локатор будет сделан.(レーダーは出来上がるということを、頭に入れておいてください)、つまりучитывать, принимать во вниманиеと同じ意味で使うのが普通です。ですから発想としては悪くないと言えますが、くどい感じがします。
私の答えは、Если меня будут спрашивать, я в ресторане.
主文は現在形だが、近い未来を示す用法で、主語が動作にすぐに対応できる場合はこういうふうに使えるが、そうでない場合はЯ буду в театре.(劇場に出かけています)と未来時制を使うことになる。設問を見れば分かるように、こういう点は日本語と似ている。

Posted by asuka at 2012年08月05日 13:59

① Если кто-нибудь спросит меня, скажите, что я в ресторане.
(「~と言って下さい」ととった場合)
② Если кто-нибудь спросит меня, позовите меня.Я буду в ресторане.
(「私を呼んで下さい」ととった場合)
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еслиを含む節と、主文に完了体未来形が来ているということは、動作が次々と行われることを意味します。設問を見る限り、私を人が訪ねてくるかどうかすら分からない、いつ尋ねてくるかも分からないわけですから、この構文は使えません。未来の時制の不完了体、和文露訳入門の4-1-1-9 если, когдаと未来の時制を参照ください。原求作先生も、この用法は日本人には分かりにくい用法だとおっしゃっています。いつ動作が起こるか分からないという状況は、主観的ではないということで、つまり具体的ではないのですから不完了体の領域です。これは日常会話で非常によく使います。必ずマスターされたほうがよいと思います。上にも4-1-1-9にも書きましたが、完了体との使い分けは簡単です。
 (1)の現在時制で予定を示すя в ресторанеというのは上級者でもなかなか出ない発想で、見事というしかありません。(2)を見る限り、完璧に使い分けていると判断します。

Posted by メイ at 2012年08月05日 21:14
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