2011年10月22日
●和文解釈入門 第155回
前々回で紹介したヒサムヂーノフ氏の著書はナウカ、日ソ図書、Ozonで発注可能である。ご興味のある方はどうぞ。
和文露訳をするときには体の用法のほかに類語の使い分けが必要なことは何度か述べた。同じ類語の使い分けと言っても、理由を示す前置詞(句)の使い方を覚えるというのは、今風のゲーム感覚で言うと自分の武器が増えるのと同じである。これまでは名詞とともにその語結合を丸暗記とせざるを得なかったが、それでは芸がない。シノニムの辞典に沿ってその使い分けについて書いて見よう。из + 生格は制御可能な感情や意識的行動を示す名詞と共に使われる。「同情から、思いやりで」という意味でиз сочувствия, из состраданияなどという。一方от + 生格は感情の制御が不可能な名詞が後に来て、жёлтые от никотина пальцы(ニコチンで黄色く染まった指)などという。これはпроисходить от + 生格という由来を示す用法とも関係あるのかもしれない。жалость「憐み」はиз (от) жалостиとどちらでも使えるが、この名詞自身、感情が制御可能とも不可能とも言えないからだろう。これに似ているのがс + 生格だが、一時的にコントロールできなくなるとか衝動的な原因というニュアンスがある。с похмелья(二日酔いで)、с голоду(飢えて)、с непривычки(不慣れなせいで)、с испугу(びっくりして)などである。из-за + 生格は知っている人も多いだろうが、好ましくないこと、想定外のこと、それと目的を示す名詞が来る。Я всю жизнь работал из-за денег.(一生金のために働いた)という場合、このиз-за денег(金のために)というのは金を悪いものと考えているというよりは、この場合目的と理解するのである。по + 与格は動作や状態が内的な原因であるもので、по ошибке(間違って)とかпо случайности(偶然に)とかПо слабости здоровья он не смог служить в армии.(虚弱だったせいで彼は軍隊勤務が出来なかった)がなどである。за + 造格は原因に拒否や欠乏が来る。за ненадобностью(不必要なので)、за неимением лучшего(ましなものがなかったので、もっといいものがなかったので)などである。благодаря + 与格も知っている人が多いと思うが、元の動詞の意味が反映していて肯定的な原因を意味するが、最近のマスコミの記事などを見るとよくない原因にも使われだしているが、外国人である我々が真似をする必要はないと思う。по причине + 生格は特にニュアンスなく一般的な原因に使われるが、ぬらりひょんのような感じでつかまえどころがない。そのため官庁用語でよく見かける。日本人がこれを使って文を作ってロシア人に見せると大概他の前置詞(句)に直される。多分ニュアンスに乏しいから嫌われるのだろう。それとレーマ(テーマとレーマの項参照。新しい情報を示す)に使われるので、それを理解していないと使いこなせないのかもしれない。вследствие + 生格は客観的な原因を示すために、人間の動機には使われない。それと原因が先に来て結果が後に来るという時間的順序を厳守する表現である。в результате + 生格は原因と結果に密接な関係があり、総括的、本質的な原因に用いられる。ввиду + 生格は人間の意思には無関係の非常に重要な決定に関し用いられる。в силу + 生格は不可避というニュアンスがあり、具体的な原因ではなく、徴候などを意味する。
設問)「否定も肯定もせず彼は聞き返した」をロシア語にせよ。
(1) Ни с того ни с сего
он переспросил.
(2) Ни отрицательно,
ни одобрительно он
спросил в ответ.
(3) И без отрицания и
без одобрения, он
меня переспросил.
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(1)は「どういう風の吹きまわしか」ということですから不正解です。(2)は「否定的でも、肯定的でもなく」ですから間違いとまでは言わないまでもおかしいと思います。(3)は否定するでもなく、承認するでもなくということで、これが一番正解に近いと思います。私の答えは、Не отрицая и не подтверждая, переспросил он.
「肯定する」にはподдакнуть(同意する)、утверждать, одобрятьなどがあるが、言ったことを肯定するというのは確認するということで、подтверждатьを使う。英語で言えばconfirmということである。「肯定も否定もしない」はЛаврентьевの和露辞典にはне говорить ни да, ни нетと書いてあった。これは文字通りYesともNoとも言わないという意味である。文字面だけではなく含意される文脈というのも瞬時に理解する必要がある。副動詞現在を使ったが、設問自体が書き言葉なのでやむを得ないということでご了解願う。
毎回詳しいご説明をありがとうございます。
①Он не дал ни отрицательного, ни положительного ответа, а переспросил.
②Он переспрашивает, не отрицая и не утверждая.
①は話しことば,②は書きことば としました。
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設問によって書き言葉にせざるを得ないのはやむを得ないことで、それをご理解されているのは結構なことです。二番目のが正解に近いと思いますが、утверждать = официально принимать окончательное решение, признать окончательно установленнымと非常に硬い表現です。可決する、認可する、承認するという日本語に相当するかと思います。スピーチなのでは「断言する、主張する」という意味でもつかわれます。設問はロシア的発想では言ったことをconfirm(確認する)という考え方をするのが普通で、подтвержать = признавать правильность чего-либоが語義の1番目に書いているものもあります。この動詞は訳によっては裏付けを取るという風にも使えます。
Отказавшись ни утверждать, ни отрицать , он переспросил .
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昨夜は帰宅が遅くなり、投稿できませんでした。 投稿者の皆様の回答文と自分の回答文のどこに違いがあるのかを比べながら、これからも精進して参りたいと思っております。
このように完了体副動詞を使うものでしょうか・・・?
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メイさんへの回答にも書きましたが、設問によってはやむを得ない場合もあります。そうでないと説明的というか長い文章にしても意を尽くしきれないということになりかねません。ただ今回使うのは不完了体で副動詞現在と呼ばれるものです。ご回答はЛаврентьевの和露辞典にあるものに似ています。ロシア人の書いたものに異を唱えるのは心苦しいのですが、辞書というのは文脈を特定しない(できない)のでと苦しい言い訳をしておきます。この辞書には「肯定も否定もしない」に対してне говорить ни да ни нет; отказатьться подвердить или опровергнутьという訳を与えております。最初のは「うんともすんとも言わない」という感じで、二つ目は「(最初から)確認するのも否定するのも拒否した」という意味です。ですからそういう文脈なら使えるということになります。設問は言われたことに対して、答えるの拒絶したわけではありません。なにせ聞き返しているのですから。二番目のにはподвердитьを使っているのは当然ロシア人ですからロシア的発想をしているのが分かります。この辞書は警官棒とか軽艦艇とか不思議な日本語も載っています(他に鶏冠石という単語をなぜ載せたのか意味が理解できないなどあり興味の尽きない辞書です)が、和露辞典の中では私が使う(というか他に持っていないので、コンラッドは持っているが古すぎて使えない)唯一の辞書です。設問に対しては法律で許されるあらゆる手段を使って正解を目指せばよいので、極端にいえば、ロシア人に尋ねてもかまいません。正解できるのであれば。そのくらい貪欲にならなければロシア語は上達しないということです。