2012年02月13日

●和文解釈入門 第269回

ロシア語の勉強をはじめたのは、ロシア語でロシア人と会話したかったからで、まず会話の和文露訳習得をめざした。英文解釈よりははるかに英作文のほうが難しいのは受験で体感していたので、まず露文解釈をやり、短文を暗記していった。まず初級文法も終え、仲間と1年ほど週1回ロシア人の先生に会話を習った。これでロシア語の聞き取りと度胸はついたが、自分の言いたいことを曲がりなりにもロシア語言えるようになったのは、ロシア語をやりだして4年ぐらい経ったころである。就職してから自分でロシア語の文法をやるにつれて、ロシア語に関するいろいろな疑問は減っていくとは言うものの、どうしても分からないものも出てくる。有難いことにそのころから今に至るまで親切なロシア人は回りにたくさんいたので、質問するのには困らなかったが、納得のいく文法的な説明はしてくれないし、奇妙な自説を展開する人も多い。結局あきらめて分からないものは丸暗記というふうになっていった。

 そうこうするうちに、正しいロシア語もかなり話せるようになったが、どうして複数をとるのかとか、どうして不完了体(あるいは完了体)を使うのかなどと皆目分からないものも増えていって、かなりのストレスとなった。体の用法や単数・複数、類語についてほぼ何とか説明がつくと思えるのようになったのはこの1年ほどである。40年やってようやくと思うか、ロシア語を始めた以上、初めてロシア人に聞かなくてもロシア語が使えるようになったのを喜ぶべきか分からないけれど、一区切りついたようでこれはこれで嬉しい。ただ体の用法が説明できるようになってもガイドや通訳の料金がアップするわけでもない、単なる自己満足である。ただもっと早めに体の用法を教えてくれる人がいたら、もっとストレスなしに楽にロシア語の会話が出来たのにという気がしないでもない。

 正しいロシア語を話すというのはそれほど難しいものではない。ロシア人の使う正しい例文をたくさん暗記すればよい。その数がいろいろな状況に合わせて多ければ多いほど、ロシア人のロシア語らしく聞こえる。多くの通訳はこのような和風ロシア人を目指しているのかもしれない。理屈抜きにロシア人のロシア語が無意識に口をついて出てくるようなロシア語である。幼児が母国語を覚えるのをものすごい時間をかけて覚えるわけである。丸暗記を続けるというのは、少なくとも私にはかなり前からしんどかったし、今でもしんどいことには変わりはない。こういうのはまともな大人がやることではないと常々思っていたし、今も思っている。物事には本質的な系統的な何かが必ずあるはずで、それを探そうとして、ついに自分なりに納得できる答えを見つけたという事である。

 しかし、体の用法も含めてその系統的な何かを、会話での和文露訳で活かすために、また自分が会話で使えると実感し、納得するためには適切な例文が数多く必要である。理論で納得しても実際が伴わなければ意味がないからである。それについてはこれまで自分用に収集した、例文を含む8万5千項目の語彙が大いに役に立っている。その一部は第233回の表で紹介した。さらに完了体と不完了体を整理したり、誤解を招くような記述を削除したり、入れ替えたりしてこの表もかなり改良されつつあるので、いずれ改訂版を紹介することもあろう。今さら昔に戻れるわけではないが、ロシア語を始めたころにこの表を使って、ロシア語を教えてもらっていたら、40年かかったロシア語を10年くらいでマスターできたのにと少し悔しい思いがする。

 この世の中は広いから、全部が全部とは言わなくとも私と同じ考えの人もほんの少しはいるかもしれない。そういう人たちにこのコーナーは、ロシア語をマスターする上での、一つ別なアプローチподходを提示しているという事になる。

設問)「みなさんがたと20分行き違いとなりました」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年02月13日 08:03
コメント

Я вас потерял(а) на 20 минут.
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ご回答を和訳すると、「私はあなたを20分見失った」ですが、これでは設問の答えにはなっていません。あなたに向かって言っているわけですから、見失ったなったあなたとは再会できたということになり、結果の現存とすれば論理的におかしいわけです。となると必然的にアオリストでしょう。お答えは一面の真実をついていますし、いろいろ考えた結果だと思います。行き違いというのは動作がお答えのような一つではなく、二つあります。もう少しで正解にたどりつけたように思います。ただ完了体過去形を使ったのはよい発想です。ただ、少なくともご回答はこれは結果の現存ではないということをよく理解してください。私の答えは、Я разъехался с вами на двадцать минут. 
 これも電話での会話なら結果の現存ですが、アオリストと取るのが自然です。

Posted by asuka at 2012年02月14日 01:28

Мы с вами мимо друг друга проходили на 20 минут (, но не узнали).

