2012年03月28日
●和文解釈入門 第314回
例えば、「報告(講演)するделать/сделать доклад」という動詞を未来時制で使うとすると、機能動詞のделатьであるために、珍しいことだが完了体未来形、不完了体動詞現在形、быть動詞の未来形 + 不完了体不定形の3つが使える。普通は完了体未来形かбыть動詞の未来形 + 不完了体不定形の二つのうちいずれかであり、動詞によってはбыть動詞の未来形 + 不完了体不定形、ないしは完了体未来形のどちらかだけという動詞もある。未来時制の和文露訳の場合、どちらを使うか悩むところだが、単一の動作を意味し、新しい話題の提示ということであれば完了体未来形を用いるのが普通である。ゆえにЯ сделаю доклад о танках.(戦車について報告します)とするのが一般的であろう。不完了体現在形を用いるのは予定に組み込まれているときで、Я делаю доклад на пленарной сессии.(本会議で報告します)となる。はっきり動作の延長上にあると確信できるなら、使える動詞は限られているとはいえ、予定という意味で不完了体現在形を使う事になる。
問題なのはбыть動詞の未来形と不完了体不定形の組み合わせである。この場合は動詞自体に意味上の力点が来ない、動作の本質とはあまり関係のない、刺身の付け合わせのような文、例えばЯ буду делать доклад на русском языке.(報告はロシア語でします)というような場合に用いられる。そうでない場合は時間の長さを意識するような動作である。完了体未来形が動作を「すぐ~する」というイメージがあるのに反し、бытьの未来形 + 不完了体はこれまでの動作や行為の延長上にあると思われるような動作、また時間的には一拍おいた感じか、期限が明示されないような場合に使われると考えればよい。
しかしучаствовать(参加する)のように対応する完了体のない動詞もある。文脈によっては現在形でЭта команда впервые участвует в Олимпийских играх.(このチームは初めてオリンピックに参加します)と予定の意味でも使えるが、未来時制の場合はВы будете участвовать в этом заседании?(この会議に参加しますか?)とбыть動詞の未来形との組み合わせが多い。このように完了体がない動詞(питьなどの接頭辞のない単純動詞)では、対応する完了体がない以上、быть動詞の未来形と組み合わせて、「~するつもりである」という意図の意味で使わざるを得ない。участвоватьでどうしても新規という事を強調したいという場合はどうするかというと、同義語を用いるしかない。Приму участие в семинарах.(セミナーに参加します)となる。完了体と不完了体が同程度に使われる動詞というのは少ない。どちらかがメインで使われる場合が多いし、上に挙げたように不完了体しかないもの、完了体しかない動詞もある。そう考えれば動詞によって未来時制で使われる用法というのもある程度決まってくるという事になる。
「報告する」という動詞もそうだが、完了体未来形というのは一瞬後の未来でも、明日でも、1年後でも動作を終了するという意味では使える。ここで問題なのは動作遂行型の動詞との違いをどうつけかである。第300回の表にも書いたが、動作遂行型の動詞は発話の瞬間から動作の終了を目指す動詞群であり、完了体未来形が一瞬後に動作が開始される場合実質的に区別がつきにくい。例えば、同じ「報告する」でも上司に対して報告するという意味のдокладыватьを使うЯ по радио докладываю, что всё в порядке, скоро выходим на цель.(すべて順調であり、もうすぐ目標に到達すると無線で報告申し上げます)という文は、発話の一瞬後ではなく、発話の瞬間から報告という動作は内容を伝え終わるわけで、これが動作遂行型の動詞の特徴であり、日本語にも対応する。意識の中で動作の開始が一瞬後か発話と同時かを意識することが重要であり、動作の内容はо + 前置格、ないしはчто以下で示されることが多い。動作遂行型動詞は不完了体現在形で用いられる。これにдоложуと完了体未来形を使えば、一瞬後か、1時間後かは別にして、とにかく発話の時点ではなく、後に報告するということになる。
設問)「東日本大震災の被害額はどのくらいですか?」をロシア語にせよ。
Какова сумма ущерба
великого
восточнояпонского
землетрясения ?
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ущербというのは損失、損害だが、健康への害という意味でも使う。損害額というのだからお金に換算しての損害ということになる。суммаを入れても損害の総計というだけで金額になるとは限らない。私の答えは、Каков материальный ущерб от Великого восточно-япоского землетрясения?
東日本大震災の露訳は最近出た2011年版の年鑑Ежегожник Японияの巻頭を飾ったВ.Э. Молодяковの論文「2011年3月11日以降の日本」から採った。彼は大震災当日も日本に滞在しており、生々しい状況がよく伝わってくるし、訳語も東京は死の町と書くようなセンセーションのみを煽るロシアのジャーナリストと一線を画し、日本に関するプロの学者としての冷徹な目で事態を眺め、その訳語も大いに参考になる。материальный = имущественный, денежныйという意味があり(物質的なという意味もあるが)、その意味では長語尾でしか使えない。
Какова общая сумма ущерба от Великого землетрясения Восточной Японии?
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ブーチャンさんと同じ答えですね。
Какова сумма убытка от произошедшего 11 марта землетрясения на северо-востоке Японии?
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これもブーチャンさんと同じような答えですね。