2012年05月08日
●和文解釈入門 第354回
前置詞のвやнаは対格と結びつくと移動の方向を、前置格と結びつくと位置(所在)を示すというのは初級のときに習う。ところが動詞によっては、通常は移動の方向を示すのには対格が来るが、意味によっては例外的に前置格が来る場合があるものもある。これは多義語の動詞の場合、状態の意味が強く出る語義には位置(所在)を示すものがあるという事からだろう。
поместить/помещатьは新聞や雑誌に載せるという意味ではпоместить статью в журнале(記事を雑誌に載せる)のように前置格が来る。смотреть/посмотерьも同様である。
смотреть галстук в магазине(店でネクタイを見る)
смотреть новое слово в словаре(新しい単語を辞書で調べる)
лечь/ложитьсяは眠るという意味では前置格を、移動の方向を示す時は対格となる。
Я хочу лечь в саду.(庭で寝たい)
Собака легла на пол.(イヌは床で横になった)
класть/положитьでは一定の時間置いておく、一定の時間残しておくという場合や、寝かしつけるという意味では前置格が来る
Книги для тебя я положу на подоконнике.(お前のために本は窓台に置いたよ)
В тёплые дни можно класть ребёнка на балконе.(暖かい日は赤ん坊をバルコニーで寝かせてもよい)
ставить/поставитьでは部屋の中という意味なら前置格が来る
В столовой поставили ёлку.(食堂にクリスマスツリーを置いた)
ついでにв/на + 対格とк + 与格の違いを和文露訳するときによく理解していない人がいるかもしれないので書いておく。例えば、「駅に行く」という文にはидти/ехать к станцииとидти/ехать на станциюが考えられるが、後者は駅のテリトリーに入るという意味で、前者は入るということを意味しない。к + 与格は人にだけ使うと勘違いしている人もいるかもしれないので念のため書いておく。
設問)「ここを触ると痛いですか?」をロシア語にせよ。
(1) Вам больно когда
здесь трогать ?
(2) Вы чувствуйте боль
при трогании этого
места ?
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最初のは「いつここを触るべきか」と「痛い」が組み合わさっていて意味をなしませんが、発想的には惜しいと言えます。2番目は会話でこのような表現はしません。私の答えは、Больно, когда я трогаю здесь?一見例示的用法ではないかと思う人がいるかもしれない。例示的用法というのは不規則な習慣、「もし何かあれば~する」というニュアンスのときに使うが、完了体の用法なので、叙想的ニュアンス、つまり主観的な感情が混じることになる。一方設問は医者が患者に尋ねているわけで、触るといつも(規則的に)痛いですかと客観的に聞いていることになる。痛みも思い込みのようなものを除けば、神経が炎症をおこしているとか、痛覚を刺激するとか科学的に証明されるような客観的な原因があるわけで、このような場合には叙実的(事実に密着して,それを客観的に描こうとする)なニュアンスのある不完了体を用いることになる。主観的なら完了体、客観的なら不完了体という理解もあながち間違いではなかろうと思う。
設問)「ここを触ると痛いですか?」
Вам больно касаться этого места?
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касатьсяも使えますが、この動詞は意識的接触にも無意識の接触にも使えます。しかも言及するという意味もあり、касаться этого местаとなると、論文のこの場所に関係すると言う意味に解するのが普通で、касаться здесьの方がよいと思います。трогатьは意識的に、ある程度の強さを持って触れるという違いがあります。構文的にはこの場所を触れることは痛いですかとなり、触れるときには痛いという条件文の意味が出ていませんし、論理的にもおかしいと思います。
診察で触診しながら患者に痛む場所を聞いているイメージです。
Вы ощутили боль, когда я потрогал здесь?
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それはその通りなのですが、触れるといつも痛いですかと聞いているわけで、設問に完了体のニュアンスはないと思います。お答えを訳せば、「ここをちょっと触ったときに、痛みを感じましたか?」と、具体的、且つ順次的用法で、間違いとは言えないと思いますが、それこそ、ここはどうですか、またここはどうですかと医者が次々いろいろなところを触診していくときの特定の一場面を切り取った感じがします。
今回のさとうさんのコメントに大満足しています。まさにそういうシーンを想像しながら投稿しました。医者が患者の痛みの場所を特定するために次々と触りながら聞いている場面でした。求められる回答とは食い違いましたが、自分自身はやったね!というさわやかな気分です。体の使い分けがぴったり当たったという達成感です。けっして自慢ではありませんので念のため。