20分にわたって行き違っていたということで、今は会っているという設定なので不完了体を使いました。辞書では、пройти мимо кого-чего で не заметить(気づかない) となっていましたのでコンマ以下は必要ないかもと思いました。
これ以外にも「行き違いになる」 разойтись, разминуться がありましたが、どれが一般的に口語でよく使われているのかが実地経験が少なくわかりませんでした。 разминуться は(口)<…と>行き違いになる 、とありましたが、辞書では完了体のみしかなく、ネットで調べたら разминоваться がありましたがこの不完了体はどれほど使われているのでしょうか。
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おっしゃるように再会したと考えれば、行き違いという動作の結果の現存は成り立たないわけですが、アオリストと考えればどうでしょう。過去の明確なある時点で(1回だけ)行き違ったと考えるわけです。不完了体の過去形は繰り返し、一般化、動作の名指し(経験)で、特に動作の名指し(回数や過去のいつの時点かということを特定しない)ということで今回は使えないでしょう。いつかということは設問に書かれていませんが、1回の、それも特定の時間に行き違ったということは明らかです。私がアオリストの理解が難しいというのはこのへんにあります。
 お答えは、「あなたのそばを通り過ぎた」であってこれは「あなたが」そこにいたということを認識していますが、「行き違う」は「あなた」がいるかどうか認識できずないからすれ違ったのです。Он прошёл мимо меня.は「かれは私のそばを通った(私とすれ違った)」ですが、彼が私を認識しているかどうかは別にして、私は彼がいたことを認識していたわけです。「行き違う」は両方が療法の存在を認識していなかったということになります。ご回答をпрошлиと完了体過去形に代えても、20分だけ、お互いのそばを通ったが、気がつかなかったと正解に近くなりますが、この動詞で設問の意味を出すのは、この動詞に双方的という意味がないので無理だと思います。となると、разойтись, разминуться(これには、行き違う〔相手と会っていない〕と、すれ違う〔相手のそばを通る〕と二つの意味があります)ですが、歩いてすれ違う場合は前者が多いでしょう。разминутьсяもよく使います。私のはバスかなにか、車でのすれ違いを想定したものです。
 露露辞典にあるпройти/проходить мимо + 生格 = не замечать, не распознавать чего-либоというような熟語(比ゆ的な意味での)という意味です。露露にある例文を見ればよく分かります。語義そのものでは、「そばを通る」ですから、両方がお互いの存在に気が付いているとも、両方とも気が付いていないとも、片方だけが気が付いているとも取れるわけです。そういう意味でこれだけでは行き違うという意味が不明確となります。

Posted by メイ at 2012年02月14日 01:46

Мы с вами разминулись на 10 минут.
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正解です。設問は10分ではなく、20分ですが、凡ミスでしょう。

Posted by Ml at 2012年02月14日 04:15

ご説明ありがとうございました。アオリスト、難しいですね。設問の場合、過去のある時点で1回だけ行き違ったのはわかったのですが、行き違ってから再び出会うまでの20分間の継続はどこで表されるのでしょうか。私はこの20分を過去の継続ととらえて不完了体を使ってしまいました。行き違ったのは一瞬ですが、その後20分間お互いに出会えないまま(おそらく)歩いていて、あるいは車で移動していて20分後に出会えたと考えるのは無理がありますか?もしもこの20分がなければ完了体を、そしておそらく不完了体のない(?) разминуться を使って作文していたと思います。今回はさとうさんの引っかけに見事に引っかかった感がありますが、まだ自分の中に素直に入ってこないのでやっぱり投稿させていただきました。
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今回の設問はひっかけということを意識して出したわけではありません。すれ違うのはおっしゃるように一瞬ですが、行き違いになるのは「すれ違いになって出会わないでしまうこと」で、20分の差で会えなかったということです。20分早ければ(ないしは遅ければ)会えたのにということです。行き違いになったというのは会えなかったということで、普通はアオリストで、電話を使えば結果の現存も使えるかもしれないというだけのことだと思います。すれ違いに意識が集中しているようです。設問ではすれ違ったその20分後に必ずしも会えたというわけではありません。会えたかもしれないし、会えなかったかもしれないのです。この設問は結局会えなくて、電話やメールでの言い訳ととるのが普通だと思います。
 20分の間行き違い続けたという意味で(これも変な日本語ですが)、20分間行き違った(行き違っていた)というかというといわないと思います。行き違うもすれ違うと同様、瞬間的な1回の行為を指すと思います。言うとすれば、行き違って、20分後に出会ったとなると思います。そうであればロシア語も完了体過去形の順次的用法が使えます。

Posted by メイ at 2012年02月15日 21:48

そういう意味だったんですね。今やっと理解できました。他の回答者の皆さんと大きく行き違ってしまったようです。どうりで、行き違い(一瞬)と20分(継続)とが混在するのでどう処理したらいいかと考えた末の回答でした。自分の中では、ガイドと観光客が、ガイドが20分遅れてきたか、観光客が20分早く来たせいで決められた場所でお互いを見つけられなくてさがし歩いていて20分後に出会えた設定でした。思い込みは怖いです。お騒がせしました。
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確かに思い込みは怖いですが、メイさんの、ニュアンスを含めて正確に露訳しようと態度は見習うべきものがあります。私自身、ロシア語に流されてしまって、ロシア語自体は正しくとも、元の日本語を曲げて、ロシア語にしやすい方に、しやすいほうへと通訳する(正確に通訳すれば説明的になるし、時間もかかる)傾向もままあるなと自戒の念をこめて書いておきます。

Posted by メイ at 2012年02月16日 12:57
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