2011年10月27日
●和文解釈入門 第160回
完了体の動詞は動作の完了を示し、不完了体はそれ以外という風に理解しているロシア語の学習者は非常に多いわけで、「すわりなさい」をロシア語にするとСадитесь!と不完了体命令形が来ることに戸惑いを覚える人も多いはずだ。「すわりなさい」だって動作の完了を要求していることに変わりはない。Я улетаю в Киев завтра.(明日キエフに飛行機で発ちます)だって、動作は完了を示しているが不完了体を用いている。これらはいずれも不完了体なのに完了を示しているが、用法の例外ということにして丸暗記してしまえということになってしまう。動詞の体を意識すると、こういういわゆる例外とやらは非常に多いことにすぐ気がつくだろう。その上まともなロシア語の会話をしようとすると、いやでもなんらかの動詞を使わねばならず、使う以上は完了体か不完了体かどちらかを選ばなければならないのは理の当然だ。エイヤといい加減に決めてしまっても正解の確率は50%であるが、毎回毎回この調子ではロシア語で話すという気力も失せる。
そこで正しい体の用法を理解する必要があるのだが、一般向けの参考書においてこれまでは、完了体は新規の事柄(有標性маркированность)について用い、不完了体はそうではない事柄(無標性немаркированность)や、そこから発生する繰り返し(習慣)に用いるとしている。しかし通訳やガイドで実際に和文露訳をする場面では、時制によって、法(命令法や不定法)によって、また動詞群によって体の使い分けをせざるを得ず、体の使い分けが非常に分かりにくい。このコーナーを立ち上げた理由については、このような分かりにくいとされる体の用法について、ロシア語の会話をする上で何か実用的ですぐに役立つものを指針という形でまとめたいという気持ちがあったからである。
その他にも、やはり不人気なロシア語を何とかしたいという気持ちもある。北方領土の問題もあり、ロシア自体が不人気であるのと、勉強を始めても、格変化や動詞の活用で挫折してしまってそれ以上には進まず、ロシア人との会話が出来ないからやる気も起きないという事が大きいと思う。それで新たにロシア語を学ぼうという人よりも、これまでロシア語をやったが挫折した人というのが圧倒的に多いはずである。引退して趣味にロシア語をと考える人もいないわけではあるまい。そういう人にまた初めからабвでもあるまいし、知的興味という点から考えると、一見分かりにく体の用法だって、推理小説のように学んでいけば、翻訳では味わえないロシア人の著者のその文に込めたニュアンスというものが分かるはずである。こういうロシア語の都市鉱山というか潜在的鉱脈的な人たちのほかに、露文解釈はかなりできるが、会話が不得手だという人に的を絞って、このコーナーでそういう人たちにセカンドチャンスを与えようとトライしているのである。一人でも多くの人がロシア語のもついろいろな魅力に目覚めてほしいと思う。
設問)「さっさと(部屋に行って)勉強しなさいね」という子供へのお母さんの言葉をロシア語にせよ。
(1) Иди быстро в
комнату и занимайся.
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идиと不完了体の命令形を使ったのはさすがです。この文脈でзаниматьсяは使えないと思います。私の答えは、Немедленно иди делать уроки!
不完了体の命令形(着手の用法)が来ているのは、別に急に思い立ったとか、気まぐれではなく、お母さんが子供の顔を見て、その時点で子供が勉強する時間だと思っているという、日常的なその雰囲気の中での発言だからである。親というものは子供の顔を見れば「勉強しなさい」というのが普通だという前提があるし、それは皆さんもご理解いただけるだろう。
「勉強する」にはいくつか訳語があって、учитьсяは学校で学ぶという意味で具体的に今ここで机に座って勉強するというニュアンスではない。他にучить французкий язык(フランス語を勉強する)とかДмитрий долго занимался.(ドミートリーは長い事勉強していた)などが考えられるが、учитьは「習得するために学ぶ」と言う意味で、図書館や家などで「勉強している」と言う意味では使わない。その意味で使うのはзаниматьсяである。ただお母さんが家で子供に勉強しろと言う場合は「学校の予習復習をする」とか「宿題をする」と言う意味だろうから、делать (готовить) урокиを使う。
日本語の勉強しなさいというのは、「その場で勉強しなさい」のほかに、「自分の部屋で、勉強部屋で勉強する」という意味だから、後者の場合はидтиをつけた方が自然である。この他にも、「あそこで何か飲みませんか?」というのを、Пойдём там чего-нибудь выпьем?と訳すのが普通だ。あそこというからには移動するという前提があるからだ。その方がロシア語としては自然である。
Давай быстрее иди
учиться.
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これだとどこかの学校に入学しなさいという感じです。
Немедленно пойди в свою комнату и займись уроками.
こういうのは,体の用法をやればやるほどわからなくなってきます。①着手の用法だから иди и принимайся とするのか,②連続して二つの動作が行われるときは完了体を二つ並べるので,命令形でもそうなのか(今回の私の回答),③二つの動作を次々におこなうことを命令する場合は完了体の命令形と不完了体の命令形を並べることが多い(原先生の「命令形における体の用法129p」)→ пойди и занимайся なのか,①②③の三択なのでエイヤと決める50%より確率が低そうです。よろしくご指導をお願いします。
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これはお母さんというものは子どもの顔を見れば、勉強しなさいというという雰囲気で考える必要があります。そのため不完了体命令形の着手となります。確かに命令法で動作が連続する場合は口語では完了体が最初に来て、不完了体ということが度の参考書にも書かれてありますが、идтиと動詞が結び付くときは「~しに行く、~しに行ってくる」のように、別々の動作というよりは動作が一体化していると考えるのと、前にも書きましたが、пойти/поехатьなど完了体を使うときは補語が必要です。これは完了体というのは何か新しいことを示すという意味で使われるわけです。具体的などこかの場所に行って、具体的な何かをするというのなら完了体が出てくるはずですが、この場合でもпойти/поехатьがидти/ехатьと完全に対応せず、出発の意味しか持たないため、すべての意味をカバーできないために使い勝手が悪いといえます。ですからИди делать урокииとかИди делай урокиとなるわけです。二つ目のはидтиに特有なより口語的な命令形を二つ並べる方法です。この場合、二つの動詞ともに着手(あるいは着手 + 切迫)と考えたほうがよいでしょう。
お答えは文法的には正しく、非常に理詰めな文ですが、「勉強する」という意味ではзанятьсяという完了体は使いません。
①"Быстренько в свою комнату, тебе надо больше заниматься!"
②"Давай, милая, занимайся в комнате."
毎日、私が子供たちに言っている言葉が「設問」になるとは・・・。
ロシア語で言うと、このような感じでしょうか。
①ですと、少々くどい言い回しになっている気もしますが。
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最初のは意味は分かります。ですが着手というよりは勉強というものはいつもしないといけないというふうに聞こえます。заниматьсяは勉強しているという状態を示し(この意味では対応の完了体はない)、動作の開始(勉強や研究に取り掛かる)は完了体命令形を使うという語義自体の問題のようです。二つ目は、文法的にいえばдавайの後は不完了体不定形か完了体1人称複数形ですから、何となく変です。
ありがとうございました。詳しいご説明で,今回自分の中でやたらすとんと落ちました。たしかに,最初,これは着手だと思ったことは思ったのですが,命令形が連続するのにだまされました。