2011年11月17日
●和文解釈入門 第181回
イェスペルセンの「文法の原理」(安藤貞雄訳、岩波文庫、2006年、3巻)は名著で、例文は英語が多いが、ロシア語のも少しはある。ただその中には若干納得のいかない説明もある。例えば、Дом нов.とДом новый.の違いで前者は「家が新しい」であり、後者は「新しい家」と説明している。こういう訳も間違いとは言えないが普通ではない。前者は形容詞の短語尾だから、一時的な質を表すのが普通であり、家のようなものに、つまり新築だと言えるのは一日二日ということはありえず、2~3年は新築と言えるかもしれないものに短語尾を使うのはどうかなという気がするし、私なら使わない。後者こそ「家は新しい」と解釈するのが普通で、詩か何かで語順を変えるのならともかく、新しい家ならНовый дом.となるのが普通だろう。
またThere is a boy.という構文を説明して、ロシア語ではБыл мальчик.と主語と繋辞 (be動詞など)は倒置(語順を反対にする)にすることにより「~がある」という存在の意味になると説明している。確かにБыл мальчик.が語順的にはノーマルだが、Мальчик был.だって文法的には正しく、意味に変わりはないはずだ。「~がある」という存在の意味は過去や未来時制においてはбыть動詞によるのであるというのは初級文法である。本書は名著ではあるし、時制など非常に参考になる記述があるが、ロシア語の理解は表面的なものだけで、無理やこじつけがあるように思われる。それと訳注にロシア語ではчетыре годаだが5以上からはгодовが使われると今時初級者でも間違えないようなことを書いているのは如何なものだろう?ロシア語のできる人に見せなかったのだろうか?
設問)「自動車の生産にはロボットが使われている」をロシア語にせよ。
Для производства
автомобилей
применяются роботы.
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正解です。私の答えは、 Для изготовления автомобилей используются манипуляторы.
設問の答えに使われたиспользуютсяという受動態をиспользуютと能動態に代えても意味は変わらない。共に不定人称文であり、используютの文ではманипуляторыが主格から目的補語(対格)になるわけである。日本語でも受動態(~される)は文章読本では日本語らしくなくなるので避けるようにと言われている(これも受動態だが)。しかし科学技術関係の文章ではこのような不完了体現在形の受動態という主語を曖昧にする書き方か、著者が一人であっても、いわゆる著者のмыを使って表現する場合が多い。これなども主観性より客観性を強調した表現様式と言える。
ロシア語でも-сяがついて受け身の意味に使える動詞はそれほど多くないし、いちいち探すより他動詞を三人称の複数形にして、意味的に受け身にした方がロシア語らしい。ただこのときにониを書き加えてしまうと、不定人称文ではなくなり、普通の文(「彼らは」とか「それらは」とかが主語となり、具体的な意味の主語がないと使えないことに注意されたい。。использоватьは完了体・不完了体が同形の動詞だが、использоватьсяは不完了体しかない。完了体と不完了体が同形といっても、完了体と不完了体の意味が同時に現れるということではない。それは非論理的である。文脈によって完了体の用法か不完了体の用法かが分かると言うだけである。
роботыにしてもよいが、自動車工場で使われているロボットは手だけ(アーム型ロボット)なので、манипулятоыというのがより正しいと思う。
На производство
автомобилей
употребляют роботы.
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二つ問題があります。на + 対格を「~のために」という意味で使うためにはработатьやそれに似た動詞が必要です。それとупотреблятьは「使う」という意味では、技術的には使いません。せいぜい言語や食事ぐらいでしょう。
こんばんは。
Для производства машин употребляются роботы.
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惜しい。構文的には正しいのですが、употреблятьは19世紀においてはиспользоватьの同義語でした。現代語では「使う」という意味では、簡単に取り扱えるもので、使用の過程で消費されるもので、употреблять спиртное, деньги на покупку, свои силыなどです。道具とも結びつきますが、非常に簡単な道具で、употреблять чайникなどといいます。これより重いか、複雑な道具にはиспользовать гаражなどと言います。それとупотреблятьは「いつも使い慣れた道具を使う」とか、繰り返しの意味で使うことが多く、そのため不完了体が普通です。употребить чайникというのは普通の文脈では異常な語結合です。ただупотреблятьは「言葉を使用する」というような言語関係では一番普通の動詞です。
「文法の原理」で文法が間違っているとは! まさに言語道断ですね。
①В производстве автомобилей используются роботы.
②В производстве автомобилей использованы роботы.
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動詞の選択は適切でしたし、確かにиспользоватьは前置詞としてв + 前置格も来ることがありますが、そのときは「もの」です。例えば、Фотоэлектронный умножитель используется (применяестсяでもよい) в телевизионных передающих трубках.(光電子増幅器は撮像管で用いられる)などです。普通はдля + 生格がよいでしょう。на прозиводствеとすると「生産現場(工場)では」となりこれは可能です。二つ目のは被動形過去を使って状態を示しているわけで、工場見学で、目の前で説明するという状況なら可能です。ただ出題は一般的動作の意味で出題したので最初の動詞の使い方を期待していたわけです。