2011年11月04日

●和文解釈入門 第168回

設問への解答は一つでもそれ以上でも構わない。それに応じてコメントをつけるようにしている。ただ基本的に体の用法についての出題が多いので、体と言えば基本的に不完了体か完了体かどちらかが正解となる(一応そのように設問の構成を考えている)。両方の体が使える場合は回答で使う文脈をできるだけ説明するようにしている。両方の体を二つ以上の文に分けて回答すれば、この投稿者はこの設問の体の用法に自信がないと判断せざるをえないわけで、そうなると体の用法の正解率は何も考えなくても50%だから、その設問につき体の用法を理解していますねとは書けないわけである。自信があるならあるほうだけを、あるいは自信はこちらの体が70%ぐらいと書いてくれてもよい。むろん書かなくてもよいが、和文露訳の際、迷うとはいえ瞬間的にどちらかに決める練習を積まなければいけない。実戦では通訳でも翻訳でも二つ同時には使えないのだからである。
どういうふうに読むべきロシア語の本を選んでいるかというと、まあ好きな本を気が向くままにということになる。ユーモア作家Севела, Веллер, Жванецкийが好きだし。他にМолодая гвардия社の「~の日常生活Повседневная жизнь」というシリーズはロシア関係だけで40冊ぐらい出ているが、これを読むことにしている。これはロシアだけでなく、欧米や日本のある分野の日常生活ということで、「ロシア大統領の日常生活」とか「ロシア宇宙飛行士の日常生活」などで語彙を増やすにはもってこいである。それと19世紀末から20世紀初頭までのモスクワの庶民生活やロシアの犯罪が個人的に大好きなテーマなので、これに関するものは読むようにしている。
この他は天の声を聞くようにしている。天の声というと神がかっているのではと警戒されそうだが、最近の例を引くと、邦訳で「ロシアとジャポニズム」という本を読んでいたら、ベールィの「ペテルブルグ」がジャポニズムを扱っていると書いてあった。その直後に読んだロシア文学史の本には、ロシアソ連文学の代表作は19世紀半ばのトルストイ、ドストエーフスキー、ちょっと遅れてチェーホフぐらい、ベールィの「ペテルブルグ」もよい本だが、やや劣ると書いてあった。ベールィについては象徴派の詩人・作家であり、その自伝3部作は読んだが、象徴派ということで分かりにくいのだと勝手に思い込んでいて、本は「銀の鳩」、「モスクワ」、「ペテルブルグ」と持っているが、読んだことはなかった。それでこれは天の声であろうと思い「ペテルブルグ」を読んだ。しかし、会話の部分を除けば、彼の自伝の方が面白かったように思う。個人の好みだろう。
シーモノフの人間的側面についても、スターリンに可愛がられたが、スターリンの死後、改心してブルガーコフの「巨匠とマルガリータ」、マンデリシュタム他の出版に助力したというのを「囁きと密告」で読んで、代表作の「死者と生者」を読むことにした。この本は当たりで、文学的価値は「ペテルブルグ」より落ちるのかもしれないが、個人的には読みやすく、面白かったし、特に会話の部分が和文露訳に大いに役立っているのを評価する。本はソ連崩壊前後に古本屋で1冊100円くらいで売っていたから、その時買った本が今私の宝である。文学作品もいつか読むこともあろうと思い買っておいたのが1400冊ぐらい、辞書は440種(冊数はもっと多い)ぐらいある。700冊は読んだが、後700冊はある。というわけで「ペテルブルグ」もシーモノフの本も20年くらい読まずに放っておいたことになる。買っても相性が悪い本というのはあるもので、В. Максимов, Платонов, Федин, Пелевинなどのは本は持っているが、まだ読んでいない。強制されて読んでいるわけではないので10ページ読んで面白くなければ読まないことにしているということもある。いずれは読むことになるのだろうけども、文学の専門家になるつもりもないし、ただ楽しみで読んでいるので、読んで文字通り面白いもの、ロシアやソ連の日常的庶民生活の知識が増えるもの、会話で使える言い回しが多いものが優先となるのはやむを得ないと自分では思っている。
設問)「彼女は元気な時の彼を知っていた」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年11月04日 05:52
コメント

①Она знала его в здоровом состоянии.
②Она знала его, прежнего, здорового.
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最初のは知っていた時点と同じ時点で彼が健康な状態にあるということを知っていたということで、2番目のは昔の健康な彼を知っていたということでしょうが、これは設問の意をよく体しているとはいえ、文法的におかしいようにお思います。私の答えは、Она знала его здоровым.
これは見た感じでは、Она считала его здоровым.(彼女は彼を健康だと思った〔見なした〕)と同じと思うかもしれませんが、ロシア語学者のЮ.Д. Апресянによると、意味はОна знала, когда он был здоров.ということで時間的にずれが出る用法になるとのことです。Она знала, когда он здоров.ならロシア語は日本語同様、英語と違い時制の一致はありませんから、「彼が元気でいることを彼女は知っていたとなります。

Posted by メイ at 2011年11月05日 01:09

Она запоминала, когда он был жив.
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ご回答は「彼が生きていたときのことを彼女は覚えていた」としたかったのだろうと思いますが、そういう意味にはならないでしょう。なぜ不完了体過去形を使ったのかを推測すると、запомнилаと完了体過去形にすれば、結果の現存で今も覚えているとなり、設問と合わなくなります。ところが設問は大過去(英語の過去完了のように過去に終了したと思われる動作を過去の時制で示す)みたいですから、ロシア語ではこれを示す完了という形式はないと考えられています(「ロシア語の体の用法、原求作、水声社、62ページ)。そうだとすると不完了体過去形の事実の名指しということが考えられますが、これが現れるのは、文の意味の重点が動詞そのものにないときに現れる、つまり刺身のつまのような用法ですから、設問では絶対無理とは言えませんが不自然でしょう。つまり英語のようにhave + 過去分詞などのような完了(現在完了、過去完了、未来完了)の形式がない以上、ロシア語では体の用法の中にそれを見つけざるを得ないのです。ですからзапомнить/запоминатьを使うとしたら、Она запомнила...としてアオリストとして使うしか方法はないのですが、これでは前後の文脈を追加しないと結果の現存との用法と非常に紛らわしくなることになります。

Posted by ロンロン at 2011年11月05日 01:29

ご指摘ありがとうございました。たしかに自分がその文章を訳したとしたら,Она знала его
здоровым.(彼女は彼を健康だと思った)としたと思います。実際に翻訳にあたっては文脈が
あるので,ある程度は想像がつくと思いますが,「彼女は元気な時の彼を知っていた」とはまず
訳さないと思います。こうした間違いがおそらく和文露訳では避けられないような気がして怖く
なります。

Posted by メイ at 2011年11月05日 18:28
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