2011年11月10日

●和文解釈入門 第174回

メル友のヒサムヂーノフさんが私の原稿「ロシア人の疑問」のロシア語の部分をチェックしてくれたことは前に書いた。お返しに私の方も「長崎の稲佐のお松(レストラン〔ボルガ〕の経営者)について(これは偶然手元に資料があったので答えられた)」とか、「長崎弁と標準語はどのくらい違うのか(これは長崎弁をよく知らないので答えられない)」、「オペラ蝶々夫人について普通の日本人はどう考えているのか(オペラは普通の日本人は見ないぐらいの返事)」とか、かなり専門的な質問の返事を書いたりしている。その他にも、私の原稿の中に「リンゴの蜜」について書いたものがある。彼曰く説明はわかるのだが、リンゴの蜜自体見たことはないと書いてきた。リンゴのフジは中国産のがウラジオなどにも入ってきているが、蜜の入ったものは全体が甘い(蜜のところは甘くない)とはいえ、腐りやすいから果物屋が嫌うのかもしれないから出回らないのかもしれないなと考えた次第。一応リンゴの蜜の正体を科学的に説明すればソルビトールсорбитだが、まあこう説明もしてもね。それとも、彼は男で、しかも学者だから知らないのかしらんとも考える次第。リンゴの蜜なんて文化とはいえないかもしれないが、リンゴを買うときには一応考慮に入れる。これだって日本の庶民の常識であるといえないこともない。仮に日本研究家であるロシア人が知らないのなら、こういうような文化のニッチを埋める作業も必要ではなかろうか?
ソ連時代の辞典の大きな問題は、イデオロギーに毒されている、庶民文化の軽視、ユートピア的発想(犯罪など現実の無視)などが挙げられるが、ソ連の露露辞典に準じて作られていた当時の日本の露和辞典作成にもそれが少なからず反映されている。例文も19世紀ロシア文学に偏重しており、露文解釈をする上では問題ないのかもしれないが、和文解釈をする上では、口語、俗語表現が十分に採られていないため、利用するに際して、廃語と常用語の区別をどうするかなど大きな問題だと思う。今後露和辞典を作ることがあれば(需要がないから国からの援助がない限り無理だろうが)、口語を中心とした語彙の採取、類語の使い分けについての細かい注釈などを入れてもらいたいものだ。
ところがこの頃のロシアで出るロシア語の辞典はイデオロギーの行き過ぎに配慮して、強い愛国心は感じられるものの(当然と言えば当然だが)、冷静にロシアやソ連の過去について叙述されているものが増えている。黒田龍之介先生の勧める「Россия. Большой лингвостраглведческий словарь」, Прохоров, АСТ-ПРЕСС, 2009を今1日10ページずつ読んでいるが、ロシア式のサウナや身近なパン、ポピュラーだった映画などや、そこに由来する故事成句の解説なども含めて分かりやすく説明しており、ロシア語学習者には必読だと思う。ただロシア人からの視点なので、われわれ日本人が知りたい、靴のサイズなどの換算表の類はないらしいのがやや不満と言えば不満である。もっとも読み始めたばかりだから悪口は早すぎるのかもしれない。しかし、ロシア語中級レベルの人で何かロシア語で読むものがないか探している人には、本書を大いに勧める。ただ価格が1万円ぐらいと高いが、図版も多くページも600ページを超えるからそんな悪い買い物だとは思わない。何冊かまとめてロシア語の本を買うよりははるかに幅広い内容を取り扱っていて、記述もバランスのとれている本書が座右の書になることは疑いない。この他に、かなり古くなったとはいえ、また解説が英語だが、The Russina's World, Life and language, Genevra Gerhart, Harcourt Brace Jovanovich, Inc, 1974がソ連の庶民文化を知るにはベストだ。日本人でこのような現代ロシアの庶民文化について本を書く人はいないものか?衣服や身の回りの細かいこともあるのでロシアで長く暮らし、ロシアの現実をよく知る女性の方がより適任と言えるだろう。こういう本が「ロシア・ソ連を知る辞典」で足りないロシアの庶民文化について知る機会を増やしてくれるものと信じている。
設問)「スープを室温までさまして下さい」
「牛乳を体温までさまして、赤ちゃんにあげてください」という二つの文をロシア語にせよ。どっちか一つにしようかと思ったが、室温とか体温とかというのを出題するのも面白いかもしれない。

Posted by SATOH at 2011年11月10日 06:05
コメント

Охладите суп до
комнатной
температуры.

Поите ребенка, когда
молоко остынет до
температуры тела.
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初めのは正解です。二番目のは「何をчем」赤ん坊にあげるのか先に書いていないと文として成り立たないと思います。私の答えは、Остудите суп до комнатной температуры.
Остудите молоко до температуры тела и дайте ребёнку.
室温というのは技術用語では普通は摂氏プラス20度ぐらいを指す。体温というのは日本酒を人肌に温めるという場合の人肌にも使えそうだ。技術用語ではохлаждающая водаは「冷却水」だが、意味するところは冷却する水であり、охлаждённая водаは「冷却水」と訳してもよいが、(何かで)冷却された水という意味なので、露訳のときに意味を取り違えないようにしたい。

Posted by ラーポチカ at 2011年11月10日 10:27

リンゴが果物の代表のようなロシアで「蜜」を知らないとは!本当に蜜が入っていないのでしょうか?それともロシア人はおおらかだからいつも気にせず食べているとか… 
ロシアについての本,いつか必ず読んでみたいと思っています。読まれた本でおもしろいものをご紹介いただけるのは一番ありがたいです。

スープを室温までさまして下さい。
Охладите суп до комнатной температуры.

牛乳を体温までさまして、赤ちゃんにあげてください。
Охладите молоко до температуры тела и дайте его ребенку.
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正解です。

Posted by メイ at 2011年11月10日 22:13

① Охладите суп до комнатной температуры.
.
②Охладите молоко до температуры, и дайте его Ребенку.
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ともに正解ですが、2番目のはтемпературыの後にтелаをつけたほうがよいと思います。もちろんтемператураだけでも体温という意味もあります。измерить кому-л. температуру(~の体温を測る)などと使いますが、このように人が先に来るとか、体温計をもっているとか、病院にいるとか文脈で分かるという前提があるわけで、設問だけでは必ずしも体温ということにはならないだろうと思います。室温と取る可能性もなきにしもあらずです。Ребёнкуと大文字にしたのは何か意味があるのでしょうか?別段大文字にする必要はないと思いますが。температураには「熱повышенная температура」という意味もあり、работать с температуройは口語で「熱があるのに働く」という意味です。

Posted by ロンロン at 2011年11月11日 00:30

今、ようやく投稿者の皆様の回答を拝見することができました。
あれれ、Ребёнку,なぜ大文字になっているのかしら?
昨夜は、意識朦朧状態で投稿してしまい、大変失礼いたしました。
緊張感をもって投稿します。(毎回、真夜中の投稿ですが、これからも宜しくお願いいたします。)
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別段そのように緊張するのではなく、気楽にやったほうが実力がつきます。いつも100%で全力疾走というのでは、体がもちません。理想的には80%の力で、80%の通訳ができればよいと思います。このコーナーでは凡ミスをしてもよいのです。実際にプロで通訳するときにミスをしないよう、ここで凡ミスをしてください。ただミスをしたのだと気づけばよいのです。後でミスに気づけばよいのであって、このコーナーでミスすることを恐れたり、気にすることはありません。前にも書きましたがこのコーナーはテストでも何でもなくて、要は投稿者のロシア語の実力がアップすればよいのです。もっというと、私のコーナーに投稿したから和文露訳がうまくなったとなれば、このコーナーを始めた甲斐もあるというものです。

Posted by ロンロン at 2011年11月11日 16:19

こんばんは。佐藤先生の「閑話傍題」、コピーをカバンに忍ばせ、毎日通勤電車の中で少しずつ読み進めています。
ところで、先日、リンゴの蜜のお話が取り上げられていましたよね。ふと思ったのが、私が知っているロシア人は、皆、リンゴ(アントーノフカという品種だったかしら?)を丸かじりしていたような・・・日本だと、例えば母親がリンゴを包丁で6~8等にして、芯の部分を取り除き、皮を(時には、皮をウサギの耳と称して)剥き、塩水つけてリンゴの表面が茶色くならないようにしますよね。包丁で切るので、その際、中心部分の蜜の部分がよく見え、わかります。
しかし、丸かじりだと蜜があっても、それを確認する間もなく咀嚼して胃の中へ流し込んでしまうわけです。
だから、蜜自体をあまり意識していないのかなぁ・・・と思った次第。食べ方にも文化の違いが現れているということなのでしょうかね。
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最近はアネクドートも読まずですが、アネクドートがロシア語学習(特に庶民文化の理解)に役立つということを実感していただければと思います。オチの好みは人それぞれですし、しかもロシア語に役立つというと、あまりオチが面白いというのはないかもしれません。蜜については面白い見方です。ただアントーノフカ(私のホームページに写真があったと思います)は私も何度かモスクワで食べましたが、見かけは出来の悪い(へたのところが薄汚れた感じ)、しかも色の薄い青りんごですが、中に蜜はありません。触感はねっとりした感じですが、素直な甘さではなく、独特の風味です。個人的には好きなリンゴです。そのほかにロシアで食べたリンゴで蜜があったのはありません。日本でも私の子供のころや若いころに食べたリンゴには蜜はなかったと思います。今でも津軽やデリシャス(これが今あるかどうか定かではありませんが)蜜はないと思います。

Posted by ロンロン at 2011年11月14日 23:52
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