2012年07月08日
●和文解釈入門 第415回
ロシア語をマスターするのに文型を覚えればよいと考える人もいるだろう。文型というのは高校などで英語の時間に習ったS + V + Oの類である。一時私もそう考えて、文型や構文を拙著の「ビジネスロシア語実戦会話・応用編」(東洋書店、2007年)や「実戦ロシア語文法」(東洋書店、2008年)に書いたりした。無論この種の文型や構文を覚えるのも大切なことだとは思うが、ロシア語習得の本質ではない。それは文型や構文というのは時制を無視しているからである。あたかも、現在時制で与えられた構文が、過去時制、未来時制でも同じように使えるかのような設定にしてあるからだ。そういう場合もあるかもしれないが、通訳やガイドの現場ではそう甘くはないというのが現実である。日本語とロシア語が違う系統の言葉である以上、時制も異なるわけで、そのような構文が時制を変えて応用できる場合はかなり限られてくる。
日本語文法で「テイル形」というのがあるが、これは三つの用法がある。「書いている」なら過程(進行形)であり、「来ている」なら現在完了であり、「座っている」なら状態である。過程と状態は不完了体現在形にすればよいが、「来ている」は完了体過去形となる。「~でできている」なら被動形動詞過去短語尾である。タ形の「来た」も、過去かもしれないが、現在完了(「来ている」という意味)かもしれない。このようなロシア語と日本語の時制の違いをよく理解しないと、簡単な和文露訳もできないことになる。文法もロシア語文法中心に教えれば、ロシア語の時制の説明となる。ロシア語の時制を理解して、それを逆にすれば和文露訳も簡単にできるかというとそういう風にはならない。露文解釈だけ一生懸命勉強しても、ロシア語が話せないという現実を見れば、それがよく分かるだろう。日本語の動詞の辞書形(終止形)は非過去(現在か未来)を示す。「学校に行く」は毎日がつけば繰り返し、明日がつけば未来の時制となる。日本人はこれを無意識に理解しているが、ロシア語にする場合は、対応のロシア語の時制がどうなるのかを理解しないと簡単なロシア文もつくれないことになる。それはこのコーナーの設問を試しにやってみれば分かることである。こういう時制の違いという観点から、和文露訳を教えているところがあるだろうか?
設問)「設備は契約日から2年以内に納入される」をロシア語にせよ。
Оборудование будет
поставлено в течение
двух лет с даты
подписания контракта.
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正解です。私の答えもまったく同じです。
Оборудование будет поставлено в течение двух лет с даты подписания контракта.
Оборудование будет поставлено в течение двух лет с даты заключения договора.
PDF化すればロシア語表示はまず問題ありませんが、最近のスマートフォンやタブレットのOSは世界の主要な言語に対応しており、他の形式でも問題ないはずです。
自分は、PDF等では文字の大きさや画面の幅に合わせて文章が改行されず読み難い為、テキスト形式の電子書籍をタブレットで読んでいます(ロシアの地下鉄でよく見かける電子ブックと同じ形式です)。
出版については専門サイトを覗くと丁寧に案内されていました(但し、手数料は取られますが)。下記の比較サイトから使い勝手の良い所を探されては如何でしょうか?
http://ebookbrain.x0.com/blog/selfpublish/compare-ebooks-sell/
出版期待しておりますので、僭越且つ微力ながらサポート出来ることがあれば何なりとお申し付け下さい。
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正解です。договорは条約という意味もあるので、ビジネス関係では形のある商品はконтракт、協力関係はсоглашениеと分けて使う人もいます。
電子書籍の件ですが、本当にありがとうございます。大いにたすかります。和文露訳入門の原稿はこの2日間でも目次の5%ほどが入れ替わり、機能動詞などは毎日3つぐらい増えています。このコーナー用の設問もあまり応用が利かないようなものは除いていますが、それでも後100回分ぐらいはあります。ですから、電子書籍についても2カ月ほどは十分検討して、まずほぼ固まっているとはいえ、原稿の方を完成させたいと思います。電子書籍については、いろいろご助力願うかと思いますがよろしくお願いいたします。
Поставка оборудования производится в пределах двух года со дня заключения контракта
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в пределахというのは「~の範囲内で」ということで、
в пределах допустимого(許容範囲内で)、Величина колеблется в пределах от 500 до 800 мм(大きさは500から800ミリの間で変わる)のように使います。一方、「~以内に」(期間)という意味では、ビジネス用語ではв течение + 生格 с + 生格という表現が用いられます。これは契約で使われるかなり厳密な表現だからです。
お答えは不完了体現在形をつかっていますが、そうなると、繰り返しの用法となります。学校のテストではこれで正解とするかもしれませんが、実戦で設問の和文に繰り返しの用法を使うのはおかしいと思います。なぜなら「設備は契約日から2年以内に納入される」という契約が、規則的に繰り返されることを意味するからです。現実的にそういう場合はほとんどないでしょう。契約というのは契約ごとに商品も、納入期間もバラバラというのが普通です。
「納入される」というのは日本語文法では受身のル形(辞書形、学校文法では終止形)であり、時制的には、非過去(未来の時制か、超時制〔反復、一般的な事柄、現在時制の一つと考えればよいでしょう〕です。上記の理由で、繰り返しでないのなら、未来時制を受身で使えばよいことになります。бытьの未来形 + ся動詞なら、未来の繰り返しになるので、未来の具体的な1回の動作なら被動形動詞過去短語尾を使うという選択肢しかないということになります。完了体未来形を使って不定人称文にする可能性もありますが、前回の設問のようにニュアンスが入ります。ビジネスロシア語では、特に契約においては、そのようなニュアンスが入るのは解釈が主観的になるので排除するのが普通です。
Оборудование будет поставлено в течение двух лет со дня заключения договора.
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正解です。
① Оборудование будет поставляться в течение двух лет со дня
подписания контракта.
② Поставка оборудования будет проведена в течение двух лет со дня
подписания контракта.
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二つ目が正解です。最初のは未来の繰り返しで、このような納入条件が繰り返される可能性はあまりないと思います。このコーナーの正解かどうかの条件は、基本的に、蓋然性があるかどうか、つまり、100事例があって1つそういう事例があっても、それは例外であって、正解とはしないというものです。無論、正解としないというそれなりの説明はするつもりです。通訳というのは時間的に限られるので、解釈が分かれるような通訳は好ましくありませんし、より多くの人が解釈するである方に、自分の考えはともかく、通訳すべきだと思います。こういう解釈は可能かというのは、自分の勉強の時には不可欠な学習態度ですが、通訳の時は、例外でも良しとするという風にはならないのです。
поставкаの機能動詞の組み合わせですが、осуществлять, производить, выполнятьは使います。проводитьは例文を持っていないので今のところなんともいえません。
失礼しました。今回も『ロシア語ビジネスレター』からのほぼ丸写しでした。②は写し間違いで、おっしゃるとおり “произведена” となっていました。