2011年10月18日
●和文解釈入門 第151回
ロシアの宇宙飛行士は案外ゲンをかつぐようである。これは未知の危険に直面せざるを得ない職業として当然のことなのかもしれない。出発前には必ず「砂漠の白い太陽Белое солнце пустыни」という映画を見るのがしきたりになっているという。これは1969年の映画だが、当時最初は内容的にお蔵入りとなった。それで監督のレオーノフは出発前の宇宙飛行士の気分を高揚させようとして、この映画を小数の宇宙飛行士たちに見せたところ評判がよく、その噂はブレジネフのところまで届いた。ブレジネフもこの映画を見て気に入り、全国上映が許されたというものである。一度見た宇宙飛行士の中には2回見るのは嫌だという人もいるのは当然で、あるときこの映画を見なかった宇宙飛行士の出発が取りやめになったことがある。それからは必ず出発前に上映され、宇宙飛行士は何度でも見るという。
ロケットに乗り込む前、宇宙服を着てから、宇宙飛行士たちはバスでロケットのところまでゆくのだが、その短い時間(5分くらいか)に一度バスから出て、バスの後輪におしっこをかけるという。これをна колесоという。これはガガーリンが始めたことで、彼のロケットには飛行時間が短い(108分)こともあってトイレがなかったからだとも言われている。これがしきたりとなったわけだ。大して面倒なことでなければしきたりを変えないという気持ちは分かる。宇宙飛行士もロケットに乗りこんでから宇宙船のトイレАСУ (ассенизационное устройство)に行けるのは6時間後というから分からないわけでもない。
軌道はорбитаで間違いではないが、これは天体、電子、宇宙船のように何かの回りを回るという前提がある。ところが日本語の軌道には宇宙船のтраектория сближения接近軌道のように空間を移動する点あるいは物体の線という意味もある。これはтраекторияといい、分かりやすい例で言えば弾道もそうであり、この軌跡は空間でなく平面上にある。
設問)「ナースチャは他の誰よりも日本語が出来たし、それほど正確ではないとはいえ、ぶっつけ本番で通訳することが出来た」をロシア語にせよ。
(1) Настя владела
японским языком
лучше всех других.
Причем, хотя не так
точно, она умела
переводить прямо
без репетиции.
(2) Настя была самым
способным человеком
на японский язык
среди других всех.
К тому же, она могла
делать устный перевод без
предварительной
подготовки.
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(1)の方がいいと思いますが、惜しいのはбез репетиции(リハーサルなしに)のところです。そこがなんとなく訳がぎこちない感じがします。私の訳は、Лучше других японским языком владела Настя, она хотя и не очень точно, а могла переводить прямо с листа.
НастяはАнастасияの愛称。「ぶっつけ本番」はс листа = без предварительной подготовки, сразу (переводить, петь, играть)といい、文字通りの意味は紙に書いてあるものを見ながらということである。力点はаにくる。
「ロケットに乗り込む前に一度バスから出て、バスの後輪におしっこをかけるという。これを
на колесоという」
へぇ~,人類最先端の宇宙飛行士がそんなことをするんですか。その時のロシア語の言葉まであるなんて!驚きました。
Настя лучше всех владела японским языком, хотя и не очень правильно, но она умела перевести без предварительной подготовки.
без предварительной подготовкиの代わりに,прямо на месте по нуждаемости は無理ですか。
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大体いいのですが、переводитьとした方がよいと思います。これで繰り返しの意味が出ます。уметьは練習などでできるようになるという意味で、語義から不定動詞や不完了体不定形と結び付くのが普通です。уметьの後に完了体が来れば、これは古い用法か口語的な用法でмочьの意味となります。по нуждаемостиとは言わないでしょう。по необходимости, при необходимостиは書き言葉で使います。
Настя смогла говорить по-японсий, чем лучше другие, а хотя её выражение не так точное, она смогла переводить в исполнени без подготовки.
少々むずかしかった です。
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сомглаと完了体過去形を使わずに、この場合は繰り返しの意味のговорить自体にも話せる、話す能力があるという意味がありますからговорилаとした方が自然です。
ありがとうございました。今回は自信をもって完了体の例示的用法をつかった「つもり」だったのですが,撃沈でした。ぶっつけ本番は何度かあったはずだし,「不定期にそういう場があった時にはぶっつけ本番で通訳できた」と考えたからです。уметьとмочьもだいぶ考えました。まだまだ精進ですね。