2011年10月20日

●和文解釈入門 第153回

自分の和文露訳の実力がどのくらいか、どの程度までロシア人に通じるかはできるだけ長い文章を書いて、日本語の分かる本のプロ(作家や編集者)であるロシア人に見てもらえばよい。そこで、ユーラシア・ブックレットに「ロシア人と日本観光案内」を書いたが、その中に「ロシア人観光客のよくする質問」というページがありこれを膨らまして、まず日本語で原稿を書き、それをロシア語に直して見た。本コーナーの設問は短文での和文露訳となっているが、実際に通訳する場合には、短文だけというのはほとんどありえないわけで、文と文をつなぐ接続詞などの用法の勉強が必要となる。自分が人にそういう事を教える実力があるかの試金石にもなるという意味で出来上がったのが「ロシア人の疑問」という原稿であるが、諸般の事情のため出版の見通しは立っていない。内容は、(A. 日本の基本情報: 1. 役立つ豆知識 2. 呼びかけ 3. 人口 4. 地理 5. 神話 6. 歴史 7. 日本人の宗教心 8. 神社 9. 宗教 10. 気候 11. 日本語 12. 権力と天皇 13. 地震 14. 台風 15. 軍事力; B. 日常生活: 1. 挨拶 2. 家族 3. 結婚式 4. 葬式 5. 和食 6. 食べ物 7. 酒 8. 漢字 9. 動物 10. 花粉症 11. 交通機関 12. 安全 13. 住宅事情 14. 公共サービス 15. 街路で; C. 旅行: 1. 東京 2. 京都 3. 奈良 4. 日光 5. 富士山 6. 花見 7. 着物 8. 日本のお土産 9. お守り 10. 野外のリクリエーション 11. 禍福 12. 温泉 13. 独特の食材 14. 珍味 15. 風変わりな日本; D. 文化・社会: 1. 縁起と迷信 2. スポーツ 3. 教育 4. 隠れた名所 5. 茶の湯 6. 日本人気質 7. アメリカ人、ロシア人 8. 禅 9. 幸福観 10. 女性の地位 11. 結婚 12. 医療制度 13. 政治 14. 夫婦関係 15. 映画; E. ビジネス・経済: 1. 名刺交換 2. 産業 3. 根回し 4. 稟議 5. ロシアとの経済格差 6. 給与・年金 7. 富豪と乞食 8. 今後の景気 9. 不動産 10. 外国人への応対 11. 労働条件 12. 余暇 13. 日本の外国人 14. 課税率 15. ビジネスの風習)の75項目であり、それに3つぐらいの問いとその答えがあるから、全部で200以上の問答があることになる。いずれもガイドや通訳の現場で実際にロシア人から質問されたものである。
2週間ほど前にウラジオ在住のメル友のヒサムヂーノフХисамтудиновさんから、最近「東京横浜のロシア人」という原稿を仕上げたが、念のため日本の人や建物、地理などの名称なども含めてチェックしてほしいというメールが来た。同氏は極東連邦大学教授、史学博士、元国立極東技術大学日本学・朝鮮学講座主任(профессор Дальневосточного федерального университета, доктор исторических наук, бывший заведующий кафедрой японоведения и корееведения Дальневосточного государственного технического университета)であり、日本語にも堪能で、日本語で文献を読むぐらいの人ではあるが、日本の習慣についてもいろいろ具体的に聞きたいことがあるという。こういう依頼なのでいい機会だと思い引き受けることにして、交換条件としてこの「ロシア人の疑問」のロシア語の部分のチェックをお願いしたところ快諾を得た。
同氏には、本書の目的が日本人による和文露訳の学習用参考書であるため、意味や論旨が明快であるか、文法的に正しいか、語法(特に体の用法)が正しいかを中心に添削してもらい、美しいロシア語であるとか、プロのロシア人作家(同氏もそうだが)の私ならこう書くというふうなロシア語での意訳は不要であることをくれぐれも念を押しておいた。そのためロシア人からみればぎこちのないロシア語かもしれないが、日本語の原文を書いた本人がロシア語にしているため的外れの誤訳はないはずであるし、和文露訳を勉強する日本人学習者にとっても露訳のプロセスが文と文が対応しているので分かりやすいはずだと自負している。
幸い、一番心配していた体の用法は5か所ほどしか朱が入れて(訂正が)なく(ミスタイプなどはいっぱい見つかったし、若干よけいな接続詞は削られたりした)、本にすれば200ページぐらいの小冊子でその半分がロシア語という事を考えれば、日本人としてはいい方かなと思う次第である。原稿を書いたのが1年半前なのでその間に私の体の使い分けについて見る目も長足の進歩を遂げた(!?)ということかもしれない。彼が添削で指摘したのは、1~9までの数字は数字で書かずодин, четыреなど文字で書くという事と、接続詞にはさまれた前置詞は後の方では省略しないということである。例えば и для Артемьева и Синцоваではなく、и для Артемьева и для Синцоваと書けということである。また「2回~する」のдва раза はдваждыと直された。参考のために彼が朱を入れたところを次に示す。このサイトでは朱で表示できないので[]に代えた。最初のはрекомендоватьが完了体・不完了体同形なのでどちらでもいいやと思っていたら直された。完了体のつもりなら、はっきりと完了体で示せということらしい。スペルミスが多いのはお恥ずかしいかぎりである。
問)どんな日本のお土産がお勧めですか? Какие японские сувениры вы рекомендуете купить?
答)私なら招き猫と達磨を勧めます。招き猫にはいろいろあって、右手を挙げているのは金運を招き、左手は万客到来、両手ならどちらもとなります。また黒猫は厄除けです。達磨はインド人の禅宗の創始者で、むっつりとした顔をした赤い像で、目の代わりに白い丸がある。ダルマは福を招きます。ダルマの気を引くために、目を一つ入れ、念願成就のあかつきにはもう一つの目を書き入れます。
Я бы [по]рекомендовал вам купить манящую кошку и дхарму. Эти кошки бывают разные. Одни поднимают [правую лапу], что, говорят, зазывает в дом денежную удачу. А другие – лев[ую], много посетител[е]й. [Если подняты обе лапы, это и к удаче и гостям]. Чёрная манящая кошка – это талисман от несчастья. Дхарма происходит от индийского основателя дзэн-буддизма. А это для нас простая красная статуэтка с хмурым выражением и с белым[и] окружностями вместо глаз. Дхарма приносит сча[с]тье. Чтобы его заинтересовать, на лице Дхарма рисуют сначала один глаз, и лишь после того, как Дхарма исполнит желание, ему подрисовывают второй.
 ちなみに、ヒサムヂーノフさんの原稿に私が朱を入れたところを示す。
На него ответил флагман японского флота броненосец Дзюй-Дзе-кан[Адзума-кан (Стон Уол был переименован в Адзума-кан, а еще существовал Рюдзё-кан)], который не так давно принадлежал американскому флоту южан и носил название «Stone Wall». これは明治の初めに日本の政府が保有していた軍艦についての記述である。彼はこの本の中に私の原稿の日本人気質に関するものを引用して紹介してくれた。私の本が出る見込みがない以上、幻の引用に終わりそうである。ちなみに同氏には、「北海道函館のロシア人――余白のメモРусские в Хакодате, или заметки на полях」(極東大学出版部、2008年、ウラジオストーク)、「ロシア的長崎――稲佐での最後の停泊Русский Нагасаки или последний причал в Инасе」(極東大学出版部、2009年、ウラジオストーク)、「ロシア的日本 Русская Япония」(Вече, 2010, Москва)他の著書があり、日本のロシア人も含めて外国のロシア人が研究テーマのようである。ホームページは、http://khisamutdinov.ru/forum/などであり、ご興味ある方はどうぞ。
設問)「悪い方のじゅうたんの色は何色だったか?」をロシア語にせよ。

Posted by SATOH at 2011年10月20日 05:18
コメント

(1) Каков был цвет
плохого ковра ?

(2) Какого цвета был
ковер плохого
качества?
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(2)が正解に近いと思いますが、これだと「質の悪い絨毯の色は何だったか?」ということでどちらのほうがという意味が訳されていません。私の答えは、Какого цвета были ковры, что хуже?
関係代名詞にчтоを使ってみた。この場合主格と対格で使うのが標準的用法で、対格を除く斜格(主格以外の格)で使うの俗語的用法で勧めない。この他に前の文全体を受ける関係詞としてのчтоの用法を覚えておくと非常に便利である。これは露和辞典などにも文例があるが、それ以外の例を挙げる。По сути, сфера повседневности в большей степени именно конструируется исследователем, что в целом соответствует и современным тенденциям в отношению в целом к историческому процессу.(本質的に日常性の分野はかなりの程度研究者によって構築され、それは全体として史的過程に対しての現代の傾向にだいたい一致する)

Posted by カジューシャ at 2011年10月20日 13:15

『ロシア人の疑問』,出版されるのを楽しみにしております。まさに知りたかったことですから。

Какого цвета был ковёр плохого варианта?
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вариантを入れることで「~の方の」という意味を出そうとしたということは理解できますが、この単語は草案(ドラフト)という意味で使うのが普通です。この時勢では「ロシア人の疑問」は出版の可能性は限りなくゼロに近いと思います。

Posted by メイ at 2011年10月20日 20:32

Какого цвета был кавёр нехорошего.
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基本は押さえているのですが、品質の悪いのとそうでないのとどちらをという観点がこの訳文では出ていないと思います。

Posted by ろんろん at 2011年10月21日 01:36
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