2011年12月11日
●和文解釈入門 第205回
「(これから)~します」をロシア語にしようとして未来時制を使おうとすると、完了体未来形を使うべきか、быть の未来形 + 不完了体不定形を使うべきか迷う。第21回本文でもこのテーマについて書いたが、別の角度から選ぶ基準というものはないか考えてみたい。磯谷孝先生の「演習ロシア語動詞の体」(吾妻書房、1977年)を読み直していたら、そのものズバリではないが、быть の未来形+ 不完了体不定形が使えない不完了体動詞の基準らしきものが書いてあったので、ご参考までに私なりに理解し、それを次のようにまとめてみた。不完了体未来形が絶対に使えないものもあるが、優先順序でいえば完了体がよく使われるというものを挙げておく。
a) 不完了現在形で予定を示すことができる動詞群
「(これから)昼食を2時に取るんだ」いう場合、Я обедаю в два часа.とするのが普通であり、実現の可能性が一番高い。無論不完了体だから「いつも昼食は2時に取る」という風にも取れないことはないが。そこは文脈次第である。頻度は少ないが、Я буду обедать в два часа.も間違いではない。訳は「2時に昼食を取るつもりだ」というふうに意向を示すことになる。さらにЯ пообедаю в два часа.なら、和訳は同じでも、食べ終わるという動作の完了の意味が強くなるか、奴は遊びに行くが、俺は昼食を取るというような新規の事柄というニュアンスが出てくる。こういう動詞群は和文露訳の場合は文脈によるのは当然だが、不完了体現在形を使えばスケジュールに沿ってという感じがして、ビジネス関係などでは多用されるが、使える動詞は限られている詳しくは第177回本文参照のこと。
b) 定動詞
ехать, идти, лететьなどで、「ペテルブルグへ飛びます〔行きます〕」を何の脈絡もなく(いきなり)×Я буду лететь (ехать, идти) в Петербург.とは言えず、新規の事柄だからЯ полечу (поеду, пойду) в Петербург.と言わなければならない。無論不完了体現在形の予定の用法で、Я лечу (еду, иду) в Петербург.とも言える。しかし、従属文の中のように刺身のつまというか、意味の重心が来ないような文では不完了体未来形も使える。
Когда мы будем ехать мимо водохранилища, я покажу вам прекрасное место для отдыха.(貯水池のそばを通る時に、休むのにすごくいい場所を教えてあげる)
c) 限界を語義に持つ動詞群
кончать, начинать
これらは完了体命令形が来るのが普通だが、刺身のつまのような用法で、Я буду кончать работу.(仕事を終えます)と言えないことはない。Будем начинать!(始めましょう)というのは、Давайте начнём (начинать)と同じ意味だが、雰囲気的にそうするのが当然という動作の着手というならНачинаем!というのが普通だ。С чего начнём? (= С чего начать?)〔何から始めようか?〕と完了体未来形が来るのは、新規の提案だからである。
d) 持続的動作過程を表すことのできない動詞群
приезжать, приводить, привозить, приносить, приходитьなどの他にも第177回の表の現在時制のところに過程を表現でいない動詞群を紹介しているので、それも参考になるかもしれない。ただこれらは繰り返しの意味では不完了体未来形を取る。
e) その完了体が繰り返しのきかない1回の動作、意志的・非目的志向的動作を示す動詞群
видеть, выздоравливать, вылечиваться (лечиться), поправляться, простужаться, погибать, рождаться, умирать, упадатьなど。
f) その完了体が瞬間的に成立する動作を表す動詞群
брать, давать, изобретать, находить, получатьなど。
※ получатьにはТы будешь сегодня получать стипендию?(お前今日奨学金受け取るつもりか?)という文のように目的志向の意味があるときには、不完了体未来形が使える。
g) その完了体が状態の変化・発生を示す動詞群
освобождаться, превращаться, становитьсяなど。
h) 無意識にもたらされる否定的結果を表す動詞群
лишаться, ломать, разбивать, терять, уронятьなど。
上記の不完了体はбытьの未来形とともに不定形は、新規の事柄を示すためにいきなりは使えないし、いかなる文脈においても使えないものもある。逆に考えれば、使えるのは、
1) 動作の有無の確認
Я буду читать.(読みます)
このように動作に完成がないときや動作がいつ終わるか不明という場合に使う。
2) 継続
Он будет долго уговаривать её.(彼は彼女を長いこと説得することになる)
3) 刺身のつまのような用法(反復や所要時間などを示す用法)
Когда будете приходить на занятия, приносите с собой книги.(授業に来る時は、〔毎回〕本を持って来てください)
Это очень удобный поезд. На нём мы будем ехать до Петербурга всего 6 часов.(これは非常に便利な汽車だ。ペテルブルグまでたった6時間で行くんだ)
- Завтрв я поеду в Москву.「明日モスクに行くんだ」
- На чём вы будете ехать?「何に乗ってで行くんだい?」
- На автобусе.「バスでさ」
4) 順次的用法ではない場合
Когда будете уходить, погасите свет.(帰る時は灯りを消して下さい)
完了体未来形が続くと、動作が続けて起こるような(順次的)ニュアンスなので、そうではない時間を拘束しないような場合に不完了体未来形が従属節に出てくる。
5) 否定的意図
Я сейчас уйду и не буду мешать вам.(すぐに失礼します。お邪魔をするつもりはありませんから)
6) 着手(ここから予定や目的意識を持つ動作の意味が出てくる)
着手というのは、雰囲気的にこうなるのが自然であるという動作にも用いられるという事を覚えておこう。例えばレストランなどでЧто вы будете заказывать?(御注文はいかがなさいますか?)というのもレストランに入ったら食べ物を注文するのが自然であり、この文は着手を示していることは分かるだろう。
両方の体が使えるような場合もあるが、ニュアンスの差は存在する。「明日電話申し上げます」という文は、Завтра я вам позвоню.やЗавтра я буду звонить вам.と露訳できる。強いて両者の違いを言えば、完了体未来形は動作実現の強い意志を示し、不完了体未来形は目的志向型(~するつもりである)ということだが、不完了体未来形が口語的だという他にはあまり違いは感じられない。ただ動作の完成時点を限定(期限を明示)する場合には、Я позвоню вам пораньше.(ちょっと早く電話します)と完了体未来形を使う。
まとめとして考えるならば、一般的に気持ちの上で完了体未来形のほうは不完了体未来形に比べて、すぐ行動に移すというニュアンスがあり、動作や行為のきっかけや出だし、ないしはこれまでの動作や行為の流れを変えるような動作や行為を示す。不完了体未来形は動作に一拍置くか期限が明示されないという感じであり、これまでの動作や行為(いわば線路)の延長上にあると思われるような動作や行為を示す。延長上にあると確信できれば、使える動詞の数は限られているが不完了体現在形を使うといういうことになる。
設問)彼はウェートレスから勘定書きをもらって支払を始めた。
「だけど俺も出したほうがいいかもな」
「次の昼食はあなたのおごりですよ」の3つの文すべてをロシア語にせよ。
(1) В следующий раз
вы должны угостить
меня обедом.
(2) В следующий раз
будем обедать за ваш
счет.
(3) Вы должны
рассчитаться за
меня во время
следующего обеда.
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少し説明が足りなかったようです。申し訳ありません。出題したかったのは二つ目の文ですが、これだけポンと出しても意味が取りにくいと考え3つ文を書きました。3番目の文も面白そうなので、今回は3つの文の出題となりました。最初の私の書きようが悪かったので、3番目の文だけのご回答でしたが、(3)がややくどい感じはしますがそれ以外は通じると思います。私の答えはОн взял у официантки счёт и стал расплачиваться.
- Может, я всё же приму участие.
- Следующий обед за вами
2番目の文を「おれももったほうがいいかもな」としても同じである。二番目の文の動詞をбуду участвоватьに代えることができるかというと、できないと思う。文脈からみて、明らかに新たな提案なので完了体が来ないとおかしいからだ。このように「参加する」という意味でпринимать участие в + 前置格 = участвовать в + 前置格は同義だが、участвоватьには対応する完了体がない。それで完了体が必要な時はпринять участиеを使わざるを得ないのである。
心臓破裂設問)彼はウェートレスから勘定書きをもらって支払を始めた。
「だけど俺も出したほうがいいかもな」
「次の昼食はあなたのおごりですよ」
Он получил счёт от официантки и заплатил:
-Но и я бы тоже заплатил .
-Следующем обедом вы мне бы отплатили.
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いくつか問題があります。
1) заплатитьは始動を意味しません。ですから1番目の文では全部支払ったということになり、設問とは違います。
2) 設問の二つ目の文は全部を払うという意味ではなく、相手に全部払わせるのは気の毒だからいくらかは払おうかという意味です。自分で全部払うという意味ではありません。その点が不明確です。
3) отплатитьは確かに「報いる」という意味ですが、行為に対してお返しをするという意味で、返礼するとか復讐するという意味であって、支払いのお返しをするという意味はありません。
Он получил счёт от официантки и начал платить.
- Может, мне тоже лучше заплатить?
- В следующий раз пообедаем за ваш счёт.
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二番目の文はロンロンさんに書いたの同様で、全部支払うのか、部分的にか明示されていません。設問は一部払うというものです。設問は「だけど俺も出したほうがいいかもな」であって、「俺が出し方がいいかもな」ではないことに注意ください。それ以外はこれで通じるでしょう。
1) Получив счет от официантки, он начал платить.
2) Но может быть, лучше, что я тоже заплачу.
3) За следующий обед вы заплатите.
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2)のзаплатитьというのはуплатитьもそうですが、文意に人に代わって払うという意味もあるので、そうではないということをはっきりさせる必要があります。例えば、Когда я полечу,ты заплати за меня Гурову сполна.(俺が飛行機で出かけたら、グーロフには全部おれの代わりに払ってくれ)などといいます。それと全部払うのか一部なのかという問題もあります。設問は一部ということですから、それに対応する訳文にする必要があります。それ以外のは通じると思います。
彼はウェートレスから勘定書きをもらって支払を始めた。
「だけど俺も出したほうがいいかもな」
「次の昼食はあなたのおごりですよ」
Он получает счет от официантки и оплачивает (его).
"Но, может быть лучше, чтобы я тоже вносил мою долю".
"Тогда угощайте меня следующим обедом"!
最初のふたつの動詞は歴史的現在です。
完了体過去にしてしまうと
既に払い終えて店を出てしまっているように聞こえそうです。
次のвноситьは行為そのものを指して不完了体を使っています。
最後のугощатьは
「自分も持った方がええかな」という前の文を受けて、不完了体現在の命令、
と考えました。
さて、正解は
支払いを始めるにはначатьなりстатьをつけて
開始の意味を明確にしてやる必要があるのですね。
участвоваться в чемに対応する完了体代わりに
принять участие в чемを使うというのは知りませんでした。
勉強になります。
>文脈からみて、明らかに新たな提案なので
>完了体が来ないとおかしい
う~む、そう言われればчтобы節の動詞もвноситьではなく
внестиを使う方がいい気がしてきた…
えい、一度書いた答えは引込められん
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歴史的現在と完了体過去形の順次的用法がよく分かっていないようです。これらは意味内容は同じです。違うのは過去の出来事をありありと目前にあるかのように示すかどうかだけです。оплатитьというのは「誰かの(自分以外の)費用を払う」というのが基本てな意味ですから、設問では使うべきではありません。расплатиться, рассчитатьсяはзаплатить, уплатить, выплатитьと違い、その場で支払う(後払いということもありますが、先払いには使えません)という意味です。заплатить以下の動詞では先払いも、その場でも、後払いもすべて可能です。その場で支払うというときはрассчитаться, расплатитьсяを日常生活では使います。ですから歴史的現在を使いこなそうという意欲は買いますが、оплачиваетをначинает расплачитьсяにするだけで、アネクドートなどでよく使われる日常的な文になります。二番目の文はその通りで、внести мою лептуなどと茶化して言う場合もあります。三番目の文は正解です。