2012年02月08日
●和文解釈入門 第264回
ロシア語でヴォールворというのは泥棒のことだが、ヴォール・ザコーニェвор в законеは今やロシアアカデミーの最新版露露辞典にも載るくらいロシアでは一般的になった。ヴォール・ザコーニェは口語ではヴォールと略されて使うのが普通で、泥棒と紛らわしいが、ヴォール・ザコーニェはケチな泥棒などはしない。自分でする必要がないからである。その歴史については、「ロシア小話アネクドート」と「ロシアのジョーク集」にゴロツキ(五露助)成金として分けて書いた。ヴォール・ザコーニェ(以下ロシア語の口語通りにヴォールとする)は日本語に訳せば日本の顔役、任侠、侠客、極道、渡世人、無頼という感じだが、犯罪エリートの階層であり、だれでもなれるわけではなく、なるには実績が要るし、二人の推薦人も要る。
日本人でもソ連時代の収容所を経験した人の中には、ヴォールについて描いている人もいる。「ロシア無頼」(内村剛介、高木書房、1980年)にЧеловек есть?とヴォールが房に来て尋ねる場面がある。直訳すれば「人間はいるか?」だが、человекは隠語でヴォールвор (вор в законе) のことで、урка, уркаган, блатнойともいう。つまりヴォールは自分たち以外を人間と見なしていないから、「仲間はいるか?」と尋ねたわけである。つまりトーシローфраерはヴォールにとってカモでしかないということになる。
ヴォールは当時40歳を超えて生きるのは稀だとされた。抗争事件で殺されるか、ヤク中になるかどちらかだったのである。ヴォールの残虐さについては「GULAG」, Anne Applebaum, Doubleday, 2003やシャラーモフШаламовの「コルィマー物語Корымске рассказы」でよく語られているが、ソルジェーニーツィンの「収容所列島」にも草創間もないころのヴォールについて描かれている。ちなみにヴォールは1930年代の初めの収容所(場所は特定できないがソローフキСоловкиなど特別収容所の可能性が高い)の中で差し入れなどの関係から、犯罪エリートが自分たちを守るためにできたと考えられている。
1947年冬クラスノヤールスク収容所に40人の日本人将校が戦犯として移されてきた。この収容所では囚人は森林伐採の作業をさせられていたが、厳寒の候でもあり、ロシア人でもその寒さに耐えるのは大変だったとソルジェニーツィンも書いている。そこには作業拒否者отрицаловкаという筋金入りのヴォールが何人かいた。ヴォールには18条の掟があり、その中に犯罪以外のしのぎ(稼業)はしてはならないという一カ条がある。それを厳格に守れば当局と揉めるわけで、当然相当の覚悟がいる。後になって1980年代から経済マフィアが実権を握るようになると、この掟は無視されるようになった。ヤクザも霞を食っては生きていけないのである。
このヴォールは入ってきた日本人捕虜を何人か丸裸にして、パンを取り上げた。それに怒った近藤という大佐は二人の将校とともにその夜収容所所長のもとを訪れ、流暢なロシアで、もしこの無法を放置しておくならば、明日日本人二人が切腹をする。それでも無法が止まなければ、切腹を続けると話したところ、所長のエゴーロフは事態の深刻さを即座に理解した。日本人の命を憐れんだのではなく、これが上に知られれば、自分もただでは済まないことに気づいたのである。かといってヴォールを処罰して彼らとももめごとを起こしたくもない。当時イヌ(スーカ、直訳は牝犬)сукаという同じ犯罪者でも、当局と慣れ合い密告者としての役割も果たしていた集団があり、これは明らかにヴォールの掟の中の、当局とはいかなる協力もしない、軍務にも服さないという掟と抵触する。そのためヴォールとスーカの間に当時すでに激しい抗争が始まっていた。ヴォールともめ事を起こせば所長といえども殺される可能性があるわけである。そこで次の二日間日本人を作業に出さず、十分食事を与え、別の収容所に移送した。これはヴォールに勝利した珍しい例としてソルジェーニツィンはほめて書いている。正に日本人の誇りである。
設問)「昨日彼女はなぜかいつもより早目に会社から帰った」をロシア語にせよ。
Вчера она почему-то вернулась из компании немного(чуть) раньше обычного.
過去の具体的動作を示すアオリストは完了体過去形であると考えました。
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正解です。「会社から」はその通りなのですが、オフィスからというようなニュアンスとなります。「いつもより早く」はранее обычного, против обычногоのほかに не лучше, чем обычно(いつもよりよくない)とも言えます。私の答えは、Вчера она почему-то вернулась с работы раньше времени.
最近のご回答を見る限り体の用法の本質はマスターされたように思います。あとは実戦での凡ミスをなくし、語彙を増やすだけです。メイさんのようにсамообразование(自学自習)でその文法レベルに達した方は少ないと思います。私も私より会話も含めてロシア語ができる人は何人も知っています。そういう人は努力されたのでしょうが、結局のところ語彙と例文の丸暗記ということで、体の用法についてもなぜこの体を使うのかと聞いても、なぜそういう質問をされるのか分からない、こうなるのだからこうなのだとしか答えてくれません。つまりどれだけロシア人近づけるか努力されているように見えます。これがいけないとは思いませんが、そういうレベルになるまで努力を続ける気力のある人は、またそういう境遇にある人はあまりいないと思います。私が勧めるような文法(特に体の用法)を先にマスターすれば、どこでもできるわけですから、結局ロシア語を覚える早道だと思います。
不完了体自然体という勉強を初級の時から初めて、成果を上げるという人がいずれ出てくるといいのですが、そういう意味では私もメイさんも丸暗記派からの転向組なので、私の理論の証明にならないのは残念なことです。まあ一人ぐらいもの好きが出てくるかもしれませんが。
Вчера она почему-то пришла с работы немного раньше, чем обычно.
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正解です。