2012年07月01日
●和文解釈入門 第408回
私自身が耳にして、きれいな日本語とは思えない表現に、助詞にアクセントを置く言い方がある。「~は」を「~はぁー」、「~(と)か」を「~(と)かぁー」、「~で」を「~でぇー」と延ばすものであり、テレビを見る限り、老若男女関係なく、使う人が多い。若いころの大学紛争のときにに聞いた学生運動家の「我々はー」というのを思い出す。これは、「あの」とか「つまり」など、次の文をどう言うか考えをまとめるための間の代わり、ないしは息継ぎなのだろう。金田一春彦によれば、会話の後につけるネサヨの廃止運動というのがあって、みっともないからこれを止める代わりに、切れ目ごとに変な節を入れるようになったとある。また日本語は母音で終わる語が多く、イタリア語やスペイン語と並んでメロディーがあるように聞こえる美しい言語だという。せっかくの美しい言語が台無しなのではないか。このような表現は音調を崩しているとか思えないし、間が抜けた感じがする。ネサヨの方がはるかにましだ。
このほかに、若い男女が使う「~ないですか」がある。これは、日本人は断定を嫌うための、日本人の否定表現好きと関係があるらしい。しかし否定文であっても、断定されているようでこれも聞き苦しい感じがする。
設問)和食レストランで「僕はウナギだ」をロシア語にせよ。
Я возьму "Унаги"
(угоря).
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ウナギの対格はугряです。これでもいいのですが、レストランに入れば、注文するのは当然ですから、不完了体のберуを使って、予定の意味にする方が会話では自然です。何の前提もない話し始めの文である始発文、話題や場面転換、新しい話題の提供というのであれば、場独立型の完了体を用いるべきです。бытьの未来形 + 不完了体については、братьがこの語義(注文する)では、過程の意味がないと思われるので使えないと思います。車でも買うというなら別でしょうが。
発想をもう一歩進めて、和文のように動詞(「だ」は助動詞です)を取ってみることを考えれとよいと思います。私の答えは、これはウナギ文というもので、主題を提示する日本語の特徴がよく出ている文とされる。日本語は主題優先言語なのだ。この場合の「僕は」は主語ではない。主語ならウナギが主人公の話になってしまう。これを露訳するときにどうするかというと、「僕に関して言うなら、ウナギを注文する」とまず考える。そこから発想を転換して、「ぼくにはウナギを(くれ)」Мне угри.とするのが一番簡単だろう。
活動体について詳しく論じているのは、私の知る限り、Русский язык, Виноградов, Высшая школа, 1972だが、その中で魚料理は集合的意味として複数で示され、不活動体扱いである。複数対格は複数主格と同じになるとして、глотать устрицы(牡蠣を飲み込む)やя зван на форели(ニジマスの料理に呼ばれた)などの例が挙がっている。となるとウナギ料理の対格もウナギを複数対格にすべきかなと考えた次第。
А мне "унадон"(унадзю,унаги но кабаяки и т.д.), пожалуйста.
これだけ高文脈だとどこから手を付けていいのか…。「僕は」ということは、他の人の注文が先にあり、「僕については~」(что касается меня)ということなので、ロシア語では"а"を入れましたが、これだけでいいのかどうか。「ウナギ」はもちろん何か特定のウナギ料理を指しているので、угорьや блюдо из угря では訳にならず、うな丼であるとしてもロシア人には通じないので本当は説明を付けなければいけないと思いますがそれも大変なので日本語の料理名にしました。さすがウナギ文、あなどれませんね。述語が「だ」だけなので「食べます」とも「注文します」とも「持ってきて下さい(お願いします)」とも何とでもとれますね。
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正解です。аをつけるかどうかは、おっしゃる通り、先に人が注文して、それが別の料理なら、つくでしょうし、自分が最初の発話なら、不要だと思います。
Мне уголь, пожалуйста.
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惜しい。ウナギはугорьで、угольは炭です。凡ミスでしょう。ウナギは活動体なので、対格は生格と同形のはずですが、料理されたものは活動体なのかどうかという疑問が起こるのは当然です。ただ魚料理は不活動体の扱いのようです。設問のポイントが理解されているというのは非常に重要です。日本語でも外国人が理解しにくいとされるウナギ文をマスタされているわけですから大したものです。
ロシアにもウナギ(アナゴかもしれませんが)は、それほど一般的ではありませんが、食べます。私も缶詰のугорьは買ったことがあります。ウナギречной угорь(アナゴморской угорь)のどちらかは知りません。蛇の姿造りのように蚊取り線香のような形の、ぶつ切りにしたもので、うでであったように記憶します。非常にまずいものでした。
я закажу себе угря.
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これでもいいのですが、ブーチャンさんと同じような体の使い方のように思います。