2012年01月26日

●和文解釈入門 第251回

何が楽と言って、通訳の通訳をするのが一番楽である。ロシア語のできる人に対してロシア語で通訳することはないが、英語がかなりできる人や観光などで英語の通訳やガイドの話す日本語をロシア語にすることはある。こういう人たちは外国語慣れをしているので、短く、論理的かつ平明な日本語を話してくれるからこれをロシア語にするのは非常に簡単だが、普通の人相手ではそうはいかない。日本人同士だからといっても、発想がとびとびだったり、論旨がメチャクチャで何を言っているのかさっぱり分からないというのもままある。考えて話しているとはとても思えないし、できることなら頭の中を覗いて見たいものだと思う事もある。この方が下手なゲームよりよほど面白いだろう。特に話し慣れていない人とかおしゃべりな人にこの傾向が強い。言わんとすることを訳すのは一言で済むのだが、そうしてしまうとご機嫌を損ねてしまう。なぜ全部訳さないのかということらしい。まさか全部訳せばますますこんがらがるとは言えないので、適当にロシア人が理解できるだろう限界まで話を長引かせ、かつ要点を最後の一言で終えるようにする。例えば、いろいろ申し上げましたが、要は~ということなのですという高等(口頭)テクニックを使わざるを得ない。意味を理解してほしいのか、話の流れのままに、ただ単語の羅列だけすればいいのか悩むところだ。特に下手なダジャレや仲間内のばれ話しをされた日には泣きたくなる。これでロシア人が笑わないと、後であの通訳には高等小話は無理だったなとか陰口をきかれることになる。

 そうではなくてロシア人でも日本人でも非常に頭が切れて、意識的に話をはぐらかそうという人もいる。話の尻尾をつかまれたくないか、結論をあいまいなままにしておきたい場合だ。そういう場合はそのような通訳をせざるを得ない。これは文法的には正しいロシア語で、かつ何を言わんとするのか話を曖昧にするという非常に高等テクニックを要するもので、分かるようで分からないが、文法的には正しいし、言わんとするところらしきものはその通り通訳し、通訳の尻尾もつかませないというもので事実上不可能である。大概はロシア人側からあのときは通訳が下手だったからよく分からなかったの一言で終わる。ロシア人は人にもよるが、たいていは結論がすぐ出せないときはそういう。ところが日本人は、切口上というのを嫌うのでぼかして話をしたがる。無論自分の直接の利害がからむときは、非常に明快になるのは日本人ビジネスマンも同じである。ただよほど頭の悪い人以外は。

設問)「絆創膏をはがさないよう気をつけてください」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2012年01月26日 06:35
コメント

Будьте внимательны,
чтобы пластырь
не отклеился.
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これだと「絆創膏がはがれないように注意してください
です。つまり絆創膏が勝手にはがれるということであって、設問はうっかりして本人がはがさないでくださいということです。ся-動詞というのは完了体では自動詞が多く、отклеитьсяなどもそうです。ところがся-動詞の不完了体のや被動形動詞過去形で受動態が作れるものがあり、それらは表示するかどうかは別にして、動作主があります。カレヤンカさんはこの区別がうまくできていないようです。不定人称文など動作主は能動態で示した方が作りやすいと思います。私の答えは、Будьте осторожны, не снимите лейкопластырную наклейку.
не снимитеと否定なのに完了体の命令形が来ているのは、「うっかり~しないように」というニュアンスから使われている。うっかりというのは可能性であり。これは「何かあったら~する」という例示的用法とつながるように、いわばレールを外れた完了体の用法である。Будьте осторожны, чтобы не столкнуться с птицами.は「鳥と衝突しないよう注意してください」やБудьте внимательны, чтобы не выронить груз.(うっかり貨物を落とさないように注意してください)というようにчтобыを使っても言える。他に、(風邪を引かないように気をつけてください)Смотрите, не простудитесь.とか(ギプス〔包帯〕が動かないように気をつけてください)Проследите, чтобы гипсовая повязка не сдвинулась.などがある。
  ところがうっかりではなくて、常に気をつけてくださいをという場合もある。その場合には、(十分な肺換気が行われるよう注意してください)Следите за тем, чтобы осуществлялась адекватная лёгочная вентиляция.として不完了体が用いられることに注意。

Posted by カレヤンカ at 2012年01月26日 11:14

Будьте внимательны, чтобы пластырь не снимался.
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これだとうっかり感が出ませんし、自動詞(勝手にはがれる)という解釈もあり得ます。чтобы вы не сняли пластырьとすべきです。

Posted by メイ at 2012年01月26日 20:57

Будьте осторожны, не снимите пластырь.
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正解です。

Posted by Ml at 2012年01月27日 04:57

絆創膏をはがさないよう気をつけてください
Смотрите, не оторвите пластырь.

・体の選択について
最初のсмотретьはなぜ不完了体か考えてみました。
233回の表でいう動作の様態の強調に当たると思われます。
「剥がさない」に重点があるため不完了体の命令なのではないか、と考えました。
一方のоторватьが完了体なのは、新規かつ具体的な命令だからです。

さて、正解は
う、ポイントはクリア、かな。
Будьте осторожныもчтобыも使えるのですね。

>うっかり~しないように→完了体命令
例示的用法も絡んでくるんですね~
確かに必然性ではなく可能性を話題にしていますものね。
>常に気を付けてください→不完了体命令
と合わせて覚えておきます。

・造格ではいかがでしょう
絆創膏が貼ってあるというのは一時的な状態と考えられますから、
Будьте острожным(и), чтобы ... と造格でも良さそうに思えます:
造格では変化や一時的状態を表すことができるようです
(城田俊『現代ロシア語文法 中・上級編』51-58頁)
形容詞の短語尾と長語尾の造格とではどういうニュアンスの違いが出るのですか。
教えてください。
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Виноградовの「Русский язык, Высшая школа, 1972」(ナウカで1978年にリプリントしたものを買いました)には形容詞短語尾は不動、一定の、超時間的性質を示すことができないし、性質としての感情(一時的ではない)を示す評価も普通はできないとあります。ただКошутичやПешковскийのいう短語尾は抽象的である傾向から書き言葉的であり、長語尾は述語で用いられる場合は話し言葉的であるということに対しては、ニュアンス(強調などの)も含めて語義が長語尾と短語尾がまったく完全に同じという形容詞は少なかろうと反論しています。
 つまり「気をつけなさい」とか「注意しなさい」というのは、具体的な場合があって、一時的なものです。そうなると述語として長語尾は使えないということになろうかと思います。

Posted by コーシカ at 2012年01月31日 23:38
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