2012年07月07日
●和文解釈入門 第414回
出版の可能性は相変わらずないが、本コーナーの投稿者とのやりとりとそのフィードバックに基づく「和文露訳入門」の原稿ができたので、目次だけでも紹介したい。ページ数はB5なら300ページくらいだろう。
目 次
はじめに
第1章 体の本質と規範
第2章 過去の時制
2-1- 過去時制における不完了体
2-1-1 過去の出来事や動作(事実)の名指し → 不完了体動詞過去形
2-1-1-1 過去時制における動作の名指しとは何か?
2-1-1-2 過去の名指しの用法の種類
2-1-1-3 動作の名指しの用法の区別の仕方
2-1-2 動詞に文の焦点が来ない場合 → 不完了体動詞過去形
2-1-2-1 動詞に文の焦点が来ない場合とは何か?
2-1-2-2 否定文における用法
2-1-2-3 疑問詞との組み合わせで完了体過去形が来る場合
2-1-3 往復
2-1-4 過去の経過 → 不完了体動詞過去形
2-1-5 漸進・長期間に関わる用法 → 不完体動詞過去形
2-1-6 過去の反復 → 不完了体動詞過去形
2-1-7 過去の継続 → 不完了体動詞過去形
2-1-8 歴史的現在(劇的現在) → 不完了体動詞現在形
2-1-8-1 歴史的現在とアオリストの関係
2-1-8-2 動作の順次性
2-1-8-3 歴史的現在と完了体未来形
2-1-8-4 劇的現在
2-1-8-5 動詞以外の歴史的現在
2-1-8-6 日本語の歴史的現在との違い
2-1-8-7 記録の現在
2-1-8-8 歴史的現在とアオリストの違い
2-1-8-9 歴史的現在が使えない動詞や場合
2-1-9 意志の欠如 → не стал(а,о, и) + 不完了体動詞
2-1-10 過去の予定 → 不完了体動詞過去形
2-1-11回想・過去の不規則な反復動作(~したものだ) → 小詞бывало + 不完了体動詞過去形(不完了体現在形〔歴史的現在〕、完了体未来形)
2-1-12過去の経験 → 不完了体過去形
2-2 過去時制における完了体の用法
2-2-1 アオリスト(定過去、歴史的現在) → 完了体動詞過去形
2-2-1-1 アオリストとは何か?
2-2-1-2 アオリストと結果の現存の違い
2-2-2 創作者としての資格 → 完了体動詞過去形
2-2-3 順次的用法 → 完了体動詞過去形
2-2-4 結果の達成への期待 → 完了体動詞過去形
2-2-5 動作の一括化 → 完了体動詞過去形
2-2-6 いったん開始された行為の中断、中止 → 小詞было + 完了体動詞過去形
2-2-7 結果の評価 → 完了体動詞過去形
2-2-8 否定の強調
2-2-9 仮想の状況における動作の完了
第3章 現在の時制
3-1 現在時制の不完了体
3-1-1 過程 → 不完了体現在形
3-1-1-1 過程の意味
3-1-1-2 過程を示すことができない動詞群
3-1-1-3 過程の意味における日本語との表記の違い
3-1-1-4 ся動詞による過程の用法
3-1-1-5 不定人称文による過程の用法(不定人称文の項参照)
3-1-2 反復・習慣 → 不完了体現在形
3-1-2-1 反復・習慣と不完了体
3-1-2-2 過程を示せず、反復のみを示す動詞
3-1-3 過去から現在に至る継続ないしは反復 → 不完了体動詞現在形
3-1-3-1 過去から現在に至る継続ないし反復
3-1-3-2 動詞を使わない用法
3-1-3-3 про-の接頭辞を持つ完了体動詞過去形
3-1-4 伝達型動詞 → 不完了体現在形
3-1-4-1 伝達型動詞(перформативные глаголы)を分別する理由
3-1-4-2 過程や状態の動詞との違い
3-1-4-3 伝達型動詞の種類
3-1-4-4 結果の現存の用法との違い
3-1-4-5 語義による区別の仕方
3-1-4-6 動作未遂行の動詞 → 不完了体現在形
3-1-4-7 проситьとпопроситьの一人称での使い分け
3-1-4-8 начинать の現在形の特殊用法
3-1-5 評価伝達の動詞 → 不完了体現在形
3-1-5-1 評価伝達の動詞интерпретационные глаголыとは
3-1-5-2 評価伝達の動詞群
3-1-6 状態の動詞
3-1-7 経験(~したことがある)
3-1-7-1 不完了体過去形を使う用法
3-1-7-2 動作(事実)の名指し
3-1-8 動作の否定 → 不完了体現在形の否定
3-1-9 多回体的用法 → 多回動詞の不完了体現在形
3-1-10 真理の提示 → 不完了体現在形
3-1-11 様態 → 不完了体現在形
3-2 現在の時制における完了体の用法
3-2-1 結果の現存(存続)
3-2-1-1 結果の現存〔結果の達成と残存〕 → 完了体過去形
3-2-1-2 被動形動詞過去短語尾の結果の存続〔現存〕)の用法 → 現在時制
3-2-1-3 結果の現存とアオリストの違い
3-2-1-4 только чтоの用法
3-2-1-5 動詞を使わない用法
3-2-2 仮定や叙想 → 完了体未来形
3-2-3 不可能 → 完了体未来形
3-2-4 否定の強調 → 完了体未来形の否定
第4章 未来の時制
4-1 未来における不完了体の用法
4-1-1 単一動作に用いられる不完了体未来形
4-1-1-1 未来における動作の有無の確認
4-1-1-2 動詞に文の焦点(中心的意味や役割)が来ない場合
4-1-1-3 未来時制の動作の有無の確認(動作の名指し)に使える不完了体動詞(動詞の語義による)
4-1-1-4 未来時制において動作の有無の確認(動作の名指し)の意味で使えない不完了体動詞
4-1-1-5 運動の動詞と不完了体未来形
4-1-1-6 否定的意図 → не + бытьの未来形(не + статьの未来形) + 不完了体動詞不定形
4-1-1-7 両方の体がほぼ同じ意味で使える場合
4-1-1-8 動作の着手(意志)
4-1-1-9 未来時制においてесли, когдаに導かれる複文での時間にとらわれない一般的事実の表示
4-1-1-10 完了体未来形、不完了体動詞現在形、不完了体未来形の使い分け
4-1-2 予定の用法 → 不完了体現在形
4-1-2-1 予定の用法とは何か
4-1-2-2 予定の用法が使える動詞
4-1-2-3 近接未来における予定の用法
4-1-2-4 例外的用法
4-1-2-6 叙想語долженとの組み合わせ
4-1-2-7 предстоятьの用法
4-1-3 動作の意向 → 不完了体現在形 + 動詞の不定形
4-1-3-1 「~するつもりです、~します」の意味の内訳
4-1-3-2 意向の意味の動詞の使い分け
4-1-3-3 願望の意味の動詞群
4-1-4 未来における繰り返し → 不完了体未来形
4-1-5 呼応的用法 → 不完了体現在形
4-2 未来における完了体の用法
4-2-1 完遂的用法 → 完了体未来形
4-2-1-1 完遂的用法が用いられる動詞
4-2-1-2 完遂的用法と疑問詞
4-2-1-3 完遂的用法の特徴
4-2-2 順次的用法 → 完了体未来形
4-2-3 例示的用法 → 完了体未来形
4-2-4 未来時制における往復(これから行って戻って来る、行って来る)
4-2-5 未来時制における被動形動詞過去短語尾
4-2-5-1 未来時制における被動形動詞過去短語尾の用法
4-2-5-2 ся動詞の不完了体未来形の用法
4-2-5-3 未来時制の不定人称文
第5章 命令法
5-1 命令法における不完了体の用法
5-1-1 着手(促し) → 不完了体動詞命令形
5-1-2 勧誘 → 不完了体動詞命令形
5-1-3 動作の様態の強調 → 不完了体動詞命令形
5-1-4 禁止 → 否定詞 + 不完了体動詞命令形
5-1-5 反語的用法
5-2 命令法における完了体の用法
5-2-1 新しい事態の生起という具体的な1回の伝達の要請 → 完了体動詞命令形
5-2-2 例示的意味 → 完了体動詞命令形
5-2-3 丁寧な依頼 → 完了体動詞未来形の否定疑問形
5-2-4 警告 → 否定詞 + 完了体動詞命令形(うっかり~しないでください)
5-2-5 同じような状況で使える完了体・不完了体の用法の違い
5-2-6 被動形動詞短語尾を使って命令の意味を示す用法
5-2-7 意思に反し課され、義務として予定された行為で、憤激と反抗のニュアンスを持つ用法
5-2-8 仮定や叙想(現在時制の完了体の項参照)
第6章 不定法
6-1 不定法における不完了体の用法
6-1-1 切迫感(動作の着手) → 不完了体動詞不定形
6-1-2 不必要 → 不完了体動詞不定形
6-1-3 動作の持続性 → 不完了体動詞不定形
6-1-4 疑問詞 + 不完了体動詞不定形(完了体不定形)
6-1-5 動作の否定や禁止 → 不完了体動詞不定形
6-1-6 動作の名指し(動作の有無の確認) → 不完了体動詞不定形
6-2 不定法における完了体の用法
6-2-1 具体的な、特定の1回の動作の実現(具体的個別的事例) → 完了体動詞不定形
6-2-2 「~しましょうか?」構文 → 完了体動詞不定形 + ?(疑問形)
6-2-3 必要性 → 完了体動詞不定形
6-2-4 命令 → 完了体動詞不定形
6-2-5 不可能 →не + 完了体動詞不定形。
6-2-6 例示的用法 → 完了体動詞不定形
6-2-6-1 動詞句
6-2-6-2 例示的意味の不定形を取る熟語
6-2-7 「する気になれない」 → не + хотеть/хотеться + 完了体動詞不定形
6-2-8 不定形の名詞的用法 → 完了体動詞不定形
6-2-9 叙想語との組み合わせ
第7章 特異な体のペア
7-1 時制に関係なく完了体動詞と不完了体動詞で意味の異なる動詞群(писать/написатьグループ)
7-2 不完了体動詞が意味上優位な動詞群(звонить/позвонитьグループ)
7-3 状態「~である」と状態発生「~となる」を示す動詞群(казаться/показатьсяのグループ)
7-4 体の対立
第8章 会話に役立つ動詞の用法
8-1 быть動詞の用法
8-1-1 「行く」という意味での用法
8-1-2 軍隊で上官に対する敬語(Есть + 不定形)
8-1-3 будетの特殊用法
8-2 定動詞と不定動詞の特殊用法
8-2-1 定動詞の用法
8-2-2 能力を示す不定動詞
8-2-3 идти/ходить過去形の否定の用法の違い
8-2-4 пойти + 完了体動詞未来形(不定形の代わりに)
8-3 機能動詞
8-4 「知る」と「考える」の動詞群の意味の差異
8-5 接頭辞за-のつく動詞で場所を補語に取る多動詞群
8-6 хотетьとхотеться
8-7 敬語
8-8 強意代行動詞
8-9 可能の意味が内在する動詞群
8-10 副動詞
8-10-1 副動詞と不完了体
8-10-2 「~(の)ままである」
8-11 被動形動詞現在
第9章 その他統語論関係
9-1 時制の転用
9-1-1 「~しましょう」
9-1-2 抽象的現在
9-2 相対時制
9-3 無人称文
9-4 不定人称文
9-5 迷惑(被害)の受け身
9-6 人称の転用
9-7 強調構文
9-8 構文「とても~ので~する」
第10章 会話に役立つ形容詞、副詞、数詞、前置詞など
10-1 形容詞の特殊用法
10-2 機能副詞句
10-3 単数と複数
10-4 形容詞の最上級
10-5 助数詞(助数辞)
10-6 関係代名詞что
10-6-1 関係代名詞のчто
10-6-2 前の文全体を受ける関係代名詞что
10-7 主題の提示(テーマとレーマ)
10-8 生格の述語的用法
10-9 全体を示す与格
10-10 接続詞что/какと知覚動詞
10-11 理由を示す前置詞、前置詞句
10-12 「ために」の使い分け
設問)「搭乗のアナウンス(案内)はありましたか?」をロシア語にせよ。
(1) Объявление посадки уже было ?
(2) Уже объявили о
посадке ?
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(1)は一種の動作の有無の確認ですが、過去なら1年前でも1カ月までもアナウンスがあったかどうか聞いていると取られても仕方がありません。ところが設問のような文言は、日常生活では、空港のアナウンスでもそうですが、たった今アナウンスがあったかどうかが重要であって、昨日や1カ月前のアナウンスを聞いているのではないのは確かです。
(2)は正解ですが、このような伝達の動詞に対格補語とо + 前置格がつくものの違いは、対格補語が伝える内容すべてを意味し、о+ 前置格は概略というニュアンスの差があります。搭乗についていえば、内容的に深みがあるものではないので、対格補語を使うのが自然です。
сообщить рещультаты
сообщить о результатах
上記の二つの文のうち上は結果すべてを連絡するということで、二つ目の文は結果についてかいつまんで連絡するという意味です。
私の答えは、Объявлена ли посадка?
本来、動作の有無の確認というのは不完了体過去形を用い、過去のいつでもいいが、そういう動作があったか、なかったかが問題であり、現在との結びつきはない。極端に言えば、昨日のいつかでも、1カ月のいつか、1年前のいつかでもいいわけである。一方、搭乗のアナウンスというのは基本的にその結果が現在と結びついている。搭乗アナウンスがあれば搭乗口に行かないといけないからだ。だから結果の現存のある用法を使う必要がある。完了体過去形を用いると、結果の現存ということで現在と結びつけることができるが、主語に関係する期待などのニュアンスが出てくる。Объявили посадку? も正解だが、搭乗のアナウンスを待ちかねていたというニュアンスが出る。乗客としては、アナウンスがあってよかったとか、ようやくというニュアンスであれば完了体過去形を使った不定人称文を使えることになるし、その方が適切な場合も多い。
一方そのようなニュアンスなしで、結果の現存と動作の有無の確認を組み合わせるには被動形動詞過去短語尾を現在時制で使えばよい。受け身なので動作主が表に出て来ない。つまり、動作主に関するニュアンスも表に出て来ないから、結果の現存の用法と動作の有無の確認両方に使えることになると考える。
Сообщалось ли о посадках ?
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不完了体過去形を使っていますから、動作の有無の確認の用法です。しかもпосадкахと複数になっています。つまり特定の搭乗ではないということになります(特定の複数の搭乗というのは考えにくいでしょう)。сообщалосьというような無人称文は自然災害などは別ですが、アナウンスのように明らかに人がするものについては使えません。主語を特定できないのであれば、3人称複数を使った不定人称文を使うべきです。それに、不完了体過去形のこの用法は、過去であればいつでもいいが、1回以上その動作があったかどうかを尋ねているわけで、極端に言えば1年前でも昨日でも、1回でも2回でもそういうアナウンスがあったかという事実を尋ねています。ところが設問のような文言を日常生活でよく聞くのは空港などでしょうから、これなどはたった今アナウンスがありませんでしたかということです。アナウンスがあれば搭乗口にすぐ向かわないといけませんから。そういう意味で、現在との結びつきを考えた用法が必要となります。
① Посадка объявлена?
② Обявили посадку?
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両方とも正解ですが、二つ目のは期待というニュアンスが出ますから、じりじりして搭乗アナウンスを待っているような感じがします。結果の現存の用法を使う場合には、ニュアンスの有無で使い分けができるのではないかという気がします。搭乗アナウンスについては、乗客同士の場合なら、まだ搭乗アナウンスがないのかとか、ニュアンスをつ板場合が多いので、完了体過去形の方が多いのかもしれません。
原稿の完成おめでとうございます。あちこちに別れた膨大な量のまとめは大変だったことと思います。ここでのやり取り以外にもかなり新たな項目がたっているようですし。それにしてもB5の300頁とは大判になりますね。厚みもあるのでかなりの存在感ではないかと思います。出版されれば私たちはもうサイト内をひっくり返さなくても目次で引けるので大助かりですが。とにかく出版されるのを楽しみにしています。お疲れ様でした。
Объявили посадку?
是非拝読したいです。
電子書籍の出版の可能性はありませんか?
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まずご回答から。正解です。完了体自体が新しい事態の生起というような、これまでとは違うという状況で使われますから、文脈によっていろいろなニュアンスがつきます。ニュアンスがなければ不完了体を使うと考えてよいと思います。例えば、「イワノフさんに電話しましたか?」という文を露訳すると、次の二つの体の使用が考えられます。
1) Вы звонили господину Иванову?
2) Вы позвонили господину Иванову?
1)はニュアンスがなく、動作の有無の確認(動作の名指し)だけですが、2)は「当然電話してくれたよね」というような期待のニュアンスが加わります。上司が秘書に尋ねる場合、両方使えますが、2)で聞かれたら秘書の方は、一種の圧力を感じますから、日本語の方も「イワノフさんに電話してくれたよね?!)という感じになります。無論会話はイントネーションも大事ですが、文章ではそれが出せません。ロシア語の文学関係の本では、そういう意味で体の使い方に注意して味読すれば、作者の意図をか考えながら、より深くロシア文学が味わえることになります。体の用法は、会話のみならず、露文解釈にとっても必須だと思います。
さて電子書籍ですが、昨今では無料のソフトもあり、1000人分の暗証は1万円ぐらいで売っていますから、そういうソフト会社のサーバーにアップして、電子書籍の購入者だけに売るということも可能なようです。しかも、iPadなどのスマホでも使えるものもあると聞いています。ロシア語変換が大丈夫なのか確認の要はありますが、是非検討してみたいと思います。ただコンピューター関係に詳しくないので、そういう助言者がいれば助かります。これがうまくいけば、和露類語集、和露観光用語集、和露技術用語集、日本に関するロシア人の疑問、ロシア史奇譚など出版したいものはいくらでもありますから、ロシア語関係の資料代の一部にでもなればいいがと思っています。「和文露訳入門」についても200部ぐらい売れる目処が立てばいいのですが